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3 三人で料理する


 六本の木を切って丸太にすると、ちょっと薄暗くなってきた。


「キャル、今日はもうこの辺にしとこうか。毎日、ちょっとずつ進めればいいんだし」

「そうだね」


 キャルが魔法を止めて微笑む。

 凄く――邪心のない、汚れのない……清らかな笑顔だ。


 僕はその可愛さにドキドキしながら、それを誤魔化すように口を開いた。


「それにしてもキャルって、本当に魔法使いなんだね。凄いなあ」

「……そんな事ないよ。わたし、まだ全然だし」


 キャルが恥ずかしそうにうつむく。


「わたし……ヒモグラの時もイノシシの時も、全然、役に立たなかったなって…。そう思ったの」

「そんな事ないよ! キャルがいたから、イノシシだって倒せたんだし」 


 僕が懸命にそう言うと、キャルは笑った。


「そう言ってくれると嬉しいけど――やっぱり、クオンが凄かったんだ。わたし、もっとクオンや――エリナの役にたてるようになりたい。だからね、わたしにできる事……魔法の勉強、頑張るつもり」


 そう言って笑ったキャルは、微笑んでいたけど、しっかりとした意志が見て取れた。


 やっぱり……キャルは素敵な子だ。

 改めて、そう思った。


 可愛いだけじゃなく、キャルのこと尊敬できる。そんな風に思った。


「僕も……もっと頑張るよ。キャルやみんなと、もっといい暮らしができるように」

「うん。そうだね」


 僕らは互いに微笑いあった。

そうしてキャルと連れ立って家に戻った。


 家に戻ると、凄くリビングが綺麗になっていた。

 エリナが奮闘している。僕は声をあげた。


「エリナ、凄く綺麗になったよ!」


 僕は雑巾で壁を一心不乱に拭いているエリナに声をかけた。エリナが振り返る。


「ん? ――あ、まあ、そうだろう! なにせ、頑張ったからな!」


 エリナが胸を張った。それを見て、キャルが笑う。


「うん。凄く綺麗になったよ。見違えた」

「まあ、まだリビングだけだけどね。これから少しずつ、やっていくつもりだ」


 僕はエリナに言った。


「今日はもう終いにしようよ。ご飯にしよう」

「そうだな。よく考えたら、お腹が減った」


 それから今日買ってきた食材を取り出すことにする。

 キャルが収納珠(リシーブ・カプセル)を出して、かまどに近くの棚に置いた。


「このボタンを押すと、中の物が写しだされるから、それを指さしして選択する感じよ」


 そういうとキャルは、収納珠のボタンを押した。

 空中に映像が映し出される。それの肉と野菜を選びながら、エリナが言った。


「このカプセルはここに据え置きにして、食材保管庫にした方がいいかな?」

「そうですね。持ち歩くより、いいかも」


 エリナは食材を持ち出すと、腕まくりをした。


「さ~て、じゃあ料理を作るか!」

「エリナさん、料理作れるんですか?」


 僕の問いに、エリナは力強く言った。


「いや、やったことない!」

「……キャルは?」


「わたしも……作ったことない…ごめんなさい」

「クオンくんはどうだい?」


 僕は答えた。


「いや、全然です」


 と、エリナが笑い出した。


「なあんだ、全員、料理経験なしか。いいじゃないか、じゃあみんなで作ってみようよ!」

「そうですね」

「うん。頑張ろう」


 キャルが握り拳をつくる。こんな仕草もするんだ。可愛いな。


 それから僕らは、肉と野菜を炒め、野菜を切ってスープをつくった。

 肉は五角イノシシの肉だ。僕らが仕留めたのは、どんな食材になるのか気になったから買ってみたのだ。


 イノシシの肉を、キノコと葉物野菜と一緒に塩コショウで炒める。

 やった事がなくったって――三人がかりでやれば、なんとかなる。


 ヒモグラ以上に悪戦苦闘したかもしれないけど、僕らはなんとか夕食を作った。


 手製のテーブルに乗せて、買ってきたばかりの食器に料理をよそう。


「そうだ、そろそろ照明が必要だな」


 道具屋で買ってきた照明器具を、エリナが取り出した。

 この世界の照明器具は、電気ではなくて発光筒というのを取り付けるそうだ。


 発光石と呼ばれるものを精製した物で、これを定期的に入れ替えるらしい。

 電池みたいなものか。


「わあ――明るいですね」

「うん。やっと文化的な生活に戻った気がする」


 照明器具以外にも、暖炉に火をくべている。壁の穴は最低限の補修はしたので、風が吹き抜けるような事はない。


 ――やっと、落ち着ける家になった。

 そう、実感した。


 ふと見ると、エリナの顔にも、キャルの顔にも、特別な気持ちが浮かんでいるのが見えた。


「……ここが、僕らの家なんですね」

「そうだな――」


 エリナがしみじみ口にした後で、我に返って口を開いた。


「さて、ご飯にしようか。それでは――」

「「「いただきます!」」」


 僕らの作った料理は――まずまずだった。

 イノシシの肉は思ったより硬い。けど、肉汁のコクはかなり美味しく、高級食材だというのも判る気がした。そしてキノコが美味しかった。


 食を進めてると、エリナが言った。


「そう言えば、クオンくん。昼間のチンピラたちをやっつけたのは、あっという間だったな。ビックリしたよ」

「チンピ……ら?」


 キャルが不思議そうな顔をするので、僕は少し説明する。


「たちの悪い奴らって、意味だよ」

「わたし……恐くて、何もできなかった」

「実は私もだ。クオンくん、遅まきながらありがとう」


 エリナが頭を下げるので、僕は手を振った。


「やめてくださいよ。まあ……イノシシに比べたら、ビビるほどの相手でもないなって思っただけだから」


 僕は苦笑いしながら言った。


 ――実は判ったことが一つある。

 それは、あいつらは弱い奴らだから、より弱そうな僕らをカモにしようとしたんだ――ってこと。


 本当に強い人は、いつも自分より強い者と戦おうとする。

 けど、本当に弱い奴は、自分より弱そうなのを見つけて優位を実感して、それで自分はそれなりだ――って、思おうとする。


 今なら判る。狩谷が凄く弱い奴だったって事が。


 だけど周りも弱かった。虚勢を張ってるだけの狩谷を恐れて、誰も僕に対するイジメを止めようとはしなかった。


 ……けど、それ以上に僕は弱かった。


 何をされても抵抗せず、戦いもせず、黙って従って我慢してるだけ。

 それが賢くて、いいやり方だと思ってたんだ。


「……僕は弱い奴だけど、これからは戦わなきゃいけない時には、戦う人間になろと思ってる。別に勝ったり、強いからって人を見下すんじゃなく、ただ自分や――自分の守りたい人を、ちゃんと守れるような人間になりたい」


 僕がそう言うと、エリナが言った。


「クオンくんは、私たちを守ってくれた。充分、強いと思うぞ」

「クオンは強くて……優しい人」


 キャルがそう言って微笑んだ。

 僕は――この微笑みに応えられる人間になりたい。……そう思った。



    *     *     *     *     *


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― 新着の感想 ―
元奴隷のキャルは識字と地図解読と一般常識などの知識知見を保有するが魔法があまり使えないことや奴隷になった背景などが分からず、エリナが本好きで料理はできない24歳などは追加でそれとなく紹介されていますが…
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