5 二人で買い物
実は……女の子と二人きりなんて、今までになかったことで緊張していた。
「……っていうか、キャルと二人で、凄く嬉しいかも…」
僕はうっかり本音を洩らした。
キャルがびっくりしたように、こっちに顔を向ける。
「い、いや、エリナさんがいるのが邪魔とかじゃなくて、三人でいるのが自然だったから、なんか二人でいるのが貴重でとても嬉しいな――って……」
なんか、途中で何を言ってるのか、自分でも判らなくなった。
「わたしも……嬉しいよ」
キャルがぼそりと呟いた後、不意にこっちを見上げて微笑みを向けた。
そのあまりの可憐さに、僕は息を呑んだ。
女の子と二人きりって言っても……ただ、それだけじゃない。
相手がキャルだから。
僕が、絶対に守ろうと思ってるキャルだから。
だから、こんなにドキドキするんだろう。
ずっと一緒にいたのに……今さらなのに――やっぱり、キャルのことを、改めて大事に想うんだ。
「――行きたい処、ある?」
「う~んと……新しい魔晶石が欲しいの。あと、食料とかも必要だよね」
僕は笑ってみせた。
「そうだね。じゃあ、行こうか!」
「うん!」
*
僕らはまず、ラモンさんの武具店に行った。
キャルはまず大き目の魔晶石を選ぶ。6万ワルド以上したが、キャルは迷わなかった。
「前に来た時は、買えなかったのにね」
キャルがそう言って笑う。
本当にそうだ。前に来た時は、僕らはほとんどお金がなくて、何も買えなかった。
それが、こうやって何とか欲しいものを手に入れようとしてる。
「僕たち、ちょっとずつだけど進んでるよね」
「うん。そうだね」
僕の言葉に、キャルも嬉しそうに頷いた。
「あとは魔晶石をつける杖なんだけど……」
キャルがずらりと並んだ杖を見ていく。と、足を止めた。
「わたし、これにしようかな」
それは杖、というより輪っかの形状だった。大きな指輪のように、頂点に魔晶石を嵌め込むらしい。全体を白く塗装してあり、お洒落な装飾も施されていた。
「――お、嬢ちゃん、それがいいかい? そりゃあ最近の流行りなんだよ」
カウンターに持っていくと、屈強な体格で髭のおじさんであるラモンは、にっと笑ってみせた。
「そうなの?」
「携帯がラクだし可愛いんでな。女性魔導士に人気だ――ん? 前に新人セットを買っていった坊主じゃねえか?」
「あの時はお世話になりました」
僕たちはラモンに頭を下げた。
「晴れて冒険者になったわけか。まあ、よかったな」
「はい。僕はナイフを見たいんですが――あと、スコップも」
「ナイフはあっちの列だよ。フフン、坊主、スコップとはなかなかだな。冒険者らしいチョイスをするようになったじゃないか」
ラモンがヒゲの口元を緩ませる。
「こういう奴がいいんじゃないか?」
ラモンが出してきたのは、長さ50cmくらいのスコップだった。
鉄の皿部と木の柄でできており、皿の部分は手より少し大きいくらいだ。
「スコップは手近な武器になるのはもちろん、野営の時や、敵から身を隠すための穴堀りに使用できる。小さな魔法弾なんかなら盾代わりに使えるし、山に分け入る時に草刈りや木を切り倒す斧代わりにも使える万能の道具だ」
「あ……まさに、そういう事を考えてたんです」
僕はラモンさんの言葉に頷いた。
どこかで聞いたことがあったが、ロシアでは兵士にスコップを持たせるという事だ。僕は家にある鎌よりも、スコップの方が持ち運びしやすいと思っただけだけど。
スコップは先端を入れる革袋つきで、購入することにした。
それと職人がちゃんと作ったナイフを見せてもらう。
「クオンはナイフ作れるのに、買うの?」
キャルが訊いてくるのに、僕は答えた。
