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5 白猫少女との出会い


 男二人がのびてしまうと、僕は白猫少女を見た。


「に……逃げようか?」


 少女が頷く。僕は思わず手をだすと、その手を少女が握り返した。

 僕たちは手をつないで、その場から逃げ出した。


 しばらく走って、河原まで来る。

 地下水道の入り口まで来ると、そこに隠れた。

ふと気づくと、右手には奴から取った剣を握ったままだった。


「堅い……」


 ふと、少女の口から言葉が洩れる。

 あ、そうか。堅くしたままだった。堅さを解除する。


「いてっ!」


 途端に、右手に痛みが走り、僕は剣を落とした。

 掌が少し斬れている。


「大丈夫?」

「だ、大丈夫。ちょっと剣を持ってるのを忘れてた。あははは」


 僕はなんでもない、というサインのつもりで笑ってみせた。白猫少女は、心配そうな顔で、僕を見つめていた。


 青い大きな瞳が僕を見つめている。

 凄く可愛い子だ。僕はドキドキして、思わず目を逸らした。


「だ、大丈夫だよ。殴られたりするのも慣れてるから大丈夫。君こそ、あんなに叩かれて痛くなかった?」

「痛かったけど……助けてくれたから…もう大丈夫。ありがとう」


 少女が微笑む。

 よかった…。こんな風に笑えてもらえて。

 勇気なんか全然ない僕だったけど、この子を助けて本当によかった。そう思えた。


「君、奴隷なの?」


少女は頷いた。よく見たら、着ている服も薄っぺらい白のワンピースきりだ。

 助けたはいいが、この先どうしたらいいんだろう?


「何処か、還る場所はあるの? 逃げ込める先とか」

「……ない」


 絶望的な表情で、少女はそう言った。

 僕らは思わず、二人して黙った。


「……ごめん。僕も見た通りの浮浪者で…君の助けになれると思えないけど…」

「そんな事ないわ! あの人たちから助けてくれただけでも…本当に感謝してる」


 少女がそう言って微笑んだ。僕は、思わず口を開いた。


「君、名前は?」

「……キャル」

「そう。僕は……千藤久遠」

「チトークオン?」

「判りづらい? じゃあ、クオンでいいよ」

「クオン」


 そう言うと、少女は僕の名前を嬉しそうに呼んだ。

 女の子に、こんな風に名前を呼ばれたのは久しぶりだ。


 僕は、意を決した。この子には、本当の事を言おう。


「キャル、聞いてほしいんだ。僕は実は、この世界の人間じゃない。他の世界から転生してきた人間なんだ」


 キャルが驚いた顔をしている。けど、僕は勢いにまかせて、これまでの経緯を喋った。キャルは驚き――そして、静かに話を聞いていた。

 話し終わると、キャルは静かに目を伏せた。


「判った、クオンの事。クオンは転生者(リィンカー)なんだね」

「リィンカー?」

「よその世界から転生してきた人の事をそう言うの。聞いた事はあったけど、会うのは初めて」


 キャルはそう言って微笑んだ。

 今までより、ずっと安心した感じの笑顔だ。まるでふわふわした白猫のようだ。

 そのあどけない感じが、凄く可愛くて僕はドキドキした。


「転生者は異能――ディギアを持つことがあるって聞いたことがある。クオンのその身体を堅くしたり柔らかくしたりする力、きっと異能(ディギア)なんだよ」

「そうか……そんな事が――」


 僕は少しだけ切れた掌を見つめた。もう血は止まっている。意識してないと僕は普通に怪我をする。けど、この力のおかげで、生き延びることができたんだ。


「片眼鏡には『能なし』って言われたんだ。それまでに三力の検査ってのをやって。三力って、この世界の人なら誰もが持ってるものなの?」

「三力の全部を持ってる訳じゃないわ。多い人で、二力に優れてるっていう感じ」

「キャルは?」

「わたしは魔力がある。けど……今、魔法は使えない」

「どうして?」


 僕が訊くと、キャルは悲し気に自分の首輪を指でさした。


「これは力封錠(リストレイナー)。これで三力を封じることができるの。魔力を使おうとすると、超音波で頭痛がする。気力を使おうとすると、気力に必要な爆発呼吸を妨げるように首が閉まる。霊力を使うと電流が流れて、地面に霊力を流してしまうの」

