3 Cランククエスト
表情が硬くなった僕を、キャルが心配そうに見つめている。
「大丈夫、ほんとに」
僕は無理に笑ってみせた。と、キャルの背後から、エリナが苦い顔で僕を見つめている。
「いやあ、けどさっきの話は身につまされたな……。私は最初、透明になって、クオンくんたちを傍観してたから」
エリナはそう言って苦笑した。
何を言ってるんだ、この人は?
「何を言ってるんですか、エリナさん。エリナさんは、自分の命だって危険だったのに、キャルの首輪を外すのを手伝ってくれたじゃないですか。全然、違いますよ。それに、最初のメモ帳だって、自分の身だって明日をも知れない状況なのに、残しておいてくれた。あれがどれほど救いになったか――。エリナさんが信用できると思ったから、僕は一緒にいるんですよ」
僕の言葉を聞いて、エリナは安心したように息をついた。
「そっか……。それなら、よかった」
僕らは互いに微笑みあった。そしてキャルに向き直る。
「ごめんキャル、心配させて。ちょっと嫌なこと思い出しただけだから」
「うん……わたしは、クオンのこと信じてる」
キャルの眼が僕を見つめる。
その可憐な瞳に、吸い寄せられるように、僕も見つめ返した。
「よし、それじゃあ新たなクエストを見てみよう!」
エリナの掛け声で、僕らはギルド内のクエスト看板へと移動した。
クエスト看板を見ると、色々なクエストのメモがある。が、多くは常時クエストであるダンジョンのモンスター討伐だった。
その中で、キヘニ村の五角イノシシ駆除、というのがあった。
「お、これは五角イノシシじゃないか! これいいんじゃないか? ――難易度はCランク指定だけど」
「五角イノシシって、Dランクモンスターって言ってませんでしたっけ? それにあんなに稼ぎになるクエストが残ってるのも気になりますね」
僕の言葉を受けて、キャルが口を開く。
「ミリアさんに訊いてみる?」
「そうしようか」
僕たちは受付のミリアの処へと出向いた。
「あら、ブランケッツの皆さん! お久しぶりじゃないですか!」
相変わらずの美人エルフの笑顔だ。僕はメモを見せて、ミリアさんに訊ねた。
「このクエスト、どうして残ってるんですか? 五角イノシシは結構、いい稼ぎになるのに」
僕の問いに、ミリアが答える。
「ああ、それはブランケッツの皆さんが、この前倒したイノシシをイメージしてるからですね? ガールドさんに聞きましたけど、凄くいい状態でイノシシを持ちこんでるんですよ。角も牙も無傷、肉も焼けたり焦げたりせず、血抜きの状態で鮮度も落ちてない――こんな状態で持ってこれるパーティーって、そんなにいないんですよ」
そうだったのか。全ては偶然だけど。
「それに、この五角イノシシは『一文字』って名前のついてる、地域の中では有名な凶悪モンスターなんです」
「一文字? …って?」
「鼻の頭のところに、前に駆除しようとした剣士がつけた傷があるんです。けど、その剣士は逆に、それで殺されてしまった」
僕らは驚いて、顔を見合わす。
「一文字は巨大で強力なだけでなく、賢いんです。集団で駆除にくると、近くのスネバッツの森に逃げ込むんです。その森には魔物であるブリッツバット、そしてジャイアント・バイパーが数多く自生してます。冒険者パーティーは、一文字だけじゃなく、そのDランクモンスターの大群と戦うことを余儀なくされるんです。それで難易度が高く、誰も行ってくれないんですよね……」
ミリアはそこでため息をついた。
エリナが眼鏡を上げながら、口を開く。
「わ、私たちにも、ちょっと早いかな…?」
「そうですね、皆さんはまだEランクですので、もうちょっと経験を積んでれば、お願いもするんですが――」
ミリアはそこでため息をついた。
「キヘニ村はかなり遠く、そんな辺境まで行って危険を冒すより、近くの見知ったダンジョン潜りの方が安全なんですよね。それでそのクエストが残ってしまってるんですが……。実はキヘニ村では、農作業中の方が二人、一文字に食い殺されて大変な状態なんです。農作業をやめろとも言えないし、かと言って、人口の少ない村なので集団作業も難しい状況です」
どくん、と僕の胸が鳴った。
ランスロットにあんな事を言ったけど……僕自身はどうなんだ?
自分たちの身の安全を、やっぱり考えたいんじゃないのか?
一番助けてほしい人たちのところに行って、手を差し伸べるなんて――そんな、きれいごと、実行なんかできやしないんだ。
僕は、歯噛みした。
「―――よし、いいじゃないか! 行こう、クオンくん」
エリナの声に、僕は驚いて顔をあげた。
「な、なに言ってるんですか、エリナさん! 聴いたでしょ? 難易度Cランクのクエストで、僕らにはまだ危険だって――」
「けど、君は行きたいんだろう?」
エリナはそう言って微笑んだ。
「え? 僕が……?」
キャルも微笑む。
「うん。クオン、凄く苦しそうだった。行って、村の人たちを助けたいんでしょ? 見てて、すぐに判ったよ」
そう言うと、キャルとエリナは顔を見合わせて笑った。
「クオンくんは、判りやすいからな」
「クオンは……優しいから」
僕は微笑む二人を見つめた。
このクエストに行ったら、二人も危険にさらすかもしれない。――いや、きっと危険だ。
それなのに僕は……自分も貧弱だというのに、誰かを助けたいと思ってる。
僕はなんてバカなんだ。
「ごめん……僕は…村の人たちを助けに行きたいと思ってる」
「うん、いいと思う。ブランケッツの再始動に相応しいクエストだよ」
キャルはそう言って微笑んだ。エリナが明るい声を出す。
「それに、この一ヶ月で我々がどれだけ成長できたかを計る、いいクエストだ。やろう、クオンくん!」
「みんな……」
二人は頷いた。僕も頷く。
僕は、ミリアに向き直った。
「僕たち、このクエストを受けようと思います。やらせてください」
ミリアは少し目を丸くしてたけど、やがて優しい目つきに変わって僕らに言った。
「判りました、それではお願いします。けど、一つだけ約束してください」
「なんですか?」
「無理だ、危険だと思ったら、意地やプライドより命を優先してください。――これが、クエストを依頼する条件です」
ミリアの眼は、真剣に僕らを見つめていた。
「判りました。約束します」
僕らはそう言って、互いの顔を見て頷き合った。
*
キヘニ村は確かに遠い。
――が、ブランケッツ号の最速で行くと、一時間半くらいでついた。
仮に時速100kmだとしたら、150kmだったのだろうか?
なににしろ、移動速度の向上には目覚ましいものがあった。
「ここがキヘニ村か。……確かに、辺境だねえ」
山あいの村だ。平地の部分が少なく、狭い土地を段々畑にしている。
僕らは荷車を引きながら、村を廻る。と、一件の家の玄関に、黒い布がかけられていた。人の気配がある。
「入ってみますか」
その布を左右に分けて中に入る。
家の中には、大勢の人がいた。一斉に、入ってきた僕らに注目した。
* * * * *
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