5 青い髪のワン
ワンはシグマを見つめた。
「私は純粋に戦いを求めている。何故、戦われるのか――それは私は興味がない。あるのは……戦いにおける剣の真理。その究極の頂に達することだけが、私の興味だ」
そのワンの言葉を聴くと、シグマは不敵に笑った。
「じゃあよ……今さらオレたちと戦ってもしょうがないだろ? お前からしたら、オレたちは格下以外の何者でもない」
「言ったように、お前たちと戦うつもりはない。私が興味があるのは――ブランケッツと呼ばれる未知の相手だ。ブランケッツはあのウェポンを撃退し、異能を持つ君たちを倒した者たちだ。……きっと、私に未知の世界を見せてくれるに違いない」
ワンはそう言うと、静かに笑った。
その笑みに――震えがきた。
この人は――悪意がない。
残忍さも、凶悪さも、自己顕示もない。
それはもはや、一見禁欲的に見えるが……強大な欲望の究極形だ。
「――戦いたいだけなら、戦ってもいい。けど、キャルを渡したりはしない」
僕は声をあげた。すると、ワンは静かに僕を見た。
「君がクオン・チトーだな……。なるほど、いい眼をしている。大切な物を守りたいという強い意志と、覚悟がある」
ワンはそう言うと、さらに強く見た。
「そうでなければな! 模擬戦などでは持ちえない、絶対的な緊張感――真実の戦い! それだけが、私の求めるものだ! 君に言っておこう。私は君の大事な、キャル・ポッツを連れて帰る。私が戦いに勝ったら……だ。君は全身全霊で、私を倒さなければいけない」
そう言うと、ワンは僕を見つめながらそう告げた。
脅しじゃない――単なる事実だ。この人にとっては。
その時、シグマが声をあげた。
「オレたちがそれをさせないって言ってるんだよ! ――確かにお前は強い。以前のオレたちでは、お前に触ることすらできなかった……。けどな、オレたちだって以前のままじゃないんだ。――番狂わせがあるかもしれねえぜ?」
シグマはそう言って不敵に笑った。ワンがそれを静かに見つめる。
「そうか……ならば、私に見せてくれ。お前たちの進化を!」
「――変身!」
シグマがワンの声に呼応して、変身した。
「ビートライダーΣ!」
シグマがカミキリヒーローに変身する間に、カエデがコピーを8体まで増やす。
ハルトは剣を抜き、スルーはシャチの分霊体を出現させた。
「ウオオォォォォォッ!」
シグマが咆哮をあげながら突っ込む。仕掛けるのか、と思った瞬間、異変が起きた。
突っ込んでいたシグマのすぐ後ろにハルトが駆け寄る。と、その姿がいきなりワンの姿に変わった。位置入れ替えだ!
だがそれを予期していたように、シグマは後ろ回し蹴りを見舞う。
直撃か――と思った瞬間、何かが閃いた。
ワンが抜刀している。
それは紛れもなく――日本刀だ。鍔もあり、銀の刀身には反りがある片刃の刀。
シグマの蹴りを、ワンは刀で受けている。
シグマは威勢をあげた。
「どうだ! 触れたろうがよ!」
「なるほど――確かに…」
だがワンは落ち着いた様子で、刀を振る。シグマはすかさず、そこから離脱した。
ワンが追撃する気配を見せるが、その姿がまた消えた。
見ると、ハルトのいた位置に、ワンが現れている。そこに向かって、八人のカエデが一斉に光の円盤を飛ばした。
光の円盤すべてがワンに直撃する――かと思った直後、僕は息を呑んだ。
ワンが目に見えない速度で刀を振り、その全てを斬ったのだ。
「まさか――」
カエデたちはワンを位置入れ替えで動かす前提で、避けられないタイミングで攻撃を仕掛けている。しかもその方向は、八方向でバラバラだ。
「あれを全て斬り伏せるなんて……」
僕は言葉を失った。
カエデの攻撃は、ほぼ回避不可能な位置まで迫っていたはずだ。あれを全て斬り伏せるなんて――ありえるのか?
そこにスルーのシャチの分霊体が襲いかかる。シャチは途中から三体に分裂して、ワンに大口を開けた。が、ワンはすぐに日本刀で三体を一太刀で斬る。
が、その後に動こうとして、ワンは少し表情を変えた。
刀を動かそうとして、抵抗を感じている。――見ると、スルーが念動力で、刀を集中して止めているのだ。
「貰ったあぁっっ!」
ビートライダーΣがそこにジャンピング・ストレートをぶち込もうと踊りかかる。
が、その直前で、その姿がハルトに入れ替わった。
シグマは後ろだ! 前からはハルトが斬りかかり、後ろからはシグマが殴りかかろうとしている。
「噴ッ!」
ワンは呼気とともに気力を放出すると、念動力を破って前へ出た。
斬りかかるハルトを逆に斬り伏せ、足の位置は変えずに上半身を後ろに反転させ、殴りかかろうとするシグマを斬る。
「前後斬」
ワンがそう呟くと、ハルトとシグマの二人が声もなく倒れた。
その地面に血が染み出す。
「ハルト! シグマ!」
二人とも袈裟に斬られた。かなり深い――このままじゃ致命傷になる。
「……ハルトさんはともかく――あの頑丈なシグマが一撃で……」
僕は思わず呟いた。
見た目の派手さはないが、気力を研ぎ澄まして斬撃力に変えているのに違いない。
「女性を斬るのは、私の主義に反する」
ワンはそう言うと、刀の切先をカエデの一人に向けた。
その切先から気力の弾が射出される。
「あ――」
驚きの表情の中、カエデの魔導障壁に気力弾が当たる。気力弾はあっさりと魔導障壁を貫通し、カエデに直撃した。
「カエデ!」
スルーが声をあげる。が、カエデは爆発の中、地面に倒れていた。
他の7人のカエデのコピーが消えていく。
「うそ……いきなりカエデの本体を見抜くなんて――」
「造作もない事だ。本物の意志がある者と、そうでない者には気迫の違いがある」
驚くスルーにそう言うと、今度は切先をスルーに向けて気力弾を発射した。
スルーがそれを受け、地面に倒れた。
「……確かに、幾分かは腕が上がっていたようだ。私に『力』を使わせるとはな」
『力』? こいつの異能のことか?
今の戦いの何処に――奴の異能があったんだ?
「次はお前たちだ、ブランケッツ。さあ、クオン・チトー……どうする?」
どうする? ブランケッツ・アタックを使ってみるか?
いや、あいつの『力』の正体が判らない。――危険だ。
すると、凛とした声が上がった。
「素晴らしい剣技だ。相手の攻撃の瞬間の、一番無防備になるところを斬っている。……お前の相手は、私がしよう」
カサンドラが前へ出ている。ワンが静かに微笑んだ。
「女は斬らぬ主義だが――お前は相当の剣士と見た。相手とするに不足なし。……いざ勝負といこうか」
ワンがカサンドラをみつめ、カサンドラはそれを真っ向から返す。
と、その時、割り込むように声が上がった。
「あ~、ちょっと待ってもらえるかな、カサンドラくん!」
「な、なんだ、スレイルさん!?」
突如、真剣勝負に緊張感のない声で入って来たスレイルに、二人は少し不機嫌な顔を見せた。
「いやあ、カサンドラの前にぼくと立ち合ってほしいなって」
「しかし、貴方は……」
「うん、少し検証してみたい事があってね」




