6 巨大な敵
衝突の寸前で、キャルの魔導障壁が五角イノシシの突進を食い止めていた。
その顔の鼻の頭のところに、一文字の傷。――こいつが一文字だ。
大きさが前に倒したイノシシの1.5倍はある。逆立ってる毛が…風格が違う。
「こいつ! 仲間の死骸を囮にしたんだ!」
エリナが驚愕の声をあげる。
僕らは震撼した。――こいつは明らかに、強力で凶暴なモンスターだ。
「ダメ! 壊される!」
キャルが悲鳴をあげた。魔導障壁をぶち壊して、一文字が突進してくる。
「重硬タックル!」
僕は突っ込んでくるイノシシに、逆にショルダータックルでぶつかっていった。
イノシシの突進が、食い止められる。
「二人とも、離れて!」
「でも……」
躊躇を見せたキャルに、僕は微笑して見せた。
「大丈夫! こいつは僕に任せて」
エリナが頷いて、キャルの手を引く。二人の姿が、透明化で消えた。
僕は目の前で、凄まじい鼻息を吹いているイノシシを睨んだ。
「お前と戦うためのシュミレーションは、さんざんやったんだ」
僕はしゃがみこんで、イノシシの足元の地面に手を触れた。
「地盤軟化!」
僕の地盤を軟化させる能力は、半径1mの円。それを手を中心ではなく、円周に 内接できるように訓練した。つまり、僕の手の先から軟化は広がっていく。
「ブゴォッ!」
イノシシの左足が、地面に沈む。
そう。地面の軟化は、範囲を狭くして、深さを深くすることもできる。
イノシシの足は50cm以上、地面に埋まった。
そこで僕は、軟化を解く。イノシシの足は地面に埋まったままだ。
「ブギーッッ!!」
足を引っこ抜こうとするイノシシ。けど、その一瞬だけで、僕には十分だった。
踏み込んで重さを乗せて棒剣を振り抜く! それを埋まっていない右脚に斬りつけた。
驚くほどあっさりと、イノシシの足が切断された。
「ギイイイィィィッッ!」
一文字が、よだれを飛ばしながら吠えた。
だが、僕はその瞬間には、既に上空に飛んでいる。
両足を封じられたイノシシは、動くことができない。それが狙いだ。
落下しながら、イノシシの首の半分を狙い斬り落とす。
最大の重硬化を乗せた、僕の渾身の必殺技――
「――重化斬り!」
棒剣の刃がイノシシの首を下まで切断する。
着地した僕は、血しぶきが舞う前に、跳んで離脱した。
「ブギーッ!」
一文字が断末魔の咆哮をあげた。
その巨体が倒れる。痙攣を起こしながら、その場が血に染まっていった。
「ふぅ……」
僕は息をついた。と、エリナとキャルが姿を現す。
「やったな、クオンくん!」
「凄い! 凄いわ、クオン!」
二人が駆け寄ってくる。僕は安堵の息を洩らすと同時に、微笑んだ。
「よかった。これで僕も、ちょっとは働いた感じだな」
「何を言ってるんだ。やっぱり、クオンくんの力は凄かったよ。もう、見違えるほどの、動きだった」
エリナの言葉に、キャルも頷いている。
「これが一文字でしょうね。クエストも完了したし、これで村の人も安心して暮らせるはずです。……帰りましょうか」
僕はそう言うと、角を掴んでイノシシの巨体を軽化すると肩に担いだ。
「ちょ…っと、待って――」
不意に、エリナの顔が強張る。
「な……なに、この気配――」
「どうしたんですか?」
僕がそう訊ねた瞬間、僕はエリナの表情の意味が判った。
巨大な頭が――僕らを睨んでいる。
蛇の頭だ。その頭部だけで、僕らの身体くらいの大きさがある。
そこから伸びる身体は――短く見積もっても10m以上。青い蛇身が、辺りの茂みの中で蠢いていた。
「これは……キング・バイパー。ジャイアント・バイパーの上位進化形。……だけど、ほとんど確認された事ないはずなのに!」
キャルが悲鳴に近い声をあげる。
その瞬間、キング・バイパーが口を開き、毒液を吐き出した。
「魔導障壁!」
キャルの魔導障壁で、毒液が防がれる。と、その瞬間、頭上から蛇の巨体が降ってきた。
「きゃあっ!」
魔導障壁がぶち破られ、巨大な胴体が僕たちを襲う。
ゴム脚ダッシュ!
僕はなんとかキャルとエリナを助け出した。
「魔導障壁が――すぐに破られちゃう!」
「僕が行く! 群れじゃないなら、毒液も躱せる!」
僕は駆け出した。向かってくる僕に対し、キング・バイパーが毒液を吐きかけた。
けど、それは予想済みだ。僕は素早く躱して、さらに接近した。
最後のところで跳躍する。重化斬りには、上をとらなきゃいけない。
しかしその瞬間、僕を睨んだキング・バイパーの赤い目が、ギン、と光った。
「え――」
急に僕の身体が動かなくなる。
僕はそのまま、地面に落下した。
「クオン!」
地面に並行して、キャルが走って来るのが見える。
僕の身体が地面に横たわっていて――動かせない。
「魔導障壁!」
キャルが障壁を作ったらしい。
「クオン! クオン!」
「キャルちゃん、これは邪眼――霊眼と呼ばれるものの力だ。カミラさんのノートにあった」
エリナの声がする。
「クオンくんの麻痺を解除する間、なんとかもちこたえてくれ、キャルちゃん!」
「判った! ――魔導障壁! 魔導障壁! 魔導障壁!!」
キャルが何重にも魔導障壁をかけている。
設置してる地面から、振動が伝わる。キング・バイパーの巨体がうねっている。
その間、僕の顔の傍にエリナの掌が寄せられている。
何か温かいものを感じる。
「魔導障壁!」
キャルが魔導障壁を作り続けている。つまり、それだけ壊され続けてるってことだ。ふと、振動が止んだ。
「――キャルちゃん! 眼を見ちゃダメだ!」
エリナが声をあげる。奴は邪眼の攻撃もしてくる。
と、僕の身体が動くようになった。
「――エリナさん、ありがとう! 動ける!」
「しかし、絶対絶命だ。どうする?」
僕らの前に立って魔導障壁を作り続けてるキャルの、疲労が限界にきてる。
「一旦、あの岩陰に隠れます。二人は僕に同調して!」
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