「そうか。奴隷の標で首輪がつけられてるのかと思ってたけど、そうじゃなかったんだね」

「奴隷の標はこっち」


 キャルは自分の右足首を見せた。よく見ると、ピッタリとした金属の輪がつけられている。


「これがある限り、わたしはモノとして扱われる。…そういう標なの」

「そんな! この世界――いや、この国は、奴隷の権利を保護しないの?」

 

僕の問いに、キャルは悲し気に首を振った。


「この世界――ノワルドでも、奴隷制を廃止した国はある。アルサマードとか、ラウニードとか。けど、この国――ガロリア帝国は、奴隷制を禁じてない。そもそもこの国は、自由主義の国なの。魔人皇帝レオンハルトの、有名な言葉があるわ。

『能ある者は富め。能なき者は去れ』 」


 能なき者――それは僕が片眼鏡に言われた言葉だ。

 そしてそれは狩谷に、いつも、いつも、くどいくらいに言われた言葉だ。

 それが国の指針の言葉なのか?


「能なき者か――それは、僕なんかこの国にいらいないって事か」


 僕は苦笑した。


「そんな事ないよ!」


 不意にキャルが声をあげた。僕は驚いて、キャルを見た。


「クオンはわたしを助けてくれた。勇気があって…優しさがある。能なしなんかじゃないよ。どんな力より、それを持ってるクオンが、本当の強さを持ってるよ!」

「キャル……」


 僕はびっくりした。

 そんな風に人から褒められた事は――今までになかったかもしれない。


 僕は狩谷からいじめを受けて、中学二年では不登校になった。

 なんとか高校に進学して、高1の時はいじめもなく、やっと僕は普通に高校生活を送れるようになったと思った。

 けど、高2の時、前の学校を退学になった狩谷が編入して来た。それからが地獄だった。


 隠れて僕をいじめて、金をたかる狩谷が嫌で、僕はまた不登校になった。

 それでもなんとか高校を卒業して、僕は就職した。そこで一年間、真面目に働いて、なんとか普通に暮らせるようになってた。

けど、そこに――また狩谷が現れたのだ。前の職場をクビになって、僕のいる会社に中途採用されたのだった。


 僕を見つけた狩谷は、まだ学生の時のようにたかり出した。

 けどいい加減、こちらも社会人だ。普通に障害や恐喝で、被害届を出せる。

 そう思って反撃した矢先――こんな事になったのだ。


 けど、学校も休みがちだった僕は、クラスの女子ともほとんど話したことがない。

 不登校で引きこもってたから、誰かに褒められたこともない。

 親も――僕の引きこもりを見て、暗い顔をしていた。


 けど、この世界に来て、キャルに会えた。

 この子だけは――なんとかして助けたい。それをやらなきゃ、僕がこの世界に転生した意味もない。


 そんな切実な想いが胸の中に生まれた。

僕は夢中になって、キャルに言った。


「そうだ! 二人でその奴隷制のない国へ行こう。そうすれば、キャルは自由になれる。どうだろう?」


 キャルは眼を見開いた。


「そ…そうかもしれない。けど、凄く遠いし、行き方も判らないわ」

「それはこれから――一緒に探そうよ。それまで、なんとか生き延びるんだ。捕まらないようにして、お金を貯めて、地図を入手して……」


 僕の頭がフル回転し始めた。

 なんてことだろう。三日間、僕はただ途方にくれていたのに、キャルのためだと思った途端、希望が沸いてきた。


「なんとか、この世界で生きて行こう、キャル」


 僕の言葉を聞くと、キャルの眼に涙が滲んできた。


「……うん。ありがとう、クオン」


 そう言うと、キャルはそっと僕の手に自分の手を重ねた。



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