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第九話 それぞれの過去  1 クオンの告白


   ♦   ♦   ♦   ♦   ♦   ♦   ♦   ♦


「カリヤ・ダイヤモンド? それがキミの新しい名という事でよいのだね?」

「ああ、そうだ!」


 カリヤは勢い込んで言った。

しかし片眼鏡の男――ギュゲス・ネイは平静な顔でカリヤに告げた。


「判った、カリヤ君。しかし我々もただでキミを転生させたわけじゃない。その元をとらねばならないのだ。キミには十分に能力を伸ばしてもらい、我が帝国のために働いてもらいたい。――それができなければ、処分だ。いいかね?」


 平静な表情のままであったが、それが断れない脅しであることは、カリヤにも判った。カリヤは頷いた。


「いいぜ。やってやろうじゃねえか」

「よろしい、では後のことは、彼に教わりたまえ」


 ギュゲスはそう言うと、ちょうど入室して来た男を指さした。

 入ってきた男は、長身で顔立ちの整った騎士風の男だった。


 ギュゲスは近づいてきた騎士に、カリヤを紹介した。


「カリヤ君だ。彼が最後の転生者(リィンカー)だ。訓練所へと頼む」

「判りました」


 騎士が頭を下げると、ギュゲスは踵を返して退出する素振りをみせる。

 その部屋を出ていく際に、ギュゲスは振り返った。


「じゃあ、カリヤ君、頑張りたまえ」


 それだけ言うと、ギュゲスはあとのことは興味がないといった風に姿を消した。

 しかしその後ろ姿に、騎士は長々と頭を下げていた。


 それはギュゲスが部屋から出ていっても、しばらくそのままだった。


(おい、まだ頭下げてんのかよ。もう、あいつは出て行ったろうが)


「カリヤ君――といったね」

「あ、ああ」


 頭を上げた騎士が、カリヤに微笑を向けた。


「私はハルト・ノウミだ。君の指導係、という事になった。よろしく頼む」

「オレは――カリヤ・ダイヤモンドだ」


 その爽やかな笑顔にあてられて、カリヤは仏頂面を向けた。

 が、ハルトは機嫌を損ねる様子もなく、口を開いた。


「名前から判る通り、私も君と同じ転生者――リィンカーだ。突然のことに戸惑ってるとは思うが、正直、きちんと能力を伸ばし、与えられた任務をこなしていれば待遇は悪くない。――というより、格別だ。特に、我々リィンカーは、生まれながらにして卓越した才能を持ってるようだ。悪くないぞ、カリヤ君」


「そ、そうかい……」


 ハルトの話を聞いて、カリヤの口元が緩んだ。


(こりゃあ、オレにもツキがまわってきたんじゃねえか? 何処にいっても邪魔者扱いされてきたオレがよ)


 カリヤはふと、連れ去られたクオンの事を想い出した。


(ケッ、あいつはよくよく、ツキのねえ奴だったぜ)


 カリヤは独り、薄笑いを浮かべた。



   〇   〇   〇   〇   〇   〇   〇   〇



 何か温かいものに包まれて、僕は目覚めた。


 うっすらと眼を開ける。と、すぐ傍に、天使のような寝顔があった。

 キャルの寝顔だ!


