5 部屋を探す
「大丈夫だよ、クオン。ありがとう」
僕は頷いた。
「……せっかくいい気分だったのに――台無しだ」
ああいう奴らがいるから、不幸が生まれる。僕はああいう、狩谷みたいな奴らが心の底から嫌いだ。
「まあまあ、いいじゃないか、クオンくん。それより、目立ってしまったみたいだから、場所を変えよう」
エリナが言ったことで、周囲を見回すと、確かにちょっと注目された。
恥ずかしい。僕は荷車を引っ張ると、慌ててその場を後にした。
少し離れると、また広場がある。そこのベンチに二人が腰かけ、僕は向かいに荷車をおいてその上に座った。
「ギルドでお金を稼いだのを見てたんだろうな。まあ、ちょっと酒代をたかりに来ただけなんだろうけど」
「判ってます。ただ、キャルの肩を掴んだのが許せなかっただけだ」
「クオン……」
キャルが心配そうな顔をした。ので、僕は笑ってみせた。
「もう大丈夫だよ。いつまでも怒っててもしょうがないし。――それで、これからどうしましょうか?」
「それなんだがな――」
エリナは思慮深げに口を開いた。
「身分証があって、お金がある。これだけあったら……もしかしたら私たち、新しい部屋を探せるんじゃないかって思ったんだ」
「新しい住まいですか!」
確かに、凄く魅力的な思い付きだ。
「いいですね! 人間らしい暮らしができるようになる」
「わたしも……いいと思う!」
キャルも息を弾ませた。
エリナが微笑んだ。
「よし、じゃあ不動産屋を探そう。キャルちゃん、地図出して」
「はい」
地図を頼りに、僕たちは街の不動産屋へと出向いた。
不動産屋の表看板を見ると、部屋の絵図と値段が色々貼ってある。
「これなんか家賃55000ワルドって書いてあるぞ。ほら、これくらいなら借りられるんじゃないか?」
「そうですね。結構、現実的だ」
僕もそう答えた。キャルも真剣な面持ちで、看板を見ていた。
店に入る。
「いらっしゃいませ。部屋をお探しですか?」
不動産屋は身ぎれいな着こなしで、髪を七三に分けた男だった。
「最低価格でいいんで、小さな部屋を探してるんだけど」
エリナがそう言うと、男がもみ手で訊いてきた。
「その出でたちですと、冒険者パーティー御一行ですかね? パーティールームが欲しいと」
「そう、それだ」
「ならば、ご予算はいかほどで?」
七三の問いに、エリナは答えた。
「そんなにお金ないから、安ければ安い程いいけど――そもそもだけど、借りる際にどれくらいお金が必要です?」
そうか。日本なら敷金礼金とかある。あれは地方によっても違いがあるって聞いたことがあるぞ。
「準備金が家賃の三ヶ月分。あとは手数料が一律50000ワルドですね」
「なるほど……表の家賃55000ワルドなんかは?」
「あそこを御所望ですか? じゃあ、あそこも含めて、幾つか安い物件を見て回りましょうか」
そう言うと、七三は僕らを案内した。
最初に見た家賃55000の部屋は、物凄くゴミゴミした裏通りの中にあるオンボロ集合住宅の中だった。
「ちょっと――治安が悪そうな処ですね…」
僕の言葉を受けて、七三が言う。
「そうですね、この辺はスラム街ですからね。まあ、安いからには、それなりの理由があるという事でして。けど、敢えてこういう所がいいという冒険者さんも多いのですよ。
「はあ……」
階段で三階まで上がる。ギシギシいっている。
部屋を見ると、本当に狭い部屋だ。僕の以前の部屋くらいだから、六畳くらいか。
「10㎡の部屋ですね。トイレは共同。風呂はありません」
「次、行こうか」
エリナはもう、見る気がないようだった。無理もない。
その場所から去りながら、僕はエリナとキャルに言った。
「お風呂はともかく、トイレは部屋についてる方がいいよ。……避難キャンプでトイレに行く途中に、女性が襲われたって話、聞いたことある」
僕の言葉に、エリナも頷いた。
「そうだね。結構、長く住むかもしれないんだから、あんまり安いだけで考えちゃダメだな」
エリナの言葉に、キャルもこくこくと頷いた。
そこからが大変だった。
そうしてこだわってみると、中々、これというのが見つからない。
部屋は広くていいと思うけど、トイレがなかったり、トイレはあるけどあまりにも汚い部屋だったり。小奇麗でいいなと思うと、予算オーバーだったりした。
10件も廻ると、七三の方が呆れてきた。
「まあ、なかなかお気に召す部屋がないようですね」
「すみません……」
僕らも歩き疲れた。もう、翌日以降に持ち越そうかと思った時、七三が口を開いた。
「ならばいっその事、賃貸ではなく購入はどうですか?」
「購入? 家を?」
「はい。大分、離れてはいますが、一軒家があります」
僕らは顔を見合わせる。
「家を買うようなお金はないよ」
「いえいえ。ご予算的には同じくらいです。手数料込みで30万ワルド!」
「確かに……許容範囲だけど」
「ただ、その分、物凄く古いというか――あばら家というか。けど、買い取った後で修繕すれば、立派に住めます」
僕は二人を見る。
「どうする?」
「一応…見てみるか」
僕らの了承に、七三は営業スマイルを浮かべた。
「それじゃあ一旦、店に戻りましょう。馬車でご案内します」
それから僕らは不動産屋に戻った。余談だが、不動産屋の前に、荷車は置かせてもらっていた。
天井のない馬車に揺られて、しばらく進む。
「小一時間くらいですがね」
七三が手綱を握りながら、そう言った。馬車は四人が対面で座れるもので、後ろの座席にキャルと僕が座り、前の座席にエリナが座った。
七三は色々喋っていたが、それそれとして、この異世界の情報として興味深く聞いた。と、不意に肩にあたるものがあり、僕は隣を見た。
キャルの頭が、僕の肩に乗っている。キャルは寝てしまっていた。
「キャルちゃんは寝ちゃったか。ちょっと疲れたんだな」
「そうですね。――それにしても、なんかこの道、見覚えがあるような…」
森に入り、街道からさらに小さな小道に入る。
「あれ……これは――」
「着きましたよ」
七三が馬車を止めた。
それは予想通り、エリナが見つけた廃墟だった。
僕らは馬車を降りて、改めて廃墟を見つめた。
「まあ、壁はところ破れてますが――どうですか? この家は」
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