2 これまでのカリヤ
凄い勢いで断言するエリナに、僕は思わず苦笑を洩らした。
「そう言われると……ちょっと救われる気がします」
「当たり前だ! 女の子をレイプするなんて、死罪でもまだ足りないくらいだ。傷つけられる女の子は、身体を傷つけられるだけじゃなく、自尊心を奪われる。それは魂の殺人と言ってもいいくらいなんだ。身体の傷は癒える。けど、心の傷は……癒すのが大変なんだ。君がそいつを憎むのは、それが判ってるからだ思うよ」
僕は、神妙な気持ちでエリナの話を聞いた。
そうなのかも……しれない。
無論、女の子じゃない僕が、女の子の置かれてる立場や痛みを判るなんて、到底言える事じゃないけど。
けど、それに対して、判ろうとする人間でいたい。
弱い立場や、苦しむ人の痛みを判る人間で。
「クオンが優しいわけ……少しわかったよ」
キャルが、僕の方をみて微かに笑った。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦
カリヤがハルトにつれていかれたのは、城内にある訓練所だった。
そこでカリヤは剣術の教官と、魔導士の教官について学ぶことになった。
一ヶ月先に転生していたハルトは、剣術練習をともに行ったが、魔法は一緒に学ぶことはなかった。
「私は魔法の才はない。だが、霊力があるんだ」
ハルトはそう言っていた。
魔法の授業を一緒に受けたのは、カエデ・ミサイズという女性だった。
「あんたが、新人ね。よろ」
カエデはカリヤにそれだけ挨拶した。
ダルそうな目つきで、髪は天然パーマがかった赤。
ショートパンツをはいているが、体型に女らしいところはあまりなく、カリヤが最も興味ないタイプの異性だった。
剣術の訓練をハルトと、魔法の授業をカエデと受けていたが、最初のうちはラクに課題をこなしていた。
(ハ! オレは天才なんじゃねえか? どれもこれも簡単すぎるぜ!)
カリヤは真面目に素振りをするハルトを蔑視するように眺めた。
(あんなクソマジに努力したって、才能のない奴は何をやったってダメさ)
真面目なハルトを、カリヤは内心せせら笑っていた。
魔法の授業では、カリヤの魔力は、明らかにカエデのそれを上回っていた。
「ハハン、オレはやはり天才なんだな!」
カリヤはいい気になって、そう口にした。
「まあ、魔法って魔力量だけじゃないけどね」
「まあ、そう悔しがるなよ」
カエデの言葉に対して、カリヤは負け惜しみとしか思わなかった。
しかしより高度な魔法は、原理の理解が伴わないと現象が起こせない。
カリヤは全く学習する気が無かったので、それについていけなかった。
「あ~、なる~、そういうコトね!」
その隣でカエデは、魔法原理の教科書を、教官の教えで理解していく。
より高度な現象の魔法は、カエデの独壇場だった。
カリヤは年老いた魔法教官・ジールドに注意を受けた。
「カリヤ君、原理を理解せねば、高度な魔法は使えない。少しは学習しないと、これ以上、先には進めないぞ」
「あ!? 天才のオレは、実戦で使える技だけ知ってりゃいいんだよ!」
カリヤは言い返した。
剣術の訓練では、次第に教官・ザックリーノの叱責が飛ぶようになった。
「カリヤ! お前の技は大振りすぎる! 気力だけに頼らず、もっと地力の剣術を磨け!」
「んな事ぁ、判ってんだよ!」
(チッ、大体、異世界に来てまで学校の真似事かよ。オレは偉そうに説教たれる教師が、昔から大嫌いなんだよ!)
カリヤは全く教官の言う事をきかず、基本の素振りも技の練習もしなかった。
ある時、教官に命じられ、ハルトとカリヤで木剣による模擬戦をすることになった。
それまでの模擬戦では、気力の大きさに勝るカリヤが、ハルトに圧勝していた。
カリヤは今回も同じだろうとタカをくくった。
(何回かかってこようと、天才のオレに勝てるはずがない)
カリヤはほくそ笑んだ。
が。
結果はハルトの勝利だった。気力で勝るカリヤの剣を、ハルトは技を使って逸らし、隙だらけのカリヤの身体を突いたのだった。
「チッ! 今日は調子が出なかっただけだぜ!」
カリヤは不機嫌丸出しで、その場を唐突に去った。
一ヶ月経って、カリヤたちは訓練所を卒業することになった。
教官はカリヤに言った。
「才能はあるのに充分に伸ばしたとは言い難いが……まあ基本はできてるから、後は実戦で腕を磨くことだな」
教官の言葉を聞いて、カリヤは内心で思った。
(ケッ、オレは本気になりゃ、てめぇらなんざ、すぐに抜いてナンバー1になる男なんだよ!)
訓練期間を終えたカリヤたち三人は、再びギュゲスとの面会をすることになった。
「キミたちには冒険者としてダンジョンに行ってもらう」
片眼鏡のギュゲスは、変わらぬ様子でカリヤたちにそう告げた。
「ダンジョンって、なんだ?」
「地下迷宮……というものだ。そこではモンスターが出現する。モンスター相手に戦闘力を高め、自分の力をより開花させたまえ」
カリヤたちは言われた通りにダンジョンに潜り、モンスターと戦った。最初は戸惑ったカリヤだが、自分の気力・魔法が自由にふるえることに気をよくして、カリヤはご機嫌だった。
(なんだ、こんな事、楽勝じゃねえか)
モンスターを倒し、順調にランクを上げるなかで、カリヤは不満を持つようになった。
「――おい、なんでいつも、てめぇが指示出すんだ?」
カリヤはハルトに、ある日、そう言った。
ハルトは爽やかな笑顔で、カリヤに答える。
「ああ、まあ一応、私がこのパーティーのリーダーだからね」
「あ? 誰がてめぇをリーダーって認めたんだよ。リーダーってのは、一番、つえぇ奴がやるんじゃねえのかよ」
カリヤは下から舐めるように視線を動かしながら、ハルトに凄んでみせた。
と、傍らにいたカエデが、ぷっと噴き出す。
「なに、カリヤ! あんた、自分がハルトより強いと思ってんの? ウケる」
そう言って笑い出すカエデを見て、ハルトはたしなめるように口を開いた。
「カエデ、そういう事を言い方をするもんじゃない。……まあ、リーダーというのは強いだけじゃなくて、状況判断やメンバーの性格、能力の把握など総合的な力が必要だ。この中では、私がやるのが適切だと思ったんだが?」
カリヤはせせら笑った。
「ハン、何が総合的な力だ。そんなのは力に劣る奴のいい訳なんだよ!」
カリヤの言葉に、ハルトは不機嫌になった様子もなく、仕方ないといった顔でカリヤに言った。
「じゃあ、君は私と戦って自分が上だと証明し、リーダーになることを主張したいのだね?」
「ああ」
カリヤは頷きながら、舌なめずりをした。
無謀にそんな事を言ってるのではない。一緒にダンジョンに潜るなかで、カリヤはハルトの戦闘力をずっと見てきた。
気力はカリヤが勝る。ハルトが霊力によって作り出す分霊体という、操り人形のようなものも、それほど脅威には感じなかった。カリヤは十分に、ハルトに勝てると考えていた。
二人はカエデの見守るなか、対峙した。
「どうしてもやるつもりか、カリヤ?」
「ビビってんなら、降りてもいいんだぜ」
カリヤは口の端を上げ、にやりと笑った。
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