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3 調査クエスト


   ♦   ♦   ♦   ♦   ♦   ♦   ♦   ♦



 カリヤはロウが差し出した、牙を彫った黒いマスクを凝視した。


「……なんだ、そりゃ?」

「大戦時、魔面兵(マスカレイダー)という兵団がおってのう。そいつらは魔面という魔道具を被ることで、己の力を強化しておった。しかしそれは無意識領域を解放するために、自身が傷つけられたりすると、精神に深いダメージが残る。戦争が終わった後、強化機能を残しつつ、負担を軽減する研究がなされたが、これはその時の試作品らしい。口元だけ覆うことで、負担を軽減する方法を試したようじゃ」


 ヒッヒッ、とロウは薄気味悪い笑い声をあげた。


「それを着けると、力が強化されるってことか?」

「まあ、そうなるの」

「そいつを着けてた奴はどうしたんだ?」

「攻撃衝動が強くなりすぎてな、勝てない相手に無謀な勝負を挑んで死んだよ」


 ロウはまだ笑いを浮かべている。

 カリヤはベッドから起きると、歩いてロウの傍までいった。


 ひったくるように、黒牙のマスクを奪う。


「オレによこせ」


 カリヤはロウを睨んだ。ロウは薄笑いを浮かべる。


「治療費とマスク代、結構な額になるがの」

「払ってやる。これはオレがいただく」


 カリヤは黒牙のマスクを装着した。

 マスクといっても後頭部部分まで金属製であり、ほとんど仮面に近い。


 カチャリ、と後頭部を嵌め込むと、カリヤは鏡を見た。


「フン、いいじゃねえか。しかし、本当に歯を戻す方法はないのか?」

「フ~ム、最近、ファイアー・ジャッカルの群れが駆除されたという話を聴く。あの歯を移植することなら、試してみてもいいが」


 カリヤはロウの顔を見た。


 この世界には治癒士がいるため、基本的には医者という存在は珍しい。医者というのは特殊な外科処置をしたり、治癒術に加えて薬を使ったり、病気の原因を遡及したりできる存在の事である。つまり治癒術以外の治療法を持ってるのが、医者なのだった。


このドクター・ロウが『闇医者』と呼ばれてるのも、治癒術以外の治療をするからである。それは切れた腕に、モンスターの腕をくっつけるなどの禁断治癒術の行使だった。


 無論、人間の腕に普通、モンスターの腕などつなげはしない。しかしロウは、独自に開発した薬品を使って被験者の免疫拒否を抑制し、さらに霊術で本人とモンスターの身体の一部を霊的に等位にする。その上で治癒術を施すことで、何例かモンスターの身体の移植に成功しているのだった。


 しかし成功もあれば失敗もある。ひどい時には移植したモンスターの細胞が増殖して命を落としたり、より最悪なケースでは本人が怪物になってしまった――という話も聞いていた。


「……ファイアー・ジャッカルの歯を着けると、どうなる?」

「判らん。そのまま普通に済むかもしれんし、奴らの火炎を吐く魔能が移る可能性もある。無論、歯から細胞が増殖して、脳までジャッカルになる可能性もあるがの」


 そう言った後に、ロウはヒッヒッヒと、薄気味悪い笑い声をあげた。


 その時、治癒院に二人の男が入ってきた。


「――お、カリヤ、起きたのか!」


 声を上げたのは、眼に火のペイントを施したゲイルだった。

 と、隣にいる鼻ピアスをしたカザンが、気味悪そうな声をあげた。


「お、おい、カリヤ……なんだい、その黒いマスクは?」

「フン、これがオレの新しい姿だ。お前ら、最近、ファイアー・ジャッカルの群れが駆除されたって話を知ってるか?」


 カリヤの問いに、二人は首を振った。


「いや、オレたちも負傷から治ったばっかりなんだ。あの野郎にやられてよ…」

「けど、そういう話なら、ギルドに行きゃ情報が掴めるんじゃねえか?」


 カザンの言葉に、カリヤは立ち上がった。


「よし、じゃあギルドに行くぞ。――ロウ、そのマントはお前のか?」


 カリヤは、壁にかかっている大振りの黒いマントに視線を向けた。


「いや、これも死んだ奴が残したもんじゃよ。わしには大きいんでの」

「こいつも貰っていくぜ」


 カリヤは黒いマントを手に取ると、バサッと翻して肩に羽織った。


「おい、行くぞ」

「あ、ああ……」


 黒牙のマスクに、大振りの黒マントを羽織ったカリヤの姿に気圧されながら、ゲイルとカザンの二人はカリヤの後をついていった。


   *


 フードを被ったカリヤは、ゲイルとカザンの背後に隠れるようにギルドの中に入った。


(クオンの野郎と顔を合わせたくねえしな)


