第十一話 特務機関ファフニール 1 女隊長カサンドラ
「その鳥は、青霊鳥じゃないんですか!?」
僕の声に、その紅い髪の女性が振り向いた。
うねるようなボリュームの紅い髪。眼鼻だちの整った美人だけど、目つきが強く冷たい感じを与える。
鎧の感じが一人だけ豪奢で、隊長格だと思われた。銀色の鎧を身にまとっているが、左腕だけ黒いガントレットを嵌めている。
紅髪の女性は、柄に鎖のついた剣を引き抜きながら、傍の兵士に言った。
「治癒しておけ」
「は」
紅髪の女性が、改めてこちらを見る。
「――で、お前たちは何者だ?」
「貴女たちこそ何者ですか? それは青霊鳥で、その鳥は禁猟生物のはずなんじゃないですか?」
紅髪の女性は冷たい目つきで、僕を睨んだ。
「お前たちには関係ない。命が惜しければ、何も見なかったことにして此処から立ち去れ」
「関係ないわけないでしょう! 青霊鳥がいなくなった事で、ファイアー・ジャッカルが大量に移動して山火事が起きた。火事は街まで広がりそうだったんだ。貴女たちのやってることは、街にまで被害を与えることだ!」
その時、背後の茂みが動いてランスロットたちが姿を現した。
「どうしたクオン、声がしたが――」
ランスロットが、兵士たちと倒れてる青い鳥を見て、顔色を変えた。
「何者だ、密猟者か? それが禁猟指定の青霊鳥だと判っててやってることだろうな?」
ランスロットは凄みをきかせながら、紅髪の女性に言った。
「チッ、まだ仲間がいたのか……面倒な」
「隊長、治癒が完了しました」
「うむ」
青霊鳥を治癒していた兵士の報告を受けると、紅髪の女隊長は大きな収納珠を取り出した。光を当てると、青霊鳥がその中に収納されてしまう。
「待て! 青霊鳥を獲るな!」
ランスロットの声に、女隊長は睨みをきかせた。
「仕方ない。名乗らぬつもりだったが、我々の存在を教えてやろう。我々は帝国特務機関ファフニールの命で動いている特別部隊だ。私は隊長のカサンドラ。いいか、我々のやっている事は国家の命でやってることだ。冒険者風情が口出しをするな」
カサンドラ、と名乗った女隊長の言葉に、ランスロットが驚きとともに黙る。
それ以上、声が上がらないのを見ると、カサンドラは兵士たちに命じた。
「行くぞ」
「待ってください!」
僕は思わず、声をあげた。
「国のやる事なら――街が被害を受けてもいいっていうんですか? 国家なら、国民を守るべきなんじゃないんですか?」
「国家の繁栄には、大きな構造が絡んでいる。些末なことにこだわっていては大事はなせん。多少の被害はやむをえまい」
カサンドラはそう言うと、その唇に薄笑いを浮かべた。
その時、僕の背後からエリナさんの囁き声がした。
「クオンくん」
「どうしました?」
「……特務機関ファフニールというのは、私たちを転生させて、殺そうとした研究機関だ」
僕は息を呑んで、思わずエリナを振り返った。
エリナは眼鏡の奥で、真剣な眼つきを見せて頷く。
「多少の被害……」
あの女隊長の理屈で言えば、僕らが巨大ワニに殺されかけたのも多少の被害の範疇か?
やる側は、被害を受ける側の痛みなど気にしない。
そして自分たちのやる事が、いかにも正当であるような理屈をつける。
「いいか。判ったなら、この事は他言無用だ。――よし、行くぞ!」
カサンドラが背中を向けて歩きだす。
僕はその背中に、怒りを覚えた。
僕は地面を掴み、礫を作る。
――放ち投げ!
「なっ――」
僕の投げた礫が、カサンドラの腰にある収納珠に当たり宙に飛ばした。
「エリナさん!」
「うむ!」
エリナが念動力を使い、収納珠を手元にひきよせる。
収納珠を手にしたエリナを、カサンドラが睨みつけた。
「貴様ら! ……自分たちが何をしてるのか判ってるのか?」
「充分に判ってます。あなただがたは非人道的――いや、ヒトをヒトとも思わない残忍な実験をしている人達だ。……あなたがたに青霊鳥は渡しません!」
僕の言葉を聞いて、カサンドラは顔を歪めた。
「貴様ら……」
カサンドラが右手を、ピクリと震わせた。
「国家に逆らう事は、死罪に値する!」
カサンドラの鎖剣が、エリナ目がけて飛んできていた。
速すぎる! 僕の移動じゃ間に合わない。
が、その鎖剣が途中で止められた。
「――いいぜ、クオン!」
剣を止めたのは、ランスロットの剣だった。
愉快気に不敵な笑みを浮かべている。
「俺は…お前の判断を信じるぜ!」
「ちょっと、ランスロット! 国家に逆らうってことは、政府を敵にまわすってことだよ!」
ミレニアが声をあげる。
それに対して、ランスロットが答えた。
「いいじゃねえか。元々、冒険者なんてのは、国に従ってるわけでも保護されてるわけでもない。俺は、俺の信じるに足るもののために動く」
「ランスロット……」
ランスロットは、笑みを浮かべたまま言った。
「冒険者が、心の自由を失っちゃお終いだろ」
ボルト・スパイクの面々が、呆然とした表情でランスロットを見つめる。
が、ガドが口を開いた。
「まあ、リーダーがそう言うんなら……ついていくしかねえだろ」
「まったく……世話のやける人ですね」
スーが続けて苦笑する。
ミレニアが怒ったような顔をした挙句、怒鳴り声をあげた。
「もう! どうして、みんなして考えなしなの! 此処は引き下がって、後から奪うとか――色々、作戦たてて奪取する方法だってあったじゃない!」
「そういや……そうか。さすが、ミレニア」
笑うランスロットに、ミレニアが怒る。
「さすが、じゃないわよ! もう……こうなったら、やるしかないじゃない!」
ミレニアが手の中に魔法杖を出す。
真っ先に戦闘準備してる感じだ。
カサンドラが声をあげた。
「なんとしても収納珠を奪い獲れ! 抵抗する者は――殺しても構わん!」
カサンドラの一声で、兵たちが動き出した。
ランスロットが笑う。
「ま、そうくるよな」
ランスロットは切りかかってきた剣を躱すと、その兵士を蹴り飛ばした。
「みんな! できたら――殺さないで!」
僕は声をあげた。
「おいおい、また面倒なことを……」
「それが――クオンさんの方針…ってことですか?」
ガドに続けて、スーが口を開く。
その言葉に対し、キャルが声をあげた。
「それが、クオンの優しさ……だから」
――優しさ、なんかじゃない。
ただ……やっぱり、人を殺してしまうと重いものを感じるからだ。
みんなには、それを背負ってほしくない――それだけだった。




