3 囚われのキャル
「それでですね、救出作戦にあたっては陽動役が多い方がいいと思われます。ぼくは『エターナル・ウィスル』のみんなを呼ぼうと思います」
スレイルはそう言った。僕は驚く。
「Aランクパーティーのエターナル・ウィスルを? ありがとう、スレイルさん!」
「きっと、この戦いに参加してくれますよ」
「こんなに心強いことはありません! ――そうだ。僕はボルト・スパイクのみんなに声をかけてみる」
僕がそう言うと、エリナが頷いた。
「いいね、クオンくん! 彼らなら、きっと力になってくれる。…よ~し、こうなったら総力戦だな! みんな、頑張ろう!」
皆のオー!、という掛け声の中、僕は強く覚悟を決めた。
キャル……必ず助け出してみせる!
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
ポートの瞬間移動によってバルギラの下へ戻ったワンは、抱えていたキャルをゆっくりと床に寝かせた。
「目的の少女だ。捉えて来たぞ」
青い髪のワンがそう告げる。水色の髪を後ろで結んだバルギラが、上機嫌な顔で口元をほころばせた。
「おお! やはり、さすがワンだ! キミは失敗しないだろうと思っていたが――む、怪我をしてるのか?」
「クオン・チトーを倒すために、こちらもリスクが必要だった……」
ワンががくりと膝をつく。バルギラは傍にいた紫の巻き髪の美女に声をかけた。
「ビジョン、治癒班を呼んできてくれないか」
「判りました、バルギラ様」
ビジョンが立ち去るなか、ワンが声をあげる。
「……これで…本当に戦わせてもらえるのか?」
ワンは苦し気な顔で、バルギラを見上げた。
それを見て、バルギラが微笑む。
「ああ。こでれ準備は整ったはずだ。この少女――キャロライン・シャレードの能力が期待通りならね」
バルギラは床に横たわるキャルに近づくと、その頬に触れた。
と、小さな電撃を起こす。
「ひっ!」
キャルが目を覚ました。起きたすぐ目の前に、バルギラがいる。
「ミゲル! ――此処は……」
「ぼくの居城だよ、キャロライン」
「その名前で……わたしを呼ばないで! わたしはキャル、キャル・ポッツよ!」
バルギラは微笑んだ。そこへ治癒班がやってきて、ワンの治癒を始める。
オレンジ髪の少女ポートは、それをぼんやりと眺めていた。
「そう。じゃあ、これからキミのことはキャルと呼ぼう。残念ながらキミの王子様はキミを守り切れず、ぼくの元にキミは来ることになったわけだ。――が、何も手荒なことをしようというのではない。安心したまえ」
バルギラはそう言って、キャルに微笑む。
「わたしをさらって――どうしようというの?」
「キミに少し働いてもらいたいだけだ。キミはね、大変な力を持っているんだよ」
「わたしには……何の力もないわ。あれば、こんな風にさらわれたりしない」
「それはね、キミが自分の力を理解してないからだ。だが、ぼくはキミ以上に、キミの事を理解してる」
バルギラはそう言うと、手に呪宝を取り出した。
「それは――白夜の呪宝!」
「そう。キミたちがキグノスフィアから貰ったものを、いただいたものだ。キグノスフィアを攻略するという最大の難関を、キミらは攻略してくれた。本当に助かったよ」
バルギラはそう言って微笑を浮かべる。
キャルはそれを見て、憤った。
「返して! それを返して!」
「それはできない相談だ。何故なら――これから使うからね!」
バルギラはそう言うと、白夜の呪宝を高く掲げた。
その白く輝く結晶体が光りを放ち始める。
「さあ、キャル・ポッツ――キミの本当の姿を見せるんだ。そしてキミの真の力を……ぼくに見せてくれ!」
