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6 家の補修


まずやったのは、切り取った木材からはしごを作ることだった。


 二本の角材を作り、それで薪を挟んでいく。普通なら釘を使うところだが、僕は木材を軟化させて接着してしまう。一体化してるから、釘よりむしろ強度が高いはずだ。


 屋根に上がると、風呂場の上らしき場所のスレートが壊れていた。瓦ほど厚くないが、陶器製のスレートを屋根に葺いている。


 壊れたスレートを元の形に戻すと、それが外れていた場所を見る。

 どうも、その場所字体に問題がありそうだ。


 僕は薪を持って上がると、薪を軟化して粘土状にし、屋根のところに塗り付けた。

 これで細かい穴も塞いだはずだが。そしてスレートを戻した。


 浴室へ戻って、天井のシミを見る。


「これも消しちゃうか」


 薪の綺麗な箇所だけ軟化して、セメントを塗るように天井に塗ってみた。

 コテが使えるといいのだが、それだと軟化が維持できないから、みんな僕の手塗りだ。けど、なんとなく綺麗な木の色で、天井を綺麗にできた。


 ついでに、浴室全体のタイルを見てみる。

 床と壁の下方にタイルが貼られてるが、一部損傷していた。僕はそれを取り出して直し、また貼りつけた。


「これでいいかな」


 と思い、二人を呼んだ。二人がやってくる。


「すごーいっ!」


 キャルがまず歓声をあげた。

 エリナも目を輝かせている。


「凄いぞ、クオンくん! お風呂場が新品みたいじゃないか!」

「いや、なんとなく、やってみただけですけどね……」


 僕はテレた。二人に喜んでもらえて凄く嬉しかった。

 その日の晩からは、お風呂に入れるようになった。練習で凄く汗をかいてるから、我ながらよかったと思う。


 風呂釜は外にあり、薪を燃やして風呂を炊く。

 僕は薪を炊きながら、浴室にいるキャルに声をかけた。


「大丈夫? ぬるいかな?」

「ううん。わたし、熱いの苦手だから、これくらいでいい」


 浴室の少し開けた窓から声がする。


「じゃあ、僕は戻るね」

「ねえ、クオン――」


 僕が立ち上がって、室内に戻ろうとした時、キャルの声がした。


「どうしたの?」

「……わたし、今、幸せ。あの時、クオンに助けてもらって…本当によかった」


 僕は、なんて返せばいいのか判らず、少し考えてしまったが、なんとか口を開いた。


「もっとよくなるよ」

「え……」

「もっと――僕たちの暮らしをいいものにしていけるよ。これから」

「そっか……そうだね」


 不意に、浴室の窓が開いて、キャルが顔を出した。


「わ」


 肩がすっかり見えてる。僕はどぎまぎした。

 そんな僕をよそに、キャルは上気した顔で微笑んだ。


「ありがとう、クオン」

「う……うん」


 僕は赤くなるのを自覚しながら、その場から逃げるように去った。


   *


 壊れた壁を応急処置でふさぐことはできたけど、もっと根本的に直したい――と思っていた。


 そもそもだが、家の壁が薄い。

 家の基礎は煉瓦でできていた。その上に土台となる木がおいてあり、それを渡すように横木が置かれている。そしてその上に床板――という構造だ。


 で、壁は土台を挟むように内と外に貼られているのだが……

 板二枚きりで、外界と遮られてるだけだ。簡単に言うと、断熱材がないから寒いのだ。多分。


「けど、断熱材に使う発泡スチロールなんてないだろうしなあ……」


 実は、引きこもってる時によく見ていたのがキャンピングカーとかキャンプの動画だ。


 自分は部屋から一歩も出ずに、外に出て活動するのに憧れた。

 凄く気持ちよさそうだった。


 それから自作でキャンピングカーを作る、なんて動画も見るようになった。

 車の事なんかまったく知らなかったが、車の内装にも断熱材が使われてるのを初めて知った。鉄板の塊だとばかり思ってた。


 それから『一人で家つくってみた』的な動画も見たりしたのだ。それで家には基礎がある、とか、壁には断熱材が入ってるとか、そんな事を知ったのだ。

 無論、素人のかじった程度の知識でしかないけど。


「何か――発泡スチロールの代わりになるもの……」


 僕は考えた挙句、キャルに声をかけた。


「キャル、頼みがあるんだけど」

「なあに?」


 僕はキャルを、庭に積んである切り取った枝葉の処へ連れて行った。

 六本分の枝葉だったが、相当に多い。


「これを葉だけにするから、乾かしてもらえる?」


 キャルは少し考えて、笑顔を見せた。


「うん、いいよ。やってみる」


 僕は枝葉から、葉だけを刈り取った。

 ある程度たまったところで、キャルに来てもらう。


「丸太はね、熱風で吹き飛ばないから、そのままできたんだけど――」

「難しいの?」


「うんとね、力場魔法で包み込んで、その中で熱風を起こすのがいいかなって」


 そう言うと、キャルは指輪をしている左手を上げた。

 ふわり、と葉っぱの塊が宙に浮かぶ。見えない球体の中にあるようだ。


「わ、凄い」

「これで、中に熱風を起こす」


 キャルは右手で魔道書を持って、詠唱を始めた。


「大気の中にありし粒の塊よ、互いに響き合い、結び合い、熱の渦となれ――」


 球体の中で、熱風が起こる。葉が渦を巻いて、洗濯機の中でかく乱されるように舞っている。


 そうやってキャルに頼んだ葉っぱが、全て乾燥した葉になった。


「ありがとう、キャル」

「ううん。凄くいい練習になった。それじゃあ、頑張ってね」


 キャルがにっこり微笑む。

 なんて可愛いんだろう。……僕って、何回、これ思えばいいんだろ?


「まあ……いいか。さて――これで虫なんかも除去できたろうし」


 僕は乾燥した葉の山に向き合った。

 軟化して、それを粘土みたいにまとめてしまう。


「多分、完全に堅くしないで、空気入れた方がいいんだよね」


 少しふわ感が残るように、葉っぱをかき集めて塊にしていく。

 これが発砲スチロールの代わりだ。


 僕は大量にできたその素材を持って、壁に行った。

 塗りこむ。軟化を解くと、いい感じで固まった。


「うん。断熱材になりそうだ」


 僕はそうやって断熱材を塗りこんでいくと、その後に作った木材を壁として貼った。断熱材を内壁と外壁で挟んだ感じだ。


「これで、あったかくなるかな」


   *


 午後のリフォームをそんな感じで進めていって、二週間たつ頃には家の外壁を全部張り替えた。


 その間に、色々修繕した箇所もある。家の鍵とか、窓のたてつけとか、なんでも修理した。悪くなってた家の柱は、新しいものと交換した。木材が必要になって、木もさらに二本切った。腐ってた横木なんかも、部分的に交換した。


「――なんか、家の中あったかくなったね」

「うん、そう思う」


 エリナとキャルが夕食時にそう言った時、凄く嬉しくなった。


 やり甲斐、というものを初めて知った。





    *     *     *     *     *


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