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5 月光堂書店の作戦会議


 ランスロットが慄きの表情で言う。


「待て! ルイン・ブラスターと同じってことは……兵士の命力か!?」

「恐らくそうだ」

「そんな巨大なものを動かすのに――どれだけの犠牲が必要なんだ!」


 ランスロットが憤怒にかられて声をあげる。

 それに対して、ハルトが言った。


「我々が乗ったヘリがあったが、あれは運転するのに搭乗員の命力を少しずつ消費するシステムだった。恐らく、その陸上戦艦も基本構造は同じだろう。しかし、ルイン・ブラスターのような火器を使った時に、命力が大量消費されるはずだ」

「話が難しくて、よく判らん。危険なのか?」


 ガドが口を挟んだ。と、ランスロットが苦渋の顔で答えた。


「光線魔法に近いようなものを発射した瞬間――動力にされている兵士の命が消費される。そういう仕組みだ」

「――随分、ひどい兵器を作るものですね」


 黙って聞いていた、スレイルが声をあげる。


「発明家の風上にもおけない奴だ……。技術は凄いかもしれないが、全く尊敬できない。論外だ」


 なんか……こんな不機嫌なスレイルを見るのは初めてだ。――激しくはないけど……もしかして激怒してるんじゃ?


「その動力にされてるのは――恐らく奴隷ですねえ」


 不意にジージョが口を開いて、皆がそっちに視線が集中した。

 レガルタスが訊く。


「何か知ってるのか?」

「最近、各地の奴隷が姿を消した――という話がありましてな。何事かと思っていたのですが、このためだったと考えると納得できます」


 バルギラ! 奴隷の命を使って――兵器を使うつもりなのか。


「ちなみにですが……いなくなった奴隷は、大半が異民だそうです」


 その一言に、場が一瞬固まる。と、黒髪の女剣士イオラが、忌々しそうに口を開いた。


「チッ! じゃあ、もしあたしが奴隷のままだったら――あたしもその犠牲だったわけかい!」

「イオラさんは……元奴隷なんですか?」


 イオラはそう訊いた僕に向けて、にやりと笑ってみせた。


「そうだよ。戦闘奴隷だった。主人の命令で囮代わりに、最前列で来る日来る日もモンスターと戦ってたわけさ。ある日、その扱いに口を挟んだ冒険者がいて、主人がキレてそいつに勝負を挑んだ。その冒険者は、あたしを賭けてなら勝負してもいいといい、主人をブチのめした。そいつが誰かは――言うまでもないだろ?」


 イオラは、にっと笑ってみせる。……そうか、それがイオラとレガルタスの出会い――。

 レガルタスは、微かに苦笑すると口を開いた。


「俺たちは皆、異民出身だ。もしバルギラが皇帝に勝って国を支配するような事になると……非常に生き辛い国になるだろう。だが、それは俺たちが外国に行くなどすればいい話だから、まだ解決可能だ。問題なのは――その兵器が帝都まで進軍した時、帝都にどれだけの被害が出るかだ」


 レガルタスの真剣な表情に、カサンドラが声を上げる。


「帝都で少し前に、ブラック・ダイヤモンドによる同時多発の火災テロがあった。バルギラは犯罪組織と手を組み、連中は――帝都の市民がどれだけ被害に会おうとも関係ない。むしろ、その被害を拡大するのが狙いだ」

「まあ、そうなる前にジュール様が出てくるんだろうけど」


 エリナがそう声をあげる。

 と、シグマが今度は口を挟んだ。


「いや、最強の剣士か知らねえけど――陸上戦艦の大砲を何発もぶち込まれりゃ、ヤバいだろ。一人の剣士じゃあ限界あるぜ」

「いや……」


 僕はここに来て、やっと悟った。

 皆が、僕を見つめている。


「陸上戦艦では、ジュール・ノウは止められないんだ……。だから、今まで軍を出さなかった」

「どういうコト?」


 カエデの声に、僕は答える。


「陸上戦艦はウェポンが生きていた時に完成していた。それで皇帝を倒せるんだったら、すぐに進軍してたはずだ。けどそれをしなかったって事は、陸上戦艦ではジュール・ノウに勝てないと、バルギラは考えていたんだ」

