6 ジュール・ノウvsブランケッツ!
僕の鎖骨に――ジュール・ノウの異常に重たい刀が喰い込んでいる。
ジュール・ノウが声をあげた。
「妙な身体だ……何故、お前の身体は斬れない?」
「身体を硬化してる――そういう異能だ。ジュール・ノウ……どうしてキャルを斬ろうとするんだ?」
僕はジュール・ノウの刀を受けたまま、そう問うた。
「あの猫を斬れば、私の重気界が展開できる。あの猫が邪魔だ」
「僕たちがキャルを助ける! そうすれば、貴方も重気界が使えるようになる!」
僕の言葉を聴いても、ジュール・ノウの紫の瞳は、少しも揺らぐことがなかった。
「いや……あの娘の能力は、私の力を脅かす。将来にわたる危険性を持っている。私に危険が迫るということは、皇帝に仇なす者ということだ。皇帝の存在を揺るがす可能性は僅かでも積んでおかねばならぬ。――あの化け猫は斬る」
ジュール・ノウはそう言うと、僕に押し付けている黒刀をさらに押し込んできた。
「ウアァァァッ!」
激痛が走る。灼かれるような痛みだ。
身体を硬化するようになってから、ほとんど負傷しなくなった分、この痛みを感じるのは久しぶりだった。
――久しぶり…? そうだ、久しぶりだ。
元々、僕はいじめられる度に殴られ、蹴られ、激痛に耐えて来たんじゃないか。
こんな痛みが何だというんだ!
キャルが殺される痛みに比べれば、こんな痛みくらいなんでもない!
「ジュール・ノウッ!!!!」
僕は振動体を発動した。
ジュール・ノウの黒刀が弾き出される。
棒剣を軟化から硬化してつなぎ合わせると、僕はジュール・ノウに襲い掛かった。
「絶対にキャルを殺させたりしないぞ! そんな奴は――僕が許さない!」
棒剣で連続に斬りつける。振動体の僕は粒子加速状態にあるから、人間のついてこれるスピードじゃない。…はずだ。
が、僕の凄まじい連続の斬りつけに、ジュール・ノウが反応している。
信じられない。なんなんだ、こいつは!
「気力も使ってないのに、このスピード……なんなのだ、お前は!」
そう言いながら、僕の攻撃をことごとく受けきるジュール・ノウ。
横に廻り、背後に廻ったとしても、まだ僕の攻撃を完全に受けきる。
どころか、その攻撃の隙をついて、僕にカウンターを合わせてる。
僕の腕、肩、首筋、足、脇腹――あちこちにジュール・ノウの黒刀が当たる。
だが、振動体であるから、黒刀が完全に通らない。
けど確実に、僕は負傷し始めていた。
「速度は異常だが――剣技が児戯に等しいな……お前は素人だ」
「だから何だというんだ! キャルを傷つける者を――僕は許さないぞ!」
僕はさらに加速して、ジュール・ノウを滅多打ちにした。
しかしジュール・ノウは振動体の速さに完全についてきている。
「もういい……充分だ」
そう呟いた瞬間、僕が斬りつけた隙をついて、ジュール・ノウの黒刀が僕の頭に迫った。
その黒刀が眉間に直撃する。
凄まじい衝撃とともに、僕は後方へ吹っ飛ばされた。
「クオンくん!」
エリナの声が聞こえる。僕の頭から流れ出した血が、頬を伝うのが判った。
駄目だ……身体が起こせない。
「う……ぐ――」
「クオンくん、しっかりしろ!」
僕の傍に来たエリナが僕の額に手をあてる。治癒をしようとしているのだろうが、治癒の光が出ない。
「ジュール・ノウ……私では貴方とは全く勝負にはならない。だが――仲間を見捨てることはできない!」
カサンドラが僕の前に立ち、ジュール・ノウに向かって剣を構えている。
駄目だ、カサンドラ……その人と戦ってはいけない…
珍しく息をつきながら、ジュール・ノウが口を開いた。
「クオン・チトー……お前の能力も異常なものだ。今は私の脅威たりえないが、将来にはその可能性がある。そして今、まさに伸びようとしているカサンドラ――お前たちは危険性を秘めている……」
そしてジュール・ノウは、紫の瞳をエリナに向けた。
「エリナ……お前のゼロライズは、最初から危険だと判っていた。お前を斬ればレオンハルトが許さぬかもしれぬが……私は、お前が嫌いだ」
嫌い? なんだ、この人……急に何言い出してるんだ?
