第五話 パーティーハウス 1 カミラさんからの贈り物
僕は慌てて、キャルの僕から離した。キャルの白い服に、僕から受けた血が移ってしまっている。
「こんなの……なんでもないよ。冒険者なんだし」
「けど――せっかくの服が…」
せっかくのキャルの服が、汚れてしまった。というか、よく見たら血だけじゃなく、泥なんかもついていて結構汚れてた。ヒモグラ捕りでついたのだろう。
「大丈夫? クオンさん――ほんとに、ありがとう。うちに戻って、お風呂に入っていって。汚れた服は洗濯しましょうか――キャルさんも、上着を脱いで」
カミラさんが現れて、僕らに言った。
キャルが上着を脱いでカミラさんに渡す。
「ありがとうございます。そうさせてもらうと、凄く助かります」
「いえいえ。命を助けられたのはこちらですからね」
カミラさんがそう微笑んだ後に、ジールさんが続けた。
「しかし少年、大したもんじゃったのう。まさか五角イノシシを止めよるとは! こいつは大物じゃわい」
改めて倒したイノシシを見ると、確かに大きかった。その巨大なイノシシが畑のど真ん中で倒れて、血を流してる格好だ。
「カミラさん、すみません。畑の真ん中で、こんな大きな物――邪魔になりますよね? すぐに運び出します」
「え? 運び出せるの、クオンさん」
「あ、はい」
僕はそう言うと、イノシシに触れた。最大軽化で重量をほとんど無くする。額から生えてる角を持って、僕はイノシシを持ち上げた。
「何処に捨てたらいいですかね?」
カミラさんとジールさんが、驚愕の表情をしていた。
「クオンさん……凄い力なのね…」
「力があるんじゃなくて、イノシシを軽くしてるんです」
僕がそう言うと、カミサさんの顔色が少し変わった。が、何も言わない。
ジールさんがそれとは別に、声をあげた。
「持っていけるんじゃったら、ギルド傍の交換所に持っていくといいぞい。五角イノシシは相当な額になる」
「お金になるんですか!」
エリナが眼を輝かせて声をあげた。
「なるなる。しかしそのまま持っていくのも大変じゃろう。わしの荷車が壊れてなければ貸すんじゃが――」
「あ、壊れてても貸していただければ助かります。直して使えると思うんで」
「そうか? ならば、お前さんらにやるぞい。ついて来るがいい」
そう言ってジールさんが歩きだす。そこでカミラさんが口を開いた。
「それじゃあ荷車をもらったら、うちに来て。わたしはお風呂を沸かしてますから」
「ありがとうございます!」
僕らはジールさんのお宅に行った。
「これじゃぞい」
ジールさんが家の隣の倉庫を指さす。そこには一台の木製の荷車があった。
引っ張り出すと、片輪が軸と車輪をつなぐスポークが折れてしまっている。
「こりゃあ、直せんじゃろう?」
「あ、そんな事ないと思いますよ」
台車を壊れてる部分が上向きになるように、横にする。
僕はスポーク柔らかく粘土状にした上で、折れた部分を接合した。戻ったら堅さを戻す。
「これでいいかな」
僕は荷車を横から戻した。少し押し引きしてみるが、具合はよさそうだ。
「おお、本当に直ったのう。持っていくとええ」
「ありがとうございます。使わせていただきます」
僕らはジールさんにお礼を言って、荷車を運んだ。
「クオンくんの能力って、凄い便利だね。街で修理屋さんとかできそうだな」
「冒険者もいいですけど、そういう稼ぎ方ができたらいいですね。なんかモンスターと戦うより安全そうだし」
僕は好んで危険を冒したいわけじゃない。お金がたまって、少しでもキャルにいい暮らしをさせてやりたいだけだ。
僕の能力がそれに役立つなら――うまく使いたい。
そんな事を思いながら荷車を引いて、カミラさんの畑からイノシシを持ってきて乗せた。
そのままカミラさんのお宅に行く。
「いらっしゃい。お風呂が沸いてるから、クオンさん入って頂戴。キャルさんとエリナさんは、こちらにいらっしゃい」
「はい」
僕は言われるままに、カミラさんちのお風呂に入った。
……気持ちいい。久しぶりのお風呂だ。それに息もあがって疲れてた。
考えてみたら、もう、何日も何週間も風呂に入ってなかった
と、外からカミラさんの声がする。
「クオンさん、着替えを置いておくから、使ってちょうだい」
「あ、はい! ありがとうございます!」
汚れた身体を洗ってホカホカ気分で風呂からあがると、たたんだ服が置いてある。
厚手のトレーナーとカーゴパンツで、凄く冒険者っぽい服だった。
それを着てみると、なんか自分がいっぱしの冒険者になった気がした。
新しい服を着てリビングに戻ると、キャルとエリナが出迎えた。二人とも、見慣れない服を着ている。
「わたしの昔の服で、お二人に着れそうなものを着てもらったんだけど」
カミラさんが、そう説明した。
キャルはずっと上着の下は薄っぺらい奴隷服のワンピースだったけど、今度はちゃんとした服になっていた。白地のゆったりとしたトレーナーと、ショートパンツ。それにニーハイソックスだ。
「……どうかな?」
キャルが上目づかいで、訊ねてくる。
凄く可愛い――に、決まってるじゃないか。
……けど、そんなあからさまな事言えないし。
「うん。よく似合ってる。いいと思うよ」
僕がそう言うと、キャルが嬉しそうに微笑んだ。
「私も貰ったんだ。いいだろう?」
エリナはスカートスタイルで、ブラウスの上に赤基調のジャケット。なかなか格好いい。
「いいですね。格好いいです」
こっちには、思ったことを素直に言った。
「クオンさんにも、夫の服がまだ残ってるから――よかったらどうかと思って」
「いいんですか?」
なにせ、異世界へ来てから着たきりなのだ。凄くありがたい。
と、エリナがカミラさんに声をあげる。
「じゃあ、私たちも、お風呂いただきます! ――一緒に入ろうか、キャルちゃん」
「え……うん」
キャルがちょっと頬を赤らめながら、頷いた。
僕はカミラさんに促されるまま、出された服を眺めた。
上下で何着もあるし、他の装備っぽいのもある。
「夫も元は冒険者でね。それ用の衣装もあったから――いつかは処分するつもりだったけど……クオンさんに使ってもらえたらと思って。好きなだけ持って行って」
「とても、ありがたいです! 喜んでいただきます」
僕はカミラさんにお礼を言った。
やがて二人が風呂からあがって来ると、カミラさんが昼食を出してくれた。
トマトソースに、チキンとキノコが入ったパスタだった。最高に美味しかった。
食後に出された紅茶を飲んでいると、カミラさんが不意に口を開いた。
「クオンさんは……気力を使ってるわけではないのね?」
「あ、はい。ディギアを使ってるんです。実は――」
僕が事情を話しかけた時、カミラさんが掌を向けてそれを制した。
「それ以上は話さないで。話を聞いてしまうと、大きな事に巻き込まれてしまうかもしれないから」
カミラさんは静かにそう言った。
僕らは驚きの中で、互いを見つめた。
「あなたたちが複雑な事情を抱えてるのは、なんとなく判ります。ディギアは特に軍事機密でもあるから、それに関わることかもしれない。それはとても危険なこと。……薄情に思われるかもしれないけど、わたしはもう歳だし、そんな大きな事に関わっていくことはできないの。この田舎で、静かに暮らしたいのよ。判ってね」
カミラさんは静かに微笑んだ。
言ってることは判る。…けど、僕たちも本当はそういう暮らしを望んでるんだ。
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