4 ブリッツバット
「なんだね、あんたたちは?」
傍にいた老人が、僕らに怪訝な声を出した。
「あの……『一文字』を駆除するクエストで来たんです」
僕が答えると、村人たちが一斉に囁きあった。ほとんが老人だ。
「やっと冒険者が来たか」
「しかし、年端もいかない子供と女だべ」
「あんなじゃ、一文字に食い殺されちまうぞ」
まあ、そう思うよな。…と、自分でも思う。
「あの……ここでは何を?」
僕の問いに、老人の隣にいた老婆が声をあげた。
「一文字に殺された二人の葬式をしてるとこですよ」
そうだろう、とは予想していた。
「お気の毒な……ことでした」
僕はそう言った。少し目を伏せて、冥福を祈る。
エリナとキャルも、そうした。
老人たちは黙ったが、その中から、一人の老人が立ち上がった。
「ありがとう、あんたたち。こんな辺境まで来てくれて」
「いえ。それで――一文字のいる森というのは?」
「わしが案内しよう」
老人が先だって、外に出る。僕らもそれに続こうとした。
と、背後から声がかかった。
「頼むぞ、冒険者!」
「仇をうって、お願い!」
僕らはその声を聴きながら、表へ出た。
あの人たちの期待に応えられるだろうか? …やるだけ、やらなければ。
「わしは村長のダージじゃ。いくら駆除を依頼しても、なかなか冒険者がこなくて、どうしようかと思ってたところじゃった。あんたたち、大丈夫なのかね?」
「努力してみるつもりです」
僕は正直なところを言った。確約なんてできない。
けど、その不安の残る答えに、ダージは頷いた。
「頼むよ、村の安全のために。――この目の前にある森が、スネバッツの森と言われる領域じゃ。一文字は、この森のどこかに潜んでいる。最初は夜中に畑を荒らしていたが、人の味を覚えた奴は、昼間に村人を襲うことを覚えたらしい。あんたたちも危険じゃ、充分、用心なされ」
「判りました。ありがとうございます」
ダージは頷くと、その場を去っていった。
残された僕らは、相談を始める。
「この森から一文字を見つける――って事ですけど、どうしましょう? 罠か何かでおびき寄せますか?」
「いや。私がまず気配を探ってみよう」
エリナが言った。
「気配が判るんですか?」
「霊的な匂い――とでもいうのか。ヒモグラにはヒモグラの気配があって、五角イノシシにも独特の気配がある。それを私は覚えてるから、探せると思うんだ。実は、このクエストがいいと思ったのも、そういう前知識があるからなんだ」
エリナはそう言って笑った。
「なるほど。じゃあ、お願いします」
「うん」
エリナはそう言うと、眼をつぶった。
「こっちの方に、気配があるな」
エリナが先導して、森に分け入った。霊力って凄い。
「五角イノシシの気配はもっと先だ。けど、すぐ近くまで、別のモンスターが来てる。警戒してくれ」
そう言いながら、さらに歩を進める。
僕は棒剣を肩から外して手に持ち、警戒しながら歩いた。
と、突然。
「右から来る!」
エリナが叫んだ。
その瞬間、森の木々が突然、ざわめく。僕は右を向く。
何もいない。
違う! 上空だ!
一斉に現れたコウモリの群れが、頭上を飛び交った。
大きさは30cmくらいか。よく見ると、頭のところに、角が生えている。
その角から、コウモリが電撃を放った。
「うわっぁ!」
僕は直撃を喰らって、悶絶した。
その直後、一斉にコウモリが僕に群がる。
来る前に、ミリアからレクチャーを受けていた。
「ブリッツバットは、電撃を放つ魔獣です。電撃で獲物を気絶させた後に、吸血する習性を持ってます」
――硬化!
群がるコウモリの牙が、僕の身体にガンガンあたる。
痛くないが、とんでもない数だ。
「クオン!」
その時、火炎放射が僕に浴びせられる。
コウモリたちが一斉に逃げた。
「あつっ! ちょっと熱い!」
「ごめん、クオン!」
そう言いながら、キャルとエリナが僕の傍に駆け寄る。
コウモリたちが上空から、再び電撃を放った。
「魔導障壁!」
キャルが魔法で防御する。見えない壁に、電撃が防がれた。
「ごめんなさい、クオン。ああするしか、追っ払う方法を思いつかなくて」
「ううん、ありがとう。助かったよ、キャル」
魔導障壁を使うキャルに、僕は礼を言った。
ここで僕は、改めて気が付いた。
僕は無能だ。こんな電撃みたいな攻撃に対して、守るべき方法を持ってない。
しかも上空の敵に対し、有効な攻撃手段も持ってない。
「ここは私の出番だな」
エリナがポシェットから、手裏剣を取り出した。
「キャルちゃん、一瞬だけ解除してくれ」
「判った」
キャルが一瞬、魔導障壁を解除した瞬間、エリナの手から手裏剣が飛んでいった。
手裏剣は回転しながら、凄まじい勢いで飛んでいく。
「一度に操れるのは、まだ四つ」
エリナは人差し指と小指を立てた両手を、胸の前で交差させたり掲げたりして、手裏剣を操っていた。
手裏剣は凄まじい勢いで、ブリッツバットを切り裂いていく。
「凄い……」
群れだったコウモリが、どんどん地上に落ちていく。その数が、だいぶ減った。
「だいぶ減った。後は注意して手伝ってくれ」
「判ったわ」
キャルは魔導障壁を解くと、指先を上空のコウモリに向けた。
「火炎球!」
ダン、ダン、ダン、と続けて発射する。それは狙い違わずにコウモリを撃ち落としていった。
僕はまったく出る幕もなく、ブリッツコウモリの群れが全滅した。
「うん。初挑戦だったが、結構、うまく使えた。我ながらやるじゃないか」
「凄かったですよ、エリナさん!」
僕は正直な思いで言った。エリナが嬉しそうに笑う。
「フフ、これで私も、少しは役にたてそうだな」
何を言ってるんだ……こんなに強いのに。僕は驚くばかりだった。
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