「じゃあ、何故、今、進軍してる?」


 ロンの問いに、僕は答えた。


「バルギラが――キャルを手に入れたからだ」

「確かに……キャルちゃんを手に入れることに、バルギラは凄くこだわってた」


 そう、スルーが付け足す。

 スレイルが、機嫌を直したように人差し指をたてた。


「つまり、キャルさんがキーだ。陸上戦艦で進軍すればいずれ、ジュール・ノウが出てくる。そこでキャルさんを投入する――つまり、我々がキャルさんを奪還するチャンスは、そこです。……と同時に、動力源にされている奴隷の人たちも救い、その不埒な陸上戦艦の進軍を阻止したい! これで、どうですか、皆さん!」


 僕は頷いた。ボルト・スパイク、エターナル・ウィスル、ディギナーズの皆が頷く。エリナ、カサンドラも。

――けど、そこで頷かない人が一人いた。ジョレーヌだ。


ジョレーヌは眼鏡の位置を直しながら、口を開いた。


「あたしは戦う力がないから、作戦に参加もできない立場で、ただ賛成――とは言えないけど……」


 ジョレーヌは皆を見回して言った。


「あたしはこの街が戦場になるのも、マーブックたちがいる帝都が戦場になるのも嫌だ。キャルさんを奪還してバルギラの野望を阻止――つまり戦争を食い止められるなら、みんなにお願いしたい。この街と、帝都に住んでる人の分まで……勝手だけど、あたしが代表して――みんなにお願いするわ」


 ジョレーヌは立ち上がった。


「なんとか戦争を回避できるよう、お願いします」


 ジョレーヌが頭を下げ、緑のボブの髪が下に垂れた。

 そこで、ミレニアが声をあげる。


「こんな風に頼まれたら――やるっきゃないっしょ! ね」


 ミレニアが笑ってみせる。今度は全員が頷いた。


*  *   *


「――とは言うものの、相手はもう進軍して結構先まで行ってる。追いつくのも中々大変だぜ」


 そう、ロンが言った。

 そこでジージョも口を開く。


「馬車か、馬で行くのがいいのでしょうが――あまり接近すると、敵に気付かれますな」

「あ、それなら大丈夫だと思います。すぐに追いつくし、気付かれません。ただ――全員乗れる大型の荷台と、エターナル・ウィスルのみんなに同調の仕方を学んでもらわないと」


 僕がそう言うと、スレイルは一人自慢気に胸を張った。


「ま、僕はもう経験済みだけどね」

「なんだよ、オマエ経験済みって! オクテのお前にしちゃあ、進んでるじゃないか、え?」


 イオラがスレイルに肩を組んで、からかうように言う。

 

「キミが考えてるようなヘンなことじゃない! ごく真面目な不可思議現象だ」

「あたしは、お前が女に興味がない事の方が不可思議現象だけどな」


 そう言ってイオラは、にーっと笑う。

 と、僕はふと気づいた。

 カサンドラが、その二人をなんとも言えない眼で見ている。


 あれ……?

 スレイルは迷惑そうな顔で、イオラを押しのけた。

 

「女性に興味がないんじゃない! キミに対して、恋愛感情をもたないだけだ!」「恋愛感情なくったって、イイコトできるんだぜ」


 イオラは反省した様子もなく、スレイルにからもうとする。

 けど、スレイルはそれから逃れて、ふとカサンドラの目線に気が付いた。


「あ……いや、これはその――」

「な――仲がよろしくて……いいんじゃないか…な」


 カサンドラはそう言って視線を避けようとする。が、そこに不意に、何か飛び出してカサンドラの胸に飛びついた。


「マー」


 羽のある亀――マルだ。見ると、エリナが鞄を持って苦笑してる。


「いや、二匹とも落ち着かない感じで、ついてきたがったから、連れて来たんだ」


 みると白い鳥のようなキグは、少し元気がない。


「ほう、この二匹の生き物はなんだね? 見たことがない」

「あの……話すと長くなるんではしょりますが、次期龍王です」


 スレイルが目を丸くして、僕にとびついてきた。…いや、やっぱりちょっと。


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