5 日々の強化
朝は生身の肉体を鍛えるための、基礎的な練習をした。朝食を食べた後は、僕のディギアを使った実戦的な練習をすることにしている。
まず食べたばかりだから、激しい運動は避けて、練度を上げる訓練をする。
薪を両手に持ち、右手の方を軽くし、左手の方を軽くする。
これが最初は中々上手くいかなかった。が、コツを覚えるとやっとできるようになった。これを、瞬時に切り替える練習をする。
軽と重、が終わったら、次は硬と軟。これも同じ様に練習する。
次はかなり難しい。最初は両手ではできないから、一本の薪を使う。
軽くて柔らかいもの、軽くて硬いもの。重くて柔らかいもの、重くて硬いもの。
このそれぞれを意識して、属性変化させる。
こういう訓練が何の役に立つかは判らないけど、瞬時にイメージ通りになるのが理想だと思ってる。
それと手に触れた途端に、属性変化をかけられるようになる――のが理想だ。
「よし……お腹もこなれたかな」
次は動く練習だ。まずゴム脚を作って、それを最大限に活かす努力をする。
ゴム脚でダッシュ、長距離、短距離。加えて、武器を持った状態での各種の移動。
それから森の中での訓練。
まず木を避けて、左右自在にゴム脚で素早く移動できること。跳んで着地した瞬間に、すぐにゴム脚にタメを作って次の跳びにつなげるのが重要だ。
と同時に、その際は自分を軽くしてる事も大事だ。軽い方が、速く動ける。
人間の身体って、重いんだな、と逆に思った。
それから今度は、木を蹴って、樹々の間を移動する訓練。
木を蹴って跳び、次の木にたどり着くと、その木を蹴って、また次の木へ。
そんな練習をする。マンガに出てくる忍者みたいだ、とか自分で思った。
「――おっと!」
たまに蹴った足が滑ったりして、バランスを崩して落下する。
「硬化!」
そういう時、瞬時に身体を硬化できれば怪我しない。この瞬時の硬化は、多分、戦闘する上で一番大事な能力だと思うから、数を練習する。
思いがけないタイミングでも対応できることが大事だと思うから、なるべく木の間の移動を、無理めに速くやる。自分でも訳わからないくらいに速くなって落ちても、瞬時に硬化できることが大事だ。
次第に、木の間にいる時に落ち着いてきた。
今度はどんどん高さを上げていく。木の間を跳びながら、10m以上の高さまで跳躍する。
そして最後は敢えて落下――と、同時に鉄棒を振り下ろす。
「重化斬り!」
今のところ、僕の最大の必殺技だ。巨大イノシシとの戦いで判ったが、この技を喰らわせるには上をとらなきゃいけない。
木の間を跳んで上空に行く方法も練習したが、単純な垂直跳びも練習した。
ゴム脚を使って、6,7mは跳べるようになった。
凄いな、我ながら。これでオリンピック出れたら金メダル確定なのに。
そんなくだらない事、少しは考えた。
しかし重化斬りはあくまで最後の技だ。それまでは、地上で戦えた方がいい。
そう考えて、まずダッシュからの重硬化タックル、というのを考えた。
ゴム脚で一気に加速して、そのまま軽くしていた身体を、狙いである木に当たる直前に重硬化する。
「重硬タックル!」
僕の身体が当たると、鈍い音が響き、次いで枝葉が揺れる音がした。
当てるのは肩だ。ショルダータックルという奴か。これは反復練習。一つの技なんだから、意識しないでも使えるレベルにしたい。
これの距離を短くして、一歩踏み込んで肘打ち、というのを練習することにした。
後ろのゴム脚で蹴って踏み込み、重硬化した肘打ちを喰らわせる。
元の筋力が大してないから、僕の力で打っても威力はあまりない。けど、ゴム脚の推進力を使って、それに重さを加えればそれなりの威力になるはずだ。
左右の肘打ちを打った後は、パンチ。何かで見た空手の突きを真似る。
腰にためた拳を、踏み込みと同時に突き出す。
これも僕の筋力では大した威力にならないから、イメージとしては僕の腕を槍にして、それを重硬化した身体でぶつけるイメージだ。
腕を伸ばすタイミングで重硬化するのが難しいが、それをなんとか練習する。
「ハッ!」
それから鉄棒だ。鉄棒の振り下ろしも、同じように踏み込んだときに、最大に重硬化できるようにタイミングを学習する。段々、タイミングが掴めてきた。
僕が練習相手にしていた木が、段々、数日のうちにボロボロになってきた。無理もないか。肘打ちに拳、鉄棒の攻撃を喰らっているのだ。
「そういえば……」
ふと気づいて、蹴りもするようにした。そう言えば、前にたかりに来た奴を蹴ったんだった。
蹴りに重さを乗せるのって、難しい。蹴った時に自分が浮いてしまい、重さを乗せらないのだ。そうすると僕の筋力だけの貧弱蹴りになってしまう。
なんか、前の時は適当にイメージで、重くなった足を相手の膝に乗せる――ような感じで蹴ったのだが、意識すると重さを出すように蹴るのは難しかった。けど、これも練習する。何が役に立つか判らないからだ。
そんな感じの事を毎日練習した。
*
午後はリフォームにとりかかる。――のだが、実は一番最初にとりかかったのは、トイレだった。
エリナに連れられて、家のトイレに行く。
と、驚いたことに水洗式トイレだ。
「え! 水洗トイレ!? 水道流れてるんですか?」
「いや、流れてない。どうやら、このタンクに水をくむのは手作業でやってたらしい。ただ……流した先がどうなるかという事だ。正直、下水道が通ってるとも思えないんだが――」
エリナが腕組みをすると、キャルが口を開いた。
「あ、スライム式トイレだと思うよ」
「スライム式? ……なんだ、それ?」
エリナの問いに、キャルが説明した。
なんでも、流した先には地下タンクがあって、そこにスライムがいる。スライムは汚物を綺麗に処理し、匂いもなく清潔らしい。かなり一般的な設備のようだ。
「――で、スライムはどうするんだ?」
「森の中の沼とか湿地帯にいると思うけど……」
僕らは早速、スライムを捕まえにいった。沼にいる座布団くらいの大きなゼリーを見つけると、それがスライムだという。
僕はキャルに訊いた。
「どうやって捕まえるの?」
「判らないけど……素手では無理だと思う。わたしの力場魔法と、エリナの念動力で浮かせて捕まえるのがいいと思う」
「よし、やってみよう」
エリナとキャルが、何か念じてる。と、ふわりと水色のゼリーが宙に浮いた。
持ってきた荷車に、そっと乗せる。
改めて思うが、僕にはこういう力がない。やはり能なしなのだ。
しかしそれで、トイレ問題は解決した。タンクの貯水を手作業で行わなければいけない面倒さはあるが、清潔にトイレが使えるようになった。
トイレの後は、お風呂場だった。
「此処はなあ……バスタブが壊れてる上に、雨漏りがひどいんだ」
見ると、陶器製のバスタブの底の部分が割れている。
それに天井にはシミがあり、雨漏りの痕が残っていた。
「なるほど……此処は僕が、ちょっと工夫して直してみます」
最初にとりかかったのは、バスタブだ。割れたバスタブの破片を拾い集めると、軟化して粘土状にする。それを割れた箇所に塗りこみ、元の形に再現する。
「ちょっと量が足らないな――」
バスタブの手すり部分を一部取って、それで穴埋めに使う。なんとかバスタブの穴埋めができた。水を入れて、洩れないかどうかを確認すると、大丈夫だった。
「次は雨漏りか――」
僕は天井に広がるシミを見つめた。
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