 しかし冒険者には様々な格好の者がいるので、カリヤが特に目立つということはない。大勢の人込みまぎれて、カリヤはギルド内に入った。


「――ブランケッツのクオンだ!」


 不意に声が上がり、カリヤはビクン、と身を震わせた。声の方を見ると、扉からクオンが入ってきた。


 クオンは小柄で、華奢な少年にしか見えない。その後ろから、白いフードを被った少女、そして見事なプロポーションの眼鏡の女性がついてくる。


「おい、あれがブランケッツだぜ」

「じゃあ、あのガキが――『自在の』クオン?」


 傍らにいる冒険者たちが、噂をしている。カリヤはその話を聞いて、はらわたが煮えくり返る思いだった。


(何が『自在の』クオンだ! 奴は『能なし』のクオンだろうが!)


 しばらくすると、クオンたちは受付にいき、何事か話をしている。

 その間も、冒険者たちはクオンたちの噂をしていた。


「あのクオンって奴のおかげで、サガイ区が山火事から救われたらしいぜ」

「へえ~、街を救った英雄ってわけか。やるねえ」


(なんだと!? オレが寝ている間に、奴は山火事を消した? なんだそりゃ)


 クオンたちはあっという間に冒険者たちに囲まれた。

 どうやらクオンたちを称賛しているようだった。


「ブランケッツ、昨日はご苦労様。あなたたちのおかげで、私たちも特別報酬にありついたわ」

「街の火事も防げたしな。あんたたちは、英雄だよ」


 冒険者たちにそう言われると、クオンは照れながら言葉を返した。


「いえ、あの場にいた皆さんが、火事を消したし、ジャッカルも倒してくれたんです。僕らはちょっと早く着いただけですから」


 クオンの言葉に、カリヤは反応した。


(今、ジャッカルって言ったか? ジャッカルってファイアー・ジャッカルの事か? じゃあ、最近、ファイアー・ジャッカルの群れが駆除されたって――あいつがやった事なのか?)


 ギリ、とカリヤは歯噛みをした。


(なんだと、あの能なし野郎! オレが寝ている間に、てめえは点数稼ぎかよ!)


 カリヤは傍にいたゲイルに囁いた。


「おい、もう出るぞ。場所はカザイ区とか言ったな」

「あ、ああ」


 カリヤたちがギルドを出た直後、背後から声があがりカリヤは足を止めた。


「――クオン!」


 少し振り返ると、クオンたちがギルドから出てきていた。それを声をかけて止めたのは、いつか会った赤髪の剣士だった。


「クオン、ファイアー・ジャッカルの異常発生についての調査クエストが出ているんだ。どうだろう、これを俺たちと一緒に受けてみないか?」

「調査っていうのに、そんなに大人数が必要なんですか?」


 クオンの問いに、赤髪の剣士が答えた。


「カザイ区の奥にはディプリー樹海が広がっている。本来、ファイアー・ジャッカルはその奥に暮らす生物なんだ。その樹海を横断するのに、やはりモンスターとの遭遇が考えられるんだ」

「なるほど」


 カリヤはさりげなくゆっくりと歩を進めながら、廻り込むようにしてクオンの様子を探った。クオンはメンバーに相談している。


「判った、じゃあボルト・スパイクとの合同クエストに行こう」

「よし! 決まりだな」


 赤髪の剣士が声を上げた瞬間、カリヤは黒牙のマスクの中で笑みを洩らした。


(いいぜ、クオン……お前に地獄を見せるいい機会だ)



    *     *     *     *     *


 読んでいただき、ありがとうございます。☆、♡、フォローなどをいただけると、とても嬉しいです。

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