4 魔導剣姫サラディーヌ
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ギルドから出て街へ行こうとしていた僕らを止めたのは、ランスロットの声だった。
「クオン、ファイアー・ジャッカルの異常発生についての調査クエストが出ているんだ。どうだろう、これを俺たちと一緒に受けてみないか?」
調査、というくらいなら戦闘がメインではないだろう。なのに合同で行くなんて、どういう事なんだろうと思い、僕はランスロットに問うた。
「調査っていうのに、そんなに大人数が必要なんですか?」
「カザイ区の奥にはディプリー樹海が広がっている。本来、ファイアー・ジャッカルはその奥に暮らす生物なんだ。その樹海を横断するのに、やはりモンスターとの遭遇が考えられるんだ」
ランスロットの答えに、僕はなるほど、と頷いた。
と、ランスロットはさらに神妙な顔をして言った。
「そもそもなんだが、ファイアー・ジャッカルはあんな人里近くまで来ることは滅多にない。というのも、その樹海には青霊鳥が住む、ディプレイ湖があるからだ」
「青霊鳥?」
僕は初めて聴く名前に、首を傾げた。
それに対して、スーが声をあげる。
「とても霊格の高い鳥なの。攻撃性は強くないけど、縄張りに入る者は霊力による麻痺の視線や念動力で攻撃されるわ。人間に対して自分たちから危害を加えることはないし、その霊格の高さから保護動物に指定されてる。狩りも許されてないわ」
ランスロットはそれに言葉を続けた。
「普通なら、ファイアー・ジャッカルはその青霊鳥の生息地を横断しないといけないから、人里まで来ることはないんだ。いや、ファイアー・ジャッカル以外のモンスターもそうで、青霊鳥が人里への防波堤になってるような処がある。なのにファイアー・ジャッカルが移動し、そのせいで山火事が起きたとなると――」
「青霊鳥に異変が起きたか……そして、また危険な事が起こる可能性が高い、ってことですね?」
僕の問いに、ランスロットは頷いた。
「このクエストはBランク相当のクエストで特別ギルドの方で依頼が出てるらしい。けど、緊急性が高いんで一般ギルドでも募集をかけてる、という話なんだ。なあ、クオン、山火事の消火にも関わったし、乗りかかった船で……俺たちで調査してみないか?」
ランスロットの言葉を聞いて、僕はエリナとキャルに向き直った。
「二人はどう思う?」
「私はいいと思うぞ。山火事の原因をきちんと調べるのは、とても重要だろう」
エリナはそう答えた。僕はキャルにも訊く。
「キャルは?」
「わたしも、いいと思う。クエストランクが上かもしれないけど……人数も多いし、ボルト・スパイクの人たちは信用できるから」
キャルはそう言いながら、ちらとランスロットたちを見た。
ランスロットにミレニア、スー、ガドがこちらを見ている。
「じゃあ、受けよう。――ランスロット、一緒に行こう。ただ、僕たちは街に行く用事もあるし、準備も必要だけど」
「いいぜ。緊急とはいえ、出発はすぐじゃなくていい。昼食後、此処から出発しよう。野営になる可能性もあるから、それも考えといてくれ」
「うん、判った」
ランスロットが微笑みながら、拳を突き出す。
僕はその意図を察して、自分の拳をそれに合わせた。
*
「まずは本屋に行きたいんだが」
というエリナの要望に応えて、僕らはまず月光堂書店に行った。
「いらっしゃい……あ、エリナね。久しぶり」
女店長のジョレーヌが、眼鏡の奥からこちらを見た。
書店は相変わらず凄い本の量で、天井まだある書棚の間を縫って、僕らは奥のカウンターまで近づいた。
「ジョレーヌ! これ、面白かったよ~、もう……本当に楽しんだ!」
エリナはそう言うと、一冊の本を取り出した。前に来た時、エリナが貰ってた本だ。
ジョレーヌはほとんど表情を変えないで、エリナに答える。
「そう、それならよかった。…気に入った作品あった?」
