2 ブランケッツ号
個室を使うようになったので、そこでエリナが用意してくれた服を着る。
と、カミラさんがくれた状態から微妙に変わっていた。ちょっと機能性が増して、オシャレ感が出てる。
リビングに行くと、二人も新しい衣装を身に着けていた。
「可愛い……」
思わず、言葉が洩れた。
白い上着は以前に買ったものだが、インナーとの組み合わせが絶妙になっている。
腰回りはベルトじゃなくて、大きなリボン。それにショートパンツに白のニーハイソックス。
「え?」
キャルが振り返る。僕は慌てて、何も言ってないふりをして、二人に近づいた。
「おお、クオンくん、着てみた感じはどうだい?」
「はい、凄くいいです。カッコいいし、強化もしてあって機能的です。エリナさんが作ったんですか?」
「うん。実はコスプレが好きで、衣装も自分で作ってたりしたんだ。ミシンがあるとよかったんだが、手縫いなのでちょっと時間がかかった。しかし、その分、頑丈だぞ」
「そういえば前に、つる草で編み籠作ってましたね。そういう事だったんだ」
「これも作ってみたんだ」
エリナはそう言って、革製の袋のようなものを差し出した。
「なんですか、これ?」
「君の武器の先端を覆うものだ」
エリナからもらった革製の袋を、棒剣の刃に被せる。
「ピッタリだ!」
「採寸したからな。それで、紐でその膨らみのところで結べば、外れないはずだ」
言われた通り、袋の下にある二本の紐を巻き付けて結ぶ。
「凄い! 完璧な仕上がりですね! エリナさん、こういう装備品作りみたいな事もできるんじゃないですか?」
「そういう事も、将来的には視野に入れていいかもな」
微笑むエリナに、僕は礼を言った。
三人で表へ出る。僕は二人に待ってるように言って、荷車を運んできた。
「あ、何か形が変わってる――」
キャルが驚いて声をあげた。
そう、実は荷車は改造したのだった。前部に二人が座れるように段差を作り、少し大きさを伸ばしたのだった。
「二人は前に座ってみてください」
二人が座ると、エリナが上機嫌で声をあげた。
「なんだか、人力車のようだな!」
「実際、それをイメージしてます。――が、これは二人にも働いてもらう前提で作ったんです」
僕の言葉に、二人は首を傾げた。
――数分後。
「――これは凄いな、クオンくん! 快適な上に、速い!」
「ほんと、凄いわ!」
荷車の二人が歓声をあげた。
二人に何を頼んだか。
二人が乗った後に、僕は荷車を軽化する。重量が軽くなった荷車を、エリナが念動力で浮かせる。そしてキャルが僕の前から荷車を覆うように、力場魔法をかける。
僕はほとんど重量を感じない荷車を、ゴム脚を使って最大加速で引く。
荷車は浮いているから、地面の凹凸の影響を受けない。
僕はゴーグルもしているが、力場魔法が風よけになり、僕にも二人にも風圧の影響はない。
ある種、リニアモーターカーのように僕らは走っているのだ。
「これは凄いな! さすがクオンくんだ!」
「二人の協力を前提にしてのアイデアですよ。いわば、『ブランケッツ号』です」
「凄く楽しい! どこまでも行けそうな気がする!」
キャルは嬉しそうな声をあげた。
こんなキャルの笑顔が見れて、それだけでもこの『ブランケッツ号』の意味があったと思った。
信じられないくらいあっという間に、僕らは街に到着した。
「物凄く速いな! 今までは二時間近く歩いてたのに――。馬車でも一時間近くかかったんじゃなかたっけ」
「そうですね。多分、30分はかかってないでしょう」
これなら街やクエスト先に、すぐに行ける。
僕ら三人が協力すれば、可能性は凄く広がるんだ。
街に入ってからは普通に荷車を引いて、僕らはギルドに行った。
「――お! ブランケッツじゃないか」
不意にあがった声に、僕はびっくりして声の主を見た。
鎧を着た剣士で、人好きのする爽やかな感じの男の人だ。後ろに、パーティーメンバーらしき女性二人と、ターバンを巻いた長身の男がいる。
「よお、お前ら話題になってたんだぜ。最初のクエスト以降、姿が見えなかったんで、どうしたんだろうってな」
剣士はくったくのない感じで話しかけてくる。
こんな時、どう返していいか判らない。なので、僕は黙っていた。
「あ、俺はランスロット。いや、なんかゲイルとカザンの奴らが、たかりに行って逆襲されたってんで、それでもう冒険者がイヤになったんじゃないかって心配してたんだよ」
ゲイルとカザンって――あのたちの悪い奴らの事か。
「まあ、あいつらの新人いびりは有名でさ、俺も問題だとは思ってたんだよ――」
ランスロット――と名乗った赤い髪の剣士は、そう言うと親しみを込めたつもりか笑ってみせた。
「――お前たち、まだEランクなんだろ? どうだろう、実力は充分らしいから、俺たちと合同パーティーを組んで、Dランクのクエストに挑戦してみないか?」
ランスロットは、そう言って爽やかな笑顔を見せた。
いい人なんだろう。多分。
けど、僕は彼の言葉を聞いて――抑えようのない苛立ちがこみ上げてきた。
「……貴方はいびられた新人や、あの二人組に対して何かしたんですか?」
うつむいたまま急に声をあげた僕に、ランスロットが戸惑いの声を洩らした。
「え……いや、そこまでは――」
僕は顔をあげた。
「問題が片付いた後で、『問題があると思ってたんだ』って言うのは、誰だってできますよ」
僕は顔を上げて、ランスロットを見つめた。戸惑いの表情が、そこにあった。
「一番、助けてほしい時に手を出さない人を――僕は信用しない」
僕はランスロットの眼を見つめて、はっきりと言った。
ランスロットの顔が、驚きに包まれる。
「ちょっと、あんた――」
後ろにいた女性が、むっとした顔で声をあげようとする。
が、ランスロットはそれを手で抑えた。
「そうか。…確かにお前の言う通りだな。まあ、気が向いたら考えといてくれ」
ランスロットは苦笑いを浮かべると、仲間たちと去っていった。
やつあたり――かもしれない。
けど僕は、卒業の時になって、『狩谷の態度には、私も問題があると思ってたんだよ』と言った担任の教師・小田の事を思い出したのだ。
一番助けてほしかった時には見て見ぬふりで、イジメてる狩谷は野放し。
どうしてそんな風だったか、僕は後で知った。
クラスで唯一、僕を助けようとした女生徒――浅谷有美さんが、学校を止めた。
狩谷の仲間たちに、集団レイプされたって噂だった。
その事件以降、誰も僕を助けようとはしなくなった。
みんな自分を守るので精いっぱいなのだ。
担任の小田にも、高校生の娘がいた。多分、娘を守ろうとしたんだろう。
けど、そのために僕は見殺しで、ひどい目にあった浅谷さんが退学だ。
許せなかった――
「クオン……恐い顔だよ?」
心配そうに見つめるキャルに、僕は「なんでもないよ」としか言えなかった。
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