第十話 迫りくる影 1 ファイアー・ジャッカル殲滅作戦
「いや……違うけど」
僕は胸倉を掴むランスロットに、そう答えた。
「犠牲になるつもりなんかないよ。そんな勇ましくないんだ、僕は。ただ、ちょっと確認したい事があるんだ」
「なんだ?」
「ファイアー・ジャッカルって火も吐くみたいだけど、あんまり火を使って攻撃してないね。どうしてかな?」
「ファイアー・ジャッカルは茂みなんか潜む獲物を炙り出すために火を噴く。見えてる獲物に対しては、集団で襲い掛かるのが群れののやり方だ」
それを聴いて、僕は安心した。なにせ、牙は防げるが、火は防げない。
「そう、安心した。――じゃあ、エリナさん、僕にリンクをください」
「うん」
エリナが僕の額に指をあてる。
“これでいいですね?”
“うん、聞こえてるぞ、クオンくん”
「よし、じゃあ行ってきます!」
「お、おい! 本当に大丈夫なのか!?」
僕は不安げな声をあげるランスロットに笑ってみせた。
「大丈夫。ランスロットって、いい人だね。心配してくれて、ありがとう」
「い、いや……」
僕はキャルの方を向いた。
「じゃあ、キャル。一瞬だけ魔導障壁を解除して」
「わかった。……クオン、気を付けてね」
僕は頷いて見せた。
魔導障壁が切れる。と同時に、僕は駆け出した。
飛び出した僕に、ジャッカルどもが襲いかかってくる。僕は硬化したまま、皆の処から距離をとれるところまで走った。
「グアゥッ!」「ガルルル……」
次々とジャッカルが襲い掛かって来る。
僕は立ち止まると、棒剣を使って襲ってくるジャッカルを叩きつぶした。
しかし数が多い。段々、前が見えなくなってくる。
“大丈夫か、クオンくん!”
“大丈夫です。群れは僕に集中してますか?”
“ああ、完全に君の周囲に集中した”
よし、じゃあ今だ。
僕はしゃがんで地面に触れた。軟化!
突如、プリンのように柔らかくなった土壌に、僕の身体が落ちる。
頭まで落ちたところで、軟化を解いて頭上を土でふさぐ。
“今です、エリナさん! キャルと皆で一斉攻撃をしてください”
“判った!”
ほどなく、僕の上の地面から凄まじい爆音とともに、地響きがする。
それが少し続いた後、静かになった。
“エリナさん、うまくいきましたか?”
“うまくいったぞ、クオンくん。数匹残ってるのも倒した。全滅だ”
僕はそれを聴いて、足元の地面に足をかけた。
上に手を向けて、頭上の土を軟化する。
ゴム脚ジャンプ! 僕の身体は地中を跳ねて、地上に跳び出した。
僕の姿を見つけた皆が、走ってきている。ジャッカルは全滅したようだった。
「――っと」
地面に降り立った僕は、一息ついた。
と、走ってきたキャルが僕に抱きついた。
「キャ――キャル?」
「クオンのことだから心配ないって思ってたけど……犠牲になるつもりなんじゃないかって、ちょっと不安だった……」
キャルが僕の身体を抱きしめたまま、耳元で呟いた。
僕はそっとキャルの細い身体に触れると、キャルに言った。
「不安にさせて、ごめん。けど、僕は犠牲になんかなるつもりはないんだ」
キャルが少し身体を離して、僕を見つめる。
僕は少し涙目のキャルに、微笑ってみせた。
「だって、僕はずっとキャルを守るつもりだから。死んだりしないよ」
「クオン……」
キャルが再び、僕を抱きしめた。
僕もそっと、キャルを抱きしめ返した。
「――っとお、山火事より熱いんじゃないの、この辺!」
「ほんと、あっついわねえ!」
ふと、ランスロットとミレニアの声があがり、僕たちは我に返った。
見ると、ランスロットたちパーティーと、ギルドから送られてきた魔導士十人が、にやにや笑いながら僕たちを見ている。
慌てて離れる。キャルの顔が赤くなっていた。
多分、僕もだ。
ランスロットが歩いてきた。
「クオン、お前の作戦のおかげで、ファイアー・ジャッカルを一掃できた。大した奴だよ、お前は」
「いや、ジャッカルを倒したのは、皆さんの力だから」
僕は魔導士たちを見回した。男女入り混じった多彩な面子だ。皆、微笑んでいた。
「みんなの力で消火もできたし、ありがとうございました」
「礼を言うのはこっちだよ。ブランケッツのクオン」
魔導士の中の一人、男性魔導士が僕にそう言った。
*
街の人たちの処に消火した旨を伝えにいくと、街の人たちが歓声をあげた。
「ありがとう! 冒険者の方々!」
「助かった!」「街を守ってくれて、本当にありがとう!」
魔導士やランスロットたちが、街のみんなから感謝されている。よかった、と思った。
ふと、僕の傍に小さな女の子がくる。
最初見た時、お母さんの傍で「おうち、燃えちゃうの?」と訊いてた子だ。
「冒険者さん、おうち守ってくれて、ありがとう」
にこ、と女の子が笑った。
僕も思わず笑い返した。
「よかったね。ママと仲良く暮らしてね」
「うん!」
そう言うと、女の子は後ろにいる母親の処へ戻っていった。母親が僕らに頭を下げる。僕も笑って礼をした。
帰りは頼んで、ブランケッツ号を馬車に引いてもらうことにした。
ブランケッツ号で帰るには、ちょっとクタクタだったのだ。
ガドとスーは馬車の方に乗り、ランスロットとミレニアが、けん引されるブランケッツ号に乗っていた。
「こんな景色も悪くないな」
「めちゃくちゃ目立ってるけどね」
ランスロットの上機嫌な声に、ミレニアが続けた。
僕は進行方向に背を向けるように、座っている。
隣にはキャルがいた。
「まあ、クオンが凄い奴なのはよく判ったよ。ブランケッツはこれで、また注目のパーティーだな」
「けど、キャルの魔法も凄かったよ。最後の電撃の花! あそこにいた中で、一番の威力だったかも」
ランスロットとミレニアの話に、キャルは恥ずかしそうに俯いた。
「上級魔導士なんだっけ?」
「いいえ……多分、下級です」
「そうなの? もう上位クラスに進んだ方がいいよ。キャルなら、原理の学習さえできれば、凄い魔導士になる」
ミレニアが意気込んで言った。と、ランスロットがエリナの方を向く。
「そういや、あんた、なんか透明になってたけど、あれも霊術?」
「いや、あれは異能」
「……なんか、ブランケッツって面白いパーティーだな。やっぱり、共同クエストやってみたいぜ」
ランスロットがそう言って、僕の方を見た。……らしい。
……僕はもう、実は疲れが出て、半分寝ていた。
「――よっぽど疲れたらしいな」
そんなランスロットの声を聴いたような……気がした。
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