「やっぱり、切れ味とか全然、別物だからね。僕はナイフっぽい形にはできるけど、ナイフが作れるわけじゃないんだよ。魔晶石を取り出したりする時に、やっぱりナイフって必要だなって思ったんだ」
僕は刃渡り10cmくらいの、柄が木製で握りやすいナイフを一本選んだ。
自分がナイフを持ち歩くようになるなんて、前世では考えられなかったけど、ナイフはナイフでちょっと心躍るものがあると僕は思った。
革製のベルトを買って、ホルダーを二つ着ける。
右側にスコップ、左側にナイフを装着して、僕はキャルに見せた。
「どうかな?」
「うん、カッコイイよ、クオン!」
キャルの声に、僕はちょっとテレた。
それとベルトがついている大き目の鞄を二つ購入する。
その時に、ラモンに訊いた。
「余ったり、捨てたりする端材ってありますか?」
「木のか? 鉄とかか?」
「できたら、どっちも。あったら分けてほしんですが」
ラモンはにっと笑うと、奥へ案内してくれた。
「何に使うか知らねえが、そういう自分で何か工夫する奴は好きだぜ。ここにあるのは端材だから、好きなだけ持って行けばいい」
「ありがとうございます!」
僕は買ったばかりの大きな鞄に、適当に木材と鉄の塊を突っ込んだ。
ラモン武具店を出ると、僕はキャルに言った。
「実はブランケッツ号を改造したいんだ。食料とかの買い出しはそれからでもいいかな?」
「いいよ。わたしも買った本読んで、魔刻したいと思ってたし。……クオンの傍で、見てる」
キャルがそう微笑む。
やっぱり可愛いすぎるよ、キャル。ベルトに着けた魔法輪も、凄く似合ってる。
そんな事で内心ドキドキしながら、僕らは街を並んで歩いた。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦
「――なあ、こんなに急がなくてもいいんじゃねえか?」
馬車を操る鼻ピアスのカザンの言葉に、カリヤは苛立たし気に言い返した。
「馬鹿野郎! あいつらは、あの妙な乗り物であっという間に現地へ行っちまうんだ。奴らが出発するのが昼過ぎだから、それまでに先回りしてねえと」
「けどよカリヤ、先回りしてどうするつもりよ?」
眼の周りに火のペイントをしたゲイルが、カリヤの向かいから訊ねる。
カリヤは黒牙のマスクのまま、声をあげた。
「……判らねえが、何かいい方法があるはずだ。あのクオンに痛い目を見せる方法がな――。しかしまず先に、ファイアー・ジャッカルの牙を拾う」
カリヤはマスクの上の眼を光らせた。
樹海の入り口に到着すると、まだ片づけられてないファイアー・ジャッカルの死骸が転がっている。カリヤはその一つを蹴とばすと、忌々しそうに呟いた。
「チッ、どいつもこいつも黒焦げじゃねえか。どっかに、もうちょっとマトモなのはねえのか?」
「おい、カリヤ! こっちの奴らは剣で斬られたらしいぜ。身体が残ってる」
ゲイルの呼び声に、カリヤはそっちへ向かった。その辺の死骸は、確かに身体が残っている。カリヤは眼を細めると、死骸の口を開けさせ、牙をもぎ取った。
カリヤたちは焼け焦げた跡の残る樹海に分け入った。
しばらくすると、まだ燃えてない森林地帯に入る。うっそうとした雰囲気に、カザンが怯えた声を出した。
「お、おい…この辺ってモンスターの出没地域なんじゃねえのか?」
「それが、どうした」
カリヤが振り返りもせずに声を上げる。
――その時、横の森林から跳び出してきた影があった。
カリヤは瞬時に剣を一閃する。ぼたり、と落ちたのはゴブリンと呼ばれる小鬼のモンスターだった。
気づくと、傍の森林がざわざわと蠢きだす。気づくとカリヤたちは、ゴブリンの群れに囲まれていた。
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