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第四十話  陸上戦艦での決戦  1 変貌のキャル


 僕らは甲板に出る。前方に伸びる二本の船体の左の方に、ジュール・ノウがいた。

 ジュール・ノウが重気界を展開していて、彼がもう少し歩いたら、こっちまでその領域に入ってしまう。


 そのくらいの距離感で、ジュール・ノウは僕たちを見た。

 白目の少ない紫の瞳が、静かに向けられる。


「――お前は、エリナ。何故、ここにいる?」


 恐ろしく白い肌と、妖しいまでに赤さをもった唇を開いて、ジュール・ノウはエリナに問うた。

 エリナが応える。


「訳あって、この陸上戦艦を叩きにきた。そして仲間を救いに来たんだ。貴方の敵じゃない」

「……邪魔だ。去れ」


 ジュール・ノウは厳しい表情で言う。


「お前たちがいようといまいと、私はこの船を破壊する」


 ジュール・ノウは風に吹かれながら断言した。黒髪が風になびく。

 事実――を言っているのだろう。意志、ではない。


 そして僕らやエリナがいても、ジュール・ノウは躊躇することはないだろう。

 冷や汗を垂らしながら、エリナが口を開いた。


「いや……そうは言ってもねぇ……」

「レオンハルトに気に入られているからと言って、自分が特別だなどと思うな。私にとって、レオンハルト以外の存在は無に等しいのだ」


 ジュール・ノウは断言した。

 きっと、本心なのだろう。なんというか――忠誠とはもう違う段階の話だ。


『皇帝の黒剣』という通り名の意味が、やっと判った。

 けど、僕も黙ったままではいられない。


「貴方にとって、皇帝が特別な存在であるように、僕にとってキャルは特別な存在なんだ! 僕たちにも、やるべき事がある!」


 ジュール・ノウが僕を見る。


「――くだらん」

 

 全く意に介した様子はない。ジュール・ノウは艦橋であるこちらに向かって歩き始めた。と、その時、突然甲板の上に人影が現れた。


 瞬間移動だ。そしてそれは二組。


 一つはオレンジ髪の少女ポートと、剣士ワン。

 そしてもう一つはバルギラと――


「キャル!」


 僕はキャルに呼びかけた。が、キャルは振り向かない。

 僕の声に気付かないのか? 


 代わりにバルギラが僕たちに向かって振り返った。


「やあ、クオンくんだね。キャルを救いに来たのかい王子様。けど残念ながら、お姫様は大事なお仕事があるんだ、邪魔をしないでくれ」

「キャルを返せ、バルギラ!」


 僕が怒鳴ると、僕らの背後の艦橋の根元から、人影が現れた。


「――お前は!」

「クク……久しぶりだな、クオン」


 そこに現れたのは、金色の鎧、黒のマント、そして黒いマスク――紛れもなくカリヤだった。


「カリヤ!」


 そしてカリヤの後ろから現れるヒモグラーの軍団。

 バルギラがそこで言った。


「そこで彼らの相手でもして、世紀の決戦を見るがいい。さあ、キャル、出番だ」


 バルギラはキャルの腰を押して前に歩かせる。と、バルギラは片手を高く掲げた。

 白夜の呪宝だ。


「さあ、その正体を見せつけてやりたまえ!」

「あ……あぁ――」

 

 キャルが呻き声をあげて、顎をのけぞらせる。

 と、その身体から青い炎が立ちのぼった。


「ギ、ギ、ギィ……ギィィィィ――」


 キャルが獣ような声で呻き出す。

 突然、ジュール・ノウが動いた。キャルに向かって、重気界が重なる。

 

 が、その瞬間、驚くべきことが起きた。


「こ、これは――」


 キャルに触れたところから、重気界が凍りついていく。

 紫の霧は青く凍りつき、ボロボロと崩れていく。

 その崩壊はあっという間に進行し、ジュール・ノウの傍まで進んだ。


「私の重気界を凍らせる――だと?」


 さすがのジュール・ノウも、驚いた顔をしている。

 そのままキャルの身体は青い炎に包まれると、その影が巨大化していった。


「キャル!」


 大きくなっていく――キャルの影が。

 その影は体長5mほどもある、巨大な白猫の姿へと変貌する。

 そしてその背中には、白い翼が生えていた。


「どうだ! これが君のお姫様の正体だ! さあ、キャル――キミの真の力を使いたまえ!」


 バルギラが叫ぶと、キャルが化した白猫は、凄まじい声で鳴いた。


「ギイイイイイイッ!」


 巨大な翼を広げると、白猫は艦橋へと飛びつく。その艦橋の頂上に昇ると、白猫は声を翼を大きく広げた。


「ギイイイイイッ!」


 白猫の身体から無数とも思えるほどの青い炎が周囲に飛び散る。

 それは上空に飛んでいき、その上方で制止した。その青い炎は周囲の兵も含み、辺り一帯を円状に囲った。辺り一帯が――青白い光に包まれた。


「私の重気界を――封じるだと?」


 ジュール・ノウがそう口にする。バルギラはそれに対し、笑みを浮かべて声をあげた。


「そう、これこそ真の『青炎の白夜』! この中では気力も魔力も霊力も展開できない。皇帝を倒すための最大の難敵ジュール・ノウ。これがキミのために用意した戦場だ!」


 バルギラはワンの方を向いて声をあげた。


「さあ、ワン。君の出番だ。――存分に戦いたまえ」


 バルギラの声に、ワンが青い髪を揺らす。


「重気界があってはさすがに手出しができなかったが――これならば純粋な剣技で勝負できる。勝負だ、ジュール・ノウ!」


 ワンが前に進み出る。

 ジュール・ノウはそれを静かに見つめていた。


 甲板の上で、二人の剣士は静かに対峙する。

 ワンが剣をゆっくりと抜く。ジュール・ノウは黒刀を構えた。


 ワンが下段に刀を落としたまま動く。一気に距離を詰めた――と思った瞬間、ジュール・ノウが黒刀を振り下ろしている。ワンはそれを躱しざま、横振りでジュール・ノウの側頭部を狙う。しかしそれをかがんで躱したジュール・ノウは、逆に左手一本で、ワンの胴体部を払った。


 ワンが素早く間合いをとって躱している。再び、二人の距離が遠のいた。

 一瞬の攻防だ。けど、そこには考えられないような見切りと駆け引きがあった。

――残念だけど、僕はあのレベルで戦うことはできない。


「……なるほど、体内での気力は発揮できるようだな」

「単なる向こう見ずではなさそうだな」


 ワンの呟きの後に、ジュール・ノウが口を開く。

 二人は再び、見つめ合った。


「――二人とも凄すぎる…」

「いや、まだ二人とも探り合いだ」


 僕の言葉に、カサンドラがそう返した。


「これからが――真の戦いだ……」


 そう呟いたカサンドラに僕が驚いた瞬間――僕らにヒモグラーたちが襲いかかってきた。



   ☈   ☈   ☈   ☈   ☈   ☈   ☈   ☈



 艦内を駆けるランスロットたちは、途中で出会う兵士たちを倒しばく進していた。


「アイス・ミサイル!」


 ミレニアの氷柱連射で、兵士たちが吹っ飛ぶ。ランスロットたちはその脇を駆け抜けた。ランスロットは中央にそびえる巨大な円柱前で足をとめた。


「――ここが中心部か」


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