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5 山火事の消火


 ブランケッツ号は、やがて森の「おでき」の根元部にたどり着く。


「此処をベルト状に伐採すれば、右側――街側への火災が止まるはずです」

「しかし、今から伐採をやったって、間に合う量じゃないぞ」


 ランスロットが困り顔で言った。


「間に合います。ランスロットと、そちらの――」


 僕は屈強な戦士を見た。


「オレはガド。戦士だ。伐採には、オレのアックスを使うか?」

「いいえ。ガドさんは、切った後の木を安全な方向へ倒してもらいたいんです。木を切るのは、ランスロットです」

「……俺が?」


 訝し気な顔のランスロットの前で、僕は一本の木に触った。


「軟化しました。剣で、振り抜いて切ってください。チーズを切るつもりで」

「よく判らんが……判った!」


 ランスロットは鞘に触れたと思った瞬間、剣を振り抜いていた。

 かなりの早業だ。この人は、できる。


「切れたはずです。ガドさん、押してください」


「お、おう」


 ガドが半信半疑といった顔で、木を押す。

 と、ぐらりとして、大木が倒れた。


「えぇ!?」

「そんな……凄いですわ」


 見ていたミレニアと、霊術士の女性が声をあげる。

 ランスロットが驚いた顔で、僕を見た。


「まったく、抵抗感がなかった。何をしたんだ?」

「木を軟化してるんです。ランスロットの腕なら、かなり早く切っていけるはず。どんどん、切りましょう。ガドさん、後は安全な右方向に倒していってください」


 ガドが不敵に笑った。


「ガドでいいぜ。判ったよ、クオン。お前の作戦でいこう!」

「ありがとう、ガド。――女性陣は、右側の森が開けてくるんで、水魔法で水をかけていってください」

「判ったわ」


 ミレニアが、腕を組んで笑みを浮かべた。


 それからの作業は早かった。

 僕が軟化する。ランスロットが切る。ガドが倒す。


 これをどんどん繰り返し、ベルト状に進んでいく。段々、コツが判ってきた。


 僕は手を触れると瞬時に軟化し、すぐにゴム脚ダッシュで次の木に触れる。

 軟化した瞬間にランスロットが剣を振り抜き、すぐに気力移動で追いつく。

 切った木をガドが倒し、ガドも気力移動してくる。


 こんなに息が合う形で作業できるなんて――


 僕自身、驚いていた。人と力を合わせるなんて、キャルとエリナ以外にやったことがなかった。――けど、僕にも人と合わせることができるんだ。


 やがて森の端に到着し、森の「おでき」を、根元で分断した。

 振り返ると――広めの『道』が、森の中にできている。


「へへ……やったな」


 ガドが笑った。さすがにランスロットとガドの二人は息が切れている。


「ああ。これなら、火も手前でとまるはずだ。――クオン、お前は大した奴だ」

「そんな! 実際に木を切って倒したのは二人だから。……二人がいたから、できたことだよ」


 僕は、ありのままを口にした。ランスロットが、息をつきながら苦笑する。


「フフ……お前は面白い奴だよ、クオン」


 面白い? 僕が? ……明らかに面白味のない人間だと自分では思ってるけど、異論は唱えずに、僕は疲労してる二人に言った。


「二人は休んでて」


 僕はダッシュして、ブランケッツ号を再び持ってくる。

 僕は後から来て、放水をしている女性陣に言った。


「じゃあ、みんなもう一度乗ってください。今度は上空から、水魔法を使うんです」

「判ったわ」


 女性陣が乗りこむと、僕もバーに腰かけて、エリナに言った。


「エリナさん、お願いします」

「判った」


 ブランケッツ号は宙に浮くと、僕は見上げているランスロットガドに声をかけた。


「もうすぐ、ギルドからの応援が来るはずです。その人たちの誘導をお願いします」

「判ったぞ!」


 ランスロットが、親指を突き出してみせた。


 ブランケッツ号は、宙を浮いて山火事のエリアに近づいていく。


「煙の上までいかないようにしてください、エリナさん」

「判った。キャルちゃんたちの水魔法が届くギリギリの処まで寄せる」


「この辺で大丈夫。じゃあ、キャル、いきましょうか」

「ええ」


 ミレニアとキャルが、水魔法で放水を行う。結構な水量だ。


「わたくしは二人の魔力を回復させますわ」


 霊術士の女性が、二人に手をかざして光を浴びせている。


「霊術って、そんな事もできるんですか?」


 僕がそう問うと、エリナが笑って答えた。


「そうなんだよ! 霊術士の霊体回復は、怪我を治療したりはできないが、気力や魔力を回復させることができる。あと、この前の君の麻痺を解いたのも、霊体回復だ」


「そうだったんですか!」

「それに、キング・バイパーを倒す時、少しだけキャルちゃんの魔力を回復したんだぞ」


 エリナがそう言うと、キャルも微笑した。


「エリナの回復がなかったら、最後の炎を撃ててなかった」

「そうなんだ。僕、そんな事も考えずに無茶ぶりしたんだね」


 あの時、腹の中にキャルが火炎魔法を使えなかったら、トドメをさせなかった。

 キャルはその前に、僕を守って防御魔法を使い続けてたから、本当にギリギリだったんだ。


「フフ……あなた達、とてもいいパーティーですね」


 霊術士の女性が、そう言って微笑んだ。

 霊術士の女性は、いつも笑ってるような細い目で、藍色の長い髪をしている。

 面立ちの整った、細身の美人だ。


「改めまして。わたくしは霊術士のスー。よろしくね、クオンさん」

「あ、はい。よろしくお願いします」


 僕が挨拶すると、放水しながらミレニアが振り返った。


「あたしの事は知ってると思うけど、魔導士のミレニア。そしてあたしたちは、『ボルト・スパイク』っていうパーティーなんだ。リーダーは、あの熱血漢」

「ランスロットですね」


 僕は笑ってみせた。

 金色の巻き髪を揺らして、ミレニアが言葉を続けた。


「あいつが、あんたたちを気にかけてたの、なんでかって思ってたけど……。わかったわ。あんたたちは、確かに面白いパーティーだわ」

「そうですね。とても凄い力を持ってる。――それに、それだけじゃない気持ちの確かさがありますね」


 ミレニアに続いて、スーがそう発言した。


「まあ、うちにはクオンくんがいるからな!」

「うん。……クオンがいるから」


 エリナとキャルがそう答えるのを、ミレニアとスーが微笑って聞いた。

 僕は何とも言いようがなく、黙っていた。


 が、眼下に森の方に近づいてくる馬車が見えて、僕は声を上げた。


「あ、ギルドから送られてきた人たちが到着したみたい。火も、もうちょっとで鎮まりそうだし、頑張りましょう」

「うん」


 馬車が止まると、ランスロットとガドのあとに、魔導士らしき人たちが10人ほど降りてくる。魔導士たちは、森に向かって一斉に放水し始めた。


 しばらく放水を続けてると、山火事が鎮静化してきた。白い煙があちこちで立っているが、もう火の手は見えない。


「もう、大丈夫そうですね。エリナさん、降りましょう」

「そうだな。なんとかなったな!」


 僕たちは全員で、自然に微笑みあった。

 ――と、次の瞬間、スーが険しい表情になる。スーは声をあげた。


「待って、何かが迫ってきてる!」



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