「もう、断然、『魔導剣姫サラディーヌの後悔』! これだよ~」
エリナは本を胸に持ったまま、恍惚の表情を浮かべる。僕は思わず訊ねた。
「そんなに面白かったんですか? どんな話なんです?」
「それはだね!」
そこからエリナが凄い勢いで、話してくれた。
「とある貴族の令嬢として育ったサラディーヌが、社交界で男前の貴族の男と出会う。二人は恋に落ちて結婚が決まるんだが、実はその男は領地経営に失敗した破産寸前の貴族で、おまけに女たらしの浮気者だった。男の陰謀でサラディーヌの両親は事故で殺され、家は男に完全に乗っ取られる。
挙句、新しい女との共謀でサラディーヌも殺されかけるが、偶然にもサラディーヌは溺れかけたところを、片腕の女剣士に助けられた。サラディーヌは死んだものとして処理され、しかも新しい女を妻にしている男の姿を見て、サラディーヌは家を捨てて新しい生き方をすることを決断する。それでサラディーヌは片腕の女剣士に剣術を学び、自身が得意としてた魔法をそれに組み合わせる魔導剣士となるんだ。
そしてサラディーヌはサラと名前を変えて騎士団試験を受けて合格し、騎士団に入る。しかしそこで出会った美形の隊長とぶつかりあいながら、王宮の中で蠢く陰謀に巻き込まれる。そしてその陰謀は、元結婚相手の男もからんでいる、国際的な動乱へとつながっていくのだ――という、話だ!」
「な……なかなか、凄そうな話ですね――」
話の内容はともかく、エリナの熱量が凄い。
エリナはその熱量のまま、ジョレーヌに向き直った。
「ねえ、これ本当に続きが読みたい! この冊子自体が有志の集まりで出したものって言ってたけど、作者さんはジョレーヌの知り合いってこと?」
エリナの問いに、ジョレーヌは微かに赤くなりながら、斜め下を向いて眼鏡を触った。
「実は……あたしが書いたんだけど…」
「え~っっ!!!」
エリナは飛び上がらんばかりに驚いた。
「ジョレーヌが書いたの? ジョレーヌが作者様? 凄い、凄いわ、ジョレーヌ!」
「あ……いや…」
もうエリナはジョレーヌに向ける目つきが普通じゃない。ジョレーヌも戸惑いつつも、満更でもなさそうだ。
は、いいけど、これじゃあこっちの用事は一向に片付かない。と見て、僕は口を開いた。
「あの……キャルも本屋さんに用事があるって言ってたんだけど」
「あ、キャルさんね! キャルさんの本――」
ジョレーヌは我に返ったように顔を戻すと、カウンター席の裏側をごそごそ漁りだした。と、一冊のぶ厚い本を出す。
「はい、キャルさん。とっておいた『魔導汎用大全』はこちらです」
「あ! ありがとうございます!」
キャルは嬉しそうに、出された本を手に取った。
「あの~、僕もモンスターの能力とかを収めた図鑑とか欲しいんですけど――」
「あ、それなら――」
そんなこんなで僕もモンスター図鑑を選んでもらって、本を購入した。
今までの戦いで判ったが、モンスターの能力を知ってると知らないでは大違いだ。だから事前に勉強しておきたいと思ったのだ。
本を選んでしまうと、エリナが言った。
「せっかくだから、二人で買い物してきたらどうだい? 私はもうちょっと、ジョレーヌと話したいし。午後の集合にはちゃんと行くから」
「わかり……ました」
僕は突然のことに、答えながらキャルを見た。
「じゃあ……行こうか…」
「うん……」
僕らは並んで本屋を出た。
一緒に肩を並べて街を歩くけど――なんか、何を言ったらいいのか判らない。
ちょっとキャルを見ると、キャルもうつむきがちに歩いている。
「な――」
僕がちょっと声を出すと、キャルが凄い勢いでこっちを見た。
僕の方がビックリする。
「なあに?」
「いや……なんか…二人でいることって、今まであまりなかったね。って、言おうと思っただけ…」
キャルは眼を大きく開いた後に、顔を赤らめてまた視線を下に向けた。
「そ……そうね。……三人の方が…よかった?」
「い、いや、そんなことないけど!」
僕は慌てて、キャルに答えた。




