3 ハルトのディギア
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「じゃあ……始めたら?」
カエデの合図で、見合っていたカリヤとハルトは動きだした。
最初に仕掛けたのはカリヤだった。
カリヤが手から電撃弾を放つ。
ハルトはそれを、狼型のファントムで迎撃した。
が、それはカリヤも予想済みだった。カリヤが剣を抜いて、ハルトを急襲する。
気力に寄る肉体の強化度では、カリヤの方が勝っている。この速度に、ハルトはついてこれないはずだった。
「もらったぜ!」
まだ剣を抜きかけのハルトに、カリヤは斬りつけた。
――が、次の瞬間、ハルトはそこにいなかった。
「え?」
「位置入れ替え(ポジション・チェンジ)」
背後からハルトの声がする。
振り返った瞬間、その首筋を強打されて、カリヤは気を失った。
次に目覚めた時、カリヤは自分が空を見上げてるのに気づいた。
「これは……」
「あ、やっと起きた。ウケる~」
カエデの顔が、真上から覗き込んでくる。
悔しくなって、カリヤは跳ね起きた。
「くそ! ハルトの奴、何しやがったんだ! 急に消えやがって」
「え? 気づいてなかったの?」
ダルそうな眼で覗き込みながら、口元だけ笑みを浮かべたカエデが口を開く。
「なんの話だ?」
「あれはね~、ハルトの異能だよ」
「ディギ…ア?」
カリヤは眉根を寄せた。
「ハルトから伝言。『申し訳ないが、ディギアを使わせてもらった。今回の事は、一応、ギュゲスに報告しておく』だって」
「チッ」
カリヤは舌打ちした。
「ハルトのディギアは『位置入れ替え(ポジション・チェンジ)』。特定の対象と対象の位置を、くるん、と入れ替えちゃう能力なんだって。本人が言うには『地味な能力』。けどさ、ハルトは戦闘の時、凄く上手に使うんだよね~。気づいてなかった?」
カエデに言われて、カリヤはそういえばハルトが急に移動したりするように見えたことがあったと気づいた。
(あれが位置入れ替えだったのか……じゃあ斬りかかったオレと斬られる自分の位置を入れ替えて――オレの背後に廻ったわけか。クソッ、そんな手品に――)
カリヤは歯噛みした。と、同時に、ふと気づいてカリヤはカエデに問うた。
「そのディギアのこと、お前は知ってたのか?」
「ああ、もちろんね。だって、あたしもディギアあるし。転生者には出やすいらしいよ。カリヤはないんだね」
カリヤにはなんの兆候もない。カリヤは訊いた。
「お前のディギアは、どんな能力なんだ?」
「へへ……あたしのはまだ戦闘で見せてないもんね。ナイショ」
カエデは微笑を浮かべる。チッ、とカリヤは舌打ちをした。
状況が変わったのは、それからすぐだった。
ハルトと顔を合わせるのが嫌で、カリヤはダンジョン探索に行かなかった。
数日すると、カリヤはギュゲスに呼び出された。
(サボッたのが、バレたか)
忌々しい思いを噛みしめながら、カリヤはギュゲスの処に出向いた。
片眼鏡をかけたギュゲスは、平静な顔でカリヤに言った。
「カリヤ君、キミに訊きたいのだが……キミ、ディギアは目覚めたかね?」
てっきりダンジョン探索をサボっている事を叱責されると思っていたカリヤは、拍子抜けした。
「ディギア? いや、そんなもん、別にないけど?」
「そうか……」
ギュゲスは呟くと、傍らにいた部下を目で促した。
部下が革袋を持って、カリヤに差し出す。
「これは?」
「カリヤ君、キミは自由だ。それは当面の金、100万ワルドが入っている。何処へなりと行って、好きに生きるといい」
ギュゲスはそう言うと、カリヤに背を向けた。
「これは……なんだ? もう、オレはお払い箱ってことかよ!」
「これ以上投資しても、回収の見込みがなさそうなのでね」
ギュゲスがちら、とだけ振り向くとそう言った。
「回収ってなんだ!? オレは充分、働いてたろうが!」
カリヤが怒鳴ると、ギュゲスはゆっくりと振り返った。
「働く? あのモンスター退治のことかね? あんなものは、どうだっていいのだよ。小銭稼ぎは、冒険者どもにやらせておけばいい。キミは私の期待に応えてくれなかった。それだけのことだ」
「期待って…なんだ?」
カリヤの問いに、ギュゲスは片眼鏡の奥の眼を光らせた。
「異能だ――私は、ディギアを持つ、特殊能力のチームを作ることを考えている。君はその選に洩れた……それだけのことだ。用済みになったからといって、無暗に命を奪うような事はしない。君は、それだけの能力があれば、冒険者や傭兵として『普通』にやっていけるだろう。転生したこの世界で、楽しい第二の人生を送りたまえ。――それではさようなら、カリヤ君」
ギュゲスはそう言うと、再び背を向けた。
「ま、待――」
カリヤはなおも食い下がろうとしたが、二人の兵士がカリヤを脇から捕まえて部屋の外へと連れ出した。
そのまま連行されると、最低限の私物とともにカリヤは城の外に放り出された。
「おい、待てよ! クソッ! なんだってんだよっ!」
カリヤは怒鳴った。しかし、それに答える者は、何処にもいなかった。
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僕たちは、街に買い物に行くことにした
昨夜のことがあって、少し恥ずかしかったが、気分を変えられるようにエリナとキャルが気を使ってくれたのだろう。僕らはブランケッツ号でギルドまで行くと、そこにブランケッツ号を預けて街に出ようと思っていた。
が、ギルドが何か騒がしい。人の出入りが多く、ざわざわしている。
僕たちは、中に入ってみた。
「――現地に行ける方、もうすぐ馬車の用意ができます! なるべく水魔法使える方が中心でお願いします!」
ミリアが声を張り上げている。
僕らはミリアに近づいた。
「どうしたんですか?」
「あ、ブランケッツの皆さん! サガイ地区の方で大規模な山林火災が発生して、ギルドに消火要請が来ているんです。それで水魔法を使える方を中心に人を集めて、現地へ行く馬車を5分後には出す予定です」
「人は集まってるんですか?」
「それが……もうダンジョンなどの各クエストに行った人が多くて。10人ほどは集まってるんですが、サガイ地区は馬車で行っても1時間はかかる場所。火の勢いが強くて、到着する前には街が全焼するんじゃないかと心配してるんです」
ミリアの話を聞いて、僕は言った。
「判りました。僕らも協力します」
「ありがとうございます。お願いします」
ミリアは僕らに頭を下げると、あわただしく何処かへ駆けて行った。
「どうするつもりなんだい、クオンくん?」
「うん、ブランケッツ号なら馬車より早く行けると思って。ただ、僕らだけで行っても――」
僕がそう言いかけた時、不意に背後から声がした。
「――よう、大変な事になったな。お前たちも現地へ行くのか?」
振り返ると、そこにはランスロットとその仲間たちがいた。
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