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2 ネラは何に怯えるのか


 ひとしきり話が済むと、ハルトがエリナに言った。


「ところで、私はこのまま残って事業立ち上げの準備をした方がいいのかな?」


 するとエリナが考える。


「ん~、いや、一度戻って、社長や経理とも相談して、ビジョンと計画を練ってから来てもらうことにしましょう。一度、みんなオーレムに戻ろうか」

 

 エリナは笑ってそう言い、僕らは頷いた。



   ♦   ♦   ♦   ♦   ♦   ♦   ♦   ♦   ♦



 テレポートしたカリヤは、とりあえず戦場から離れた街の外れへと来ていた。


「テレポートは一瞬でオーレムに帰れるほど便利じゃないか……。しかも俺のガントレットは有限回数だ。これでテレポートの使用回数は、残り6。チッ、ポートとバルギラには制限回数がないからテレポートを繰り返してりゃラクに帰れるんだろうが――」


 カリヤは忌々しそうに息を吐く。

 ふと、視界の端に街道を走る二頭立ての馬車が写った。


「あいつをいただくか……」


 カリヤはゆっくりと歩いて行った。馬車がそのまま街道を向かって来る。

 街道の真ん中を歩くカリヤを見て、馭者が慌てた顔をした。


「おい! そこの奴、どかないと怪我をするぞ!」


 馭者は大声で怒鳴った。

 が、カリヤは意に介した様子もなく平然としている。


「おい! 轢き殺されたいのか!」

「うるさい奴だ」


 カリヤは左手を前に出した。と、その掌から黒炎の業火が発射される。

 100mにも及ぶ黒炎の業火が、馬車を引く馬を驚かせた。


 馬がいななきをあげて上半身をあげて止まる。

 すると後ろの荷台から、声が上がって三人の男が降りてきた。


「何事だ!」

「おかしな奴がいます! 盗賊の類かと」


 馭者が応える。降りてきたのは鎧を着て武装をした、用心棒たちだった。


「なんだ、一人じゃねえか」

「油断するな、周囲に仲間がいるかもしれんぞ!」


 三人の男たちの二人が剣を抜き、一人は魔法杖を取り出した。

 眼の前にいるのは、黒いマントを金の鎧の上に着込み、黒い金属製のマスクを着けた不気味な男である。


 三人がカリヤを睨みつける中、カリヤがマスクの中から声をあげた。


「荷物はなんだ?」


 三人のうちのリーダー格らしい長剣の男が答える。


「お前に答える必要はない」

「まあ……答えなくても、お前たちを片付けて調べてみれば判ることだがな」


 カリヤは可笑しそうに苦笑した。

 その様子に、用心棒たちがいきりたつ。


「貴様、俺たちを片付けるだと? 片づけられるのは――お前の方だ!」


 そう怒鳴ると同時に、魔導士が魔法杖から氷魔法を発射した。

 巨大な氷柱がミサイルのように何本も飛来してくる。


 氷柱がカリヤに直撃すると思われた瞬間、カリヤの身体を黒い炎が包んだ。

 氷柱はその黒炎にすべて溶かされる。魔導士が歯噛みをした。


「くっ、なんて炎だ!」

「オレがやってやる!」


 剣士の一人が飛び出して、カリヤに斬りかかる。

 が、黒炎をまとったカリヤも剣を抜き、相手の剣と剣を合わせた。


「くっ――」


 剣士が歯を食いしばる――が、次の瞬間、黒炎をまとった剣は相手の剣を斬り割り、剣士を袈裟斬りにした。

 

「があぁぁっ!」


 斬られた剣士の身体に黒い炎が燃え移り、みるみるうちに焼け焦げていく。


「おのれっ!」

「……面倒だな」


 カリヤは向かってこようとするリーダー剣士と魔導士に、剣の切先を向けた。


「地獄の黒炎(ヘルズ・ブラック・フレイム)


