6 スレイルの検証
スレイルが笑いを浮かべながら、カサンドラを抑えて前に出る。
ワンは不機嫌な顔をした。
「魔導士の相手はあまりしたくないのだが……」
「まあ、そう言わないでよ。それとも――もう出番がなくなるのがイヤかな?」
「…安い挑発だ」
ワンは静かに言ったが、その抑えた声に怒りがある。
スレイルは、にっと笑いを浮かべた。
「じゃあ、行かせてもらうよ!」
スレイルは両手を上空に掲げる。すると――上空一面に、光の球体が数えきれないほどに一瞬で現れた。
ワンの顔色が変わる。
スレイルが両手を振り下ろすと、その多すぎる光の球体から光線が発射された。
――が、その前に突如、地面から光線が幾筋も噴出し、地面を吹き飛ばして地上に発射された。
だがワンは、地面に向けて剣を丸く描き、自分の安全圏を作っている。
けど、そのワンへ向けて、上空から幾筋もの光線が襲い掛かった。
恐ろしいことに光線は直線ではなく、自由に弧を描いてワンに襲い掛かっている。
凄まじい光のスパークが起きて、ワンが見えなくなった。
と、思われた瞬間、光の中からワンが突進してきている。
ワンは剣を突き出しながら、スレイルに向けて突撃していた。
が、その前を魔導障壁が立ちふさがっている。
信じられないことに、スレイルはそこに防壁を作っていたのだ。
その足を止めたワンを、上空からの光線が襲い掛かる。
光線が直撃する瞬間、ワンの身体からも閃光が走る。
膨大する閃光が眩しすぎて、直視できない。
その光線が止んでやっと視界が戻った時――そこには刀を降ろしたワンと、倒れているスレイルの姿があった。
「スレイルさん!」
カサンドラが倒れているスレイルに駆け寄る。
「しっかりしてくれ、スレイルさん!」
「……うん、判ったよ、カサンドラくん。やはり検証して……よかった…」
スレイルは口の端から血を流しながら微笑んだ。
「検証? そんな事のために――どうして……?」
「彼の力が判らないままじゃ、キミが勝てないだろう? けど、彼の力は判った……間違いない」
カサンドラは大きく眼を見開いた。その瞳が、涙に潤んでいる。
「まさか……私のために?」
「彼の力は――『予知』だ」
スレイルは微笑みながら言った。
「『予知』?」
「そう……ディギナーズとの戦いの中で、彼は瞬時に反応しても防ぐことのできないはずの攻撃を、全て凌いでみせた。まるで……『そう攻撃されるのが判っていた』みたいに」
カサンドラは息を呑む。
「だからぼくは、予想外の全方位攻撃にくわえ、それをクリアして攻めてくること前提にした三段構えの攻撃を仕掛けた……。結果は見ての通りだ。これは『予知』なしには、できない芸当だ――」
スレイルがそう語ると、ワンが口を開いた。
「私が『力』を使うことは稀だ。それを使わずとも、ほとんどの相手が倒せるからだ。だが私の『力』を使わせた上で、その正体を見破ったのはお前が初めてだ。魔導士といって侮ったことを謝ろう。お前は素晴らしい戦士だった」
「どうも……」
スレイルは苦笑してみせる。が、苦痛に顔を歪めた。
「エリナ! 頼む、スレイルさんを!」
「判ってる!」
シグマとハルトを治癒していたエリナが駆け寄ってきて、スレイルを治癒し始めた。その中で、ワンは言った。
「私のコードネーム『ワン』は、『一秒先の事を予知する』異能からつけられた名だ」
「一秒……?」
僕は驚いた。一秒? たったの一秒先?
「お前ほどの達人ならば、一秒先の事が見えるという事は――ほぼ無敵に等しい」
そう言いながら、カサンドラはゆっくりと立ち上がった。
「スレイルさん、ありがとう。必ず私が――あの男を倒してみせる」
「私の異能を知った上で、なお勝負を挑んでくるか。……女剣士よ。お前の名は?」
カサンドラは剣を抜いた。
「カサンドラ・レグナ」
「そうか。私は――剣崎一意」
二人が対峙し――睨み合う。
距離が少しずつ縮まる。その二人の間にある空気が――痛い。
見ているこちらが痛みを感じるほどの緊張感。
まだ、切先は触れない。が――
カサンドラが動いた。
「爆炎破!」
一気に炎を放射する。
その業火を、ワンが気力で両断する。
その斬り割った中から、カサンドラが現れた。
急進したカサンドラは、一気に剣を振り抜く。
斬った!
――と、思った瞬間、カサンドラの剣が地面すれすれまで降りている。
ワンはほんの僅かの後退で、カサンドラの剣を躱していた。
攻撃した瞬間の無防備な処を攻撃する――それは二人とも同条件だ。
その中でカサンドラは、反撃されない瞬間を捉え斬りかかった。
だが、ワンの躱し方は最小限だ。まだ間合いは近い。
ワンが剣を横に振り抜く。
今度はカサンドラが最小の見切りでワンの攻撃を躱す。
と思った瞬間に、カサンドラが斬りかかる。それをまたワンが躱す。
剣と刀を合わせない。
二人とも受けをとることなく、互いに見切りだけで相手の攻撃を躱している。
信じられないほどの高度な攻防だった。
「凄すぎる……」
僕は絶句した。
全く入る余地がない。
二人は距離をとった。
「なるほど……」
「やるようだな」
カサンドラとワンが、双方とも呟く。
「では――私は全力でいかせてもらうぞ」
カサンドラがそう言い放った。
「来たまえ……優れたる剣士よ!」
ワンが返す。その瞬間、カサンドラが剣を振った。
柄に鎖でつながってる刀身が、ワンを襲う。
ワンに剣が向かうと思われた瞬間、その刀身は方向を変えた。
横に曲がったと思った瞬間、斜め上に跳ね上がる。
が、さらに三度も角度を変えて飛ぶ刀身は、最終的にワンに襲いかかった。
「くだらん! こんな児戯で私を倒せると思ったか!」
その刀身を叩き落とすと、ワンはカサンドラ本体を急襲した。
カサンドラの刀身はまだ戻ってない。
ワンが刀を斬り下ろした。
が――その瞬間、ワンの身体が止まる。
「これは――」
カサンドラが全身から気力を放ち、それが厚みのある防御層のようになっている。
ワンの振り上げた手、刀がその気力の壁に阻まれていた。
その瞬間、背後からカサンドラの剣が襲い掛かる。
鎖のついた剣は、カサンドラの魔力で操作されていた。
ワンが振り向き、初めてその剣を受ける。
「ムッ!」
ワンが気づいた時、カサンドラの剣から出た鎖が、幾重にも輪を描いてワンを囲んでいた。その鎖の環が急速に縮まり、ワンを球体状に囲う。
「ワン、覚悟!」




