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2 狩谷との再会


「狩谷……」


 それは狩谷の姿だった。ただし、冒険者が着るような鎧を身に着けている。


 僕の身体に震えが走った。


 恐怖じゃない。嫌悪からくる身震いだ。

 だが狩谷は、そんな僕にお構いなしに口を開いた。


「ギュゲスの野郎が『処分する』とか言ってたから、死んでるのかと思ってたが――まさか冒険者をやってるとはな」


 狩谷が薄笑いを浮かべる。

 ――いや、僕は片眼鏡の計画では死んでるはずだ。


 だが何も言わないでおく。


「『能なし』のお前じゃあ、大した事できねえだろ? 草取りでもしてんのか?」


 小馬鹿にした表情を浮かべる。


 ……これだ。この人を苛立たせる、口調と表情。


「……お前には関係ない」


 これ以上、顔も見たくないし話もしたくない。僕はそれだけ言って、立ち去ろうとした。


「なんだ、クオンくん。知り合いかい?」


 エリナが声を上げる。その姿を見て、狩谷が声をあげた。


「お! なんだ、千藤、いい女連れてるじゃねえか。仲間か? そっちのフードもか?」


 キャルに言及した狩谷に、僕ははっとなって振り向いた。

 キャルは汚いものを見るような目つきで、狩谷を見ている。


「そう、恐い顔すんなよ。オレはカリヤ・ダイヤモンド! Cランク冒険者の魔導剣士だ」


 狩谷はそう言って、自慢げに自分を親指で差した。


「……なんだ? お前は狩谷平太だろ」

「その名前で呼ぶんじゃねえっ!」


 僕の声に、狩谷――いや、カリヤは怒鳴り声を上げた。


「大体、平太なんて名前はオレは昔から嫌いだったんだ。オレはカリヤ・ダイヤモンドだ。よく覚えておけ!」


 それで苗字を名前に使って、自分でダイヤモンドを名乗ってるのか?

 しかもダイアモンドではなく、ダイヤモンド。


 バカだとは思っていたが、こんなセンスの奴だとは。


「判った、カリヤ。適当に頑張ってくれ」


 僕がそう言って去ろうとすると、カリヤがいやらしい笑みを見せた。


「おい、どうせ能なしのお前じゃあ、大した稼ぎもできてないんだろう? そこでだ、オレがお前たちのリーダーになってやる! 知らない仲じゃないからな、オレが力を貸してやるよ。オレについてくれば、お前たちにも美味しい思いをさせてやるぜ」


 カリヤはそう言って、馴れ馴れしく肩を組んできた。


 何を言ってるんだ。こいつは? 


 僕がこいつの事を虫唾が走るほど嫌いなのに、それが判らないのか?


 僕は肩に組まれた腕を振りほどいた。


「お前、何を考えてるんだ? 僕がお前と組むわけないだろう? 自分が何をしたか、記憶にないのか?」


「そんな、昔のことにこだわるんじゃねえよ、ちいせえ男だな! だから、てめぇは能なしなんだよ」

「何だと!」


 カリヤは馬鹿にしたような薄笑いで、僕の方を見た。


「大体、てめぇがよくったって、そこの女たちが満足してねえかもしれねぇだろ? なあ、あんた、オレと一緒に来れば、いい思いをさせてやるぜ」


 カリヤはそう言うと、エリナに向かっていやらしい笑いを浮かべた。


 エリナが露骨に嫌そうな顔を見せて、口を開いた。


「結構だ。私たちは、クオンくんと一緒にいることで満足してる」

「マジかよ! この能なしが、そんなにいいって? なんだ、それともコイツとデキてんのか?」


 カリヤの下卑た言葉に、僕は声をあげた。


「そんなんじゃない!」

「あんた、いい身体してんだから、眼鏡やめろよ。へへ、こっちじゃなきゃあ、そっちのフードが千藤のお好みってことか――」


 カリヤがそう言って、いきなりキャルのフードをはいだ。

 キャルの白い猫耳が露わになる。


「なんだ? 猫耳!? なあんだ千藤、お前、そういう趣味かよ! ペット連れとは恐れ入ったぜ」


 カリヤがそう言って笑った瞬間、僕の中の何かが弾けた。


 僕はものも言わずに、カリヤの顔面に拳を叩きこむ。


「ガァッ!」


 殴られたカリヤが吹っ飛んで、地面に倒れた。


 辺りが静まるなか、カリヤが頬を抑えて立ち上がる。


「てめぇ! なにしやがる!」


 カリヤが腰の剣の柄に手をかけた。と、そこに声が飛ぶ。


「よさないか! ギルド内の争いはご法度だ!」


 声の主を見る。赤い髪の剣士――ランスロットだった。


 カリヤがぎりぎりと歯ぎしりをした。


「てめぇ……どういうつもりだ?」

「僕のことを何と言っても構わない。……けど、キャルを愚弄するのは許さないぞ!」


 僕はカリヤに向かって怒号をぶつけた。


 カリヤは僕を睨んでいたが、ふと口を開いた。


「てめぇに決闘を申し込む! ……これなら文句ねえだろうが」


 カリヤはそう言うと、ランスロットの方を見た。


「お前は見届け人になってもらおう。決闘なら、相手が死亡しても罪に問われないんだよな?」


 カリヤはそう言って、ランスロットに訊ねた。ランスロットが答える。


「見届け人は引き受けてもいい。だが、基本的には勝敗がついた段階で止めるのが見届け人の役目だ。死亡は――制止する間もない時だけ、認められる」

「だとよ! どうだ、千藤! 決闘を受けやがれ!」


 吠えるカリヤに、僕は言った。


「断る」

「――なにぃ?」


 僕はカリヤに背を向けて、立ち去ることにした。


「待ちやがれ! 決闘を受けないなら、てめぇは臆病者の弱虫として、冒険者たちから見下されるんだ! それでもいいのか?」


 僕は顔だけ振り返った。


「……かまわない。そんな事には慣れている」

「てめぇ、どうして決闘を受けない!」


 憤怒するカリヤに、僕は言った。


「僕は稼ぐために戦ってる。お前と戦ったって、一銭にもならない」

「ふざけるな! オレを殴って、ただで済むと思ってんのか!」


「お前がどれだけ、僕を殴って蹴ったと思ってるんだ! 一発ぐらいで、ピーピー喚くな!」


 僕はそう言い捨てると、激昂するカリヤを残しギルドの出口に向かった。

 と、横にランスロットが現れる。


「ブランケッツの――クオン」


 僕はランスロットを見た。


「お前たちが、キヘニ村の五角イノシシを駆除したのを聞いた。『一番、助けてほしい人のところへ、手助けする』。……お前はそれを実行したんだな。キング・バイパーを倒したのも聞いた。周りの奴がどう思おうと――俺は、お前を見下したり、バカにしたりはしない。お前みたいな奴が……真に『勇気ある者』――勇者だと、俺は思ってる」


 ランスロットの真剣な眼差しを、僕は見つめ返した。


「……ありがとう。けど、僕は臆病者の弱虫なんだ。別に、それは間違いじゃないから構わない。ただ――この前、言ったことは僕の考えだけど……あなたに対して強く言い過ぎたとは思ってる」


 僕の言葉を聞き、ランスロットは笑みを浮かべた。



    *     *     *     *     *


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