 七条に発射された黒い火炎放射が、渦を巻いて巨大化する。

 その巨大な黒い炎の竜巻は、剣士と魔導士を呑み込んだ。


「ヒ――」


 二人は声をあげる間もなく、焼けただれ、消し炭となって消えていった。


「ヒッ……ヒィィィッ!」


 馭者が恐怖の悲鳴をあげた。カリヤはゆっくりと近づいていく。


「おい、荷物はなんだ?」

「ヒッ……食料品や衣料品、あと宝石類や魔晶石です」

「フン、そんな物のために命を落としたのか。バカな奴らだ。おい、オーレムまで俺を運べ。妙な真似をしたら、次に消し炭になるのは、お前だ」


 カリヤは恐怖で引きつる馭者を見もせず、荷台に乗り込んだ。

 数時間かけて夜のオーレムに着いたカリヤは、アジトに馬車を着かせる。馭者は恐怖の顔でカリヤに訊いた。


「こ、此処でいいんですか?」

「ああ。もういいぞ、行け」


 馭者は慌てて逃げようとするが、その背中にカリヤは黒炎を放った。

 アジトに入ると、組員がカリヤに頭を下げる。


「「「「総帥、お帰りなさいませ」」」」


 カリヤは面白くもなさそうな顔をして、主室に入った。

 そこには薄緑の髪をセミロングにした、年端もいかない細い少女がいる。


 ネラであった。


「カリヤ、お帰り。――面白いものは見れたの?」

「ああ。……しかし、最悪だ。あれほどの化物とは――バルギラの奴は、何を考えてるんだ?」


 肌の白いネラは、唇を三日月のように吊り上げて笑う。


「ね、何を見たのか教えてよ」

「『皇帝の黒剣』ジュール・ノウの戦いぶりを見た……。あれは――怪物だ。お前でも相手になるかどうか判らないぜ」

「へ~……凄く興味あるね」


 ネラは薄気味悪い笑みを浮かべる。

 そこに目に星型のペイントをしたゲイルと、鼻ピアスをしたカザンが入ってきた。


「カリヤ、帝都からやっと詳細の報告がきたが――やっぱりヒモグラー隊200人は全滅したらしいぜ」

「どうやら殺ったのは、あの紅髪の女剣士とブランケッツの眼鏡女らしい」


 ゲイルとカザンが、順にそう報告する。それに続けて、ゲイルが言った。


「それにジェットとザビーの奴も……殺されたらしい」


 ゲイルは声を落とす。が、カリヤは鼻で笑った。


「フン、あいつらは移植手術の副作用で、かなり人間の部分が無くなってたからな。扱いに困ってたからちょうどいいタイミングだ」

「カリヤ……」


 少し不満そうな顔をしたゲイルを、カリヤは黒マスクの上の目で睨みつけた。


「何か文句でもあるのか?」

「いや――ないぜ」


 ゲイルは横を向いて目を伏せた。カザンがそこへ口を出す。


「カリヤ、代わりじゃあねえが、街で面白い奴を拾ったぜ」

「面白い、だと?」

「ああ。街でブラック・ダイヤモンドの事を嗅ぎまわってる奴がいるというんで、ヒモグラー三人ほどで捕まえさせようとしたんだ。そしたらその三人が半殺しにされて、逆に『総帥に合わせろ』と言って来た。オレが会ってみたが――仲間に入りたいらしい。肝の据わった、雰囲気のある奴だ」


 カリヤは面白くもなさそうに目をやったが、一言言った。


「連れて来い」

「――おい、入りな!」


 カザンに呼ばれて、入って来たのは――カザンからそう聞いてなければ、美女と見間違えそうな端正な顔立ちの男だった。黒髪をストレートに伸ばし、後ろは腰まで、前髪は眼の上で綺麗に切り揃えられている。


「やっと会えたよ、カリヤさん。――僕はグルジオラス、よろしくね」


 男はそう名乗ると、微笑した。――と、ネラが急に後ろに引いて眼を見開く。


「……そいつは――人間じゃない」


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