5 新たな依頼
朝、目覚めた。あ――会社に行かなきゃ。今、何時だ?
そう思って跳び起きた僕は、自分が見知らぬ部屋にいるのに気づいて、此処がカミラさんの家だったことを思い出した。
久しぶりに布団で寝たから――まだ日本にいるような気がしたんだ。
死んでしまって哀しいか……
そう思ったけど、そうでもなかった。前世は正直、いじめられて引きこもって辛かった。何の希望もなかった。
今は違う。何ができるかどうか判らないけど、キャルとエリナと一緒にこの
世界を生き延びていこうという目標がある。それが凄く楽しくて、嬉しいんだ。
そんな事を考えてからベッドを抜け出してリビングに行くと、もうエリナとキャルがテーブルについていた。
「おはよう、クオンくん」
「おはよう、クオン」
僕も二人に、おはようと返した。
カミラさんが朝食を用意しながら、僕に訊ねる。
「よく眠れたかしら?」
「はい、とってもよく眠れました」
「そう。それならよかった、朝食にしましょう」
ベーコンエッグと食パン、野菜スープとサラダの朝食だ。朝日に輝いて見える。
「なんて、人間的な朝食なんだ!」
エリナが感動したように言う。
「まあ、大げさねえ」
カミラさんが笑った。今度はカミラさんも一緒に、「いただきます」と言って朝食をとった。
「それじゃあ、残りのヒモグラをとってきます!」