「やめて!」
キャルは突如、胸に激痛が走り身体をのけぞらせた。
「やめ……て……」
キャルの胸から青い炎が揺らめき立つ。それはやがてキャルの全身を包み、キャルを球体のように囲んだ。
「出たな、白夜の青炎……その真の姿をみせてみろっ!」
バルギラが興奮した口調で叫ぶ。
その青い炎のなかで、キャルの姿が影と化す。
そのシルエットが次第に巨大化し、青い炎の球体も巨大化していった。
「おお……これが――白夜の青炎の姿…」
バルギラが歓喜の声をあげる。
その場にいたワン、ビジョン、ポートも驚きの表情で、その巨大化した青炎の球体を見つめた。
それを見て、ワンが呟いた。
「この怪物が――」
「フ、フフ……。望み通り戦わせてあげよう、ワン! ――キミと…ジュール・ノウを!」
バルギラの言葉を聴くと、ワンは不敵な笑みを浮かべた。
「楽しみだ……」
「時は来た! ポート、各地の開都護衛隊に蜂起の命令を伝えてくれ。そしてビジョン――ぼくの皇帝に対する宣戦布告を、今こそ皆に伝える時だ!」
バルギラの声に、ポートとビジョンが頭を下げて応じた。
「かしこまりました、バルギラ様」
○ ○ ○ ○ ○ ○ 〇 ○
ハウスを出て、僕とスレイルとエリナは街へ出た。エリナはジョレーヌに緊急事態のことを説明に行き、僕とスレイルはそのままギルドへと向かう。
が、街が妙にざわついている。人の足取りに落ち着きがなく、皆、不安げな顔で走り回っている。
「……どうしたんでしょう?」
「何か動きがあったみたいだね。ギルドで聞こう」
スレイルの言葉に頷いて、僕らはギルドへ急いだ。
ギルドの中も、雰囲気がおかしい。いつも活気に満ちてる感じなのに、空気が淀んでいる。と、僕を呼ぶ声がした。
「クオン!」
「ランスロット! それにみんなも」
ガドにスー、ミレニアのボルト・スパイクの面々がいた。
「大変な事になったぞ、クオン。バルギラが――蜂起した」
「蜂起? って、帝国に反旗を翻したってこと?」
「そうだ。しかもその拠点はこの街――オーレムだ」
ランスロットの言葉に、僕はこの異常な空気の原因がやっと判った。
「じゃあ……帝国軍がここにやってきて――此処が戦場になるってこと?」
「ああ。それもありえる……バルギラの奴、何を考えているんだ? 皇帝に反旗など――無謀にもほどがある!」
ランスロットは腹立たしそうに、拳を握りしめた。
と、ガドが首をひねりながら、口を開く。
「しかし判らねえぜ。つい最近、ザンナード子爵が蜂起して、ジュール・ノウ一人に蜂起軍が全滅したって話があったじゃないか。まあ、ジュール・ノウ一人ってのは噂に尾ひれがついたんだろうけどよ。なににしたって、皇帝直属軍は未だ世界最強の軍隊だぜ?」
「勝利の見取り図ができたんでしょうね」
そこで不意に、傍にいたスレイルが口を開いた。
「え? けど……もう、ウェポンもいないんだよ、あたしたちがやっつけたし」
ミレニアは、ランスロットを見ながら言った。ランスロットも頷く。
そこで僕は口を開いた。
「実は……キャルがさらわれたんだ…。ディギナーズ最後の一人、ワンって奴にやられた。ディギナーズと僕ら、そしてスレイルさんもいたけど――みんな勝てなかったんだ……」
ランスロットが息を呑む。ガドも目を大きく見開いた。
「ところで、ぼくの仲間を知りませんかね? 何処に行ったんでしょう?」
「あ、エターナル・ウィスルの皆さんは、『こんな時は、呑むしかねえな』って言って、皆さんで酒場に行きましたよ」
スーは落ち着いた様子で、スレイルに微笑しながらそう言った。