「うわ!」


 思わず、声をあげて起き――ようとして、逆側にも気配を感じて振り返る。

 こっちには眼鏡を外した、エリナの綺麗な寝顔があった。


「え……これ、どういう状況?」


 辺りを見回すと、家の中のリビングだった。ソファにもたれかかっている。

 どうやらそこで――一枚の毛布にくるまって、三人で寝てたらしい。


「ん……起きたか、クオンくん」


 エリナが眼を開けて、声をあげた。


「え、エリナさん――」

「うん……ん…」


 キャルが、もぞもぞと傍で動いた。

 びっくりして、眼を向ける。と、キャルの長い睫毛のまぶたが開き、可憐な瞳がこっちに向けられた。


 一瞬、ぼんやりした表情で、その後に微笑になった。


「……おはよう、クオン」

「お、おはよう」


 そう返すと、キャルが僕の腕をとって、そっと抱きしめた。


「キャ、キャル……?」

「うん。此処にいる。確かにクオンが…此処にいるよ」


 キャルは安心したように微笑んだ。

 僕は――虚を突かれた思いがした。


「キャルちゃんが帰ってこない君を心配するんで、見にいったんだ」


 逆側から声がして、僕は振り返った。

 エリナは上半身を伸ばして、眼鏡をとろうとしていた。


「そ……それでこの状況は?」

「家まで帰ってきたはいいが、君は倒れてしまって、二人がかりで家の中まで運んだけど、部屋まで運べなくて力尽きたんだ。君みたいに軽くする能力があるって、凄いな。それで、キャルちゃんが一緒に寝るっていうから毛布を持ってきて――ついでにだな、私も一緒になってブランケッツの親睦を深めた、というわけだ」


 眼鏡をかけながら、エリナはそう説明した。


「そう……だったんですか」

「まあ、ブランケッツと名乗った割には、実際に一枚の毛布で寝たのは一晩だけだからな。もうちょっと既成事実を増やしてもいいんじゃないかと思った次第だ!」


 エリナが悪戯っぽく笑う。と、隣でキャルが、声をあげた。


「わたしがね、一緒にいてほしいってお願いしたの」

「そう…なの」

「うん。最初に三人で寝た時みたいに――同じ気持ちになりたくて…」


 その言葉を聞いて、僕の眼から知らずに涙がこぼれた。


「く、クオン?」

「ごめん……僕は――二人に何の相談もせずに…一人で勝手な真似をして――」


 僕は……なんてバカだったんだ。

 一人で勝手に思い悩んで、勝手に処理しようと意気込んで――


「いいの。クオンがちゃんと帰ってきてくれたから」

「そうそう。久しぶりに三人で寝るのもよかったぞ」


 二人が微笑んでくれた。

 そして僕は自分の気持ちに気付いた。


 毛布を片付けて、改めてリビングに座ると、僕は話をすることにした。


「僕はキャルやエリナさんに……僕の過去のことを知られたくなくて――それであいつと独りでケリをつけに行ったんだと思う」


 そう話し始めると、神妙な顔で二人は僕の話を聞いていた。


「僕は小中高――子供の頃からって意味だけど、あのカリヤにイジメられて、不登校になった。散々に、殴られたり、蹴られたりした。それで……外に出られなくなったんだよ。それでも何とか学校を出たら、職場でもあいつと一緒になって、あいつがまた暴力をふるようになった」


 言葉にすれば――ほんの少しだけど、僕が受けた暴力や蔑みの日々は、数時間、数年に及ぶ痛みだ。それがそのまま伝わるとは思えない。


 ……今までならば。


 だけど、キャルとエリナには伝わるんじゃないかと思った。

 言葉が少なくても、きっと僕の受けた苦しみと痛みを判ってくれるだろう。


 そんな確信があった。


「警察に通報すると言ったら、あいつが逆上して、僕を川に落とそうとしたんだ。それでもみあいになって――一緒に川に落ちた。それで…前世の僕は死んだんだ。そしたら一緒に、カリヤとこの世界に転生してた。


 あいつは気力と魔力の才能があって活かされて、僕は能なしとして処分されることになった。それであのワニの井戸に投げ込まれることになったんだ。僕とあいつの関わりは……そんな感じ」


「じゃあ、あのカリヤって奴は、君を殺そうと――殺した奴なのか?」

「そう…なります」

「憎んで当然じゃないか! 私だって、憎いと思うよ!」


 エリナがそう声をあげた。


「……それもあるんですが、僕を庇ってくれた女子をレイプしてるのが判って――。しかも問い詰めたら、他に10人もの女の子に暴行してた」

「死んで当然だな! なんなら私がトドメを刺しにいってもいいくらいだ!」


 エリナは胸を張って断言した。



    *     *     *     *     *


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