「お前たちブランケッツを全員斬る」
結局、結論がそれかよ……
僕はふらふらする頭を押さえながら立ち上がった。
エリナが僕を支えてくれる。
「クオンくん――」
僕はエリナを見て、頷いてみせた。
エリナも頷く。振り向いたカサンドラにも頷いてみせた。
カサンドラも頷く。僕はジュール・ノウを指さした。
「ジュール・ノウ! たった一人で何万もの人を相手にする貴方に、僕は勝てる要素はないだろう……けど、一つだけ僕が勝ってるものがある!」
ジュール・ノウが、その美しい顔を歪めて口を開く。
「私に勝るもの……だと?」
「たった一人で戦う貴方にはないが――僕には仲間がいる! エリナ、カサンドラ! スーパー・ブランケッツ・アタックだ!」
「「おう!」」
エリナとカサンドラが僕の後ろについた。
ジュール・ノウは事態が理解できずに、不思議そうな顔をしている。
「二人とも……一緒に振動体になる。反動が凄いけど――」
「望むところだ」
「私だって、鍛えたからね! ドンと来い!」
二人の声を聴いて、僕は思わず笑みを洩らした。
「じゃあ……行くよ!」
僕は全員を軽化した後、二人を巻きこんで振動体になる。
僕らの身体が一瞬、白熱のように光った。
「くぅ……これが――」
「す……凄い…」
二人が声を洩らす中、僕はエリナに言った。
「エリナさん、お願い!」
「よし、ゼロライズ!」
僕らの姿が振動体のまま零化する。
僕はジュール・ノウに向かって突進した。
この見えない状態での粒子加速した攻撃を――いくらジュール・ノウでも全て受けきれるわけがない!
僕は棒剣を振った。
が、ジュール・ノウは凄まじい速さで後退している。
逃げるのか? ジュール・ノウが?
僕は追った。振動体の速度は尋常ではない。ジュール・ノウに攻撃できる間合いに入る。僕は棒剣で横に薙いだ。
が、キン! と音が鳴り、ジュール・ノウの黒刀により僕の攻撃が防がれた。
馬鹿な!? 察知してるのか? いや。ゼロライズで全く感知できないはずだ!
僕は連続攻撃を仕掛けるが、ジュール・ノウは後退しながら黒刀を身体の周りで振り回している。エリナやカサンドラも、小太刀と剣を繰り出す。
しかし、振り回してる黒刀が、その攻撃を阻んでいた。
馬鹿な――なんで当たらない?
ジュール・ノウは甲板を凄い速度で移動していく。僕らはそれを追って攻撃するが、ジュール・ノウに一撃も加えられない。
……判った。ジュール・ノウは逃げてるんじゃない! 移動することで、こちらの攻撃線を狭めてる。その事によって防壁により防御をし――振動体の時間切れを狙ってる。
まずい。このまま逃げ切られたら、振動体の反動で動けなくなる。そしたら僕らの負けだ――
「右に旋回しろ」
カサンドラが囁く。僕は大きく、右に弧を描いて走った。
と、カサンドラの鎖剣が、ゼロライズの領域から飛び出て、大きな弧を描いてジュール・ノウの前に伸びる。
「ムッ」
ジュール・ノウが一瞬、速度を落とし鎖を断ち切った。
が、ここで僕らは追いついた。今しか――この瞬間しか、チャンスはない!
僕らは咆哮して、ジュール・ノウに襲い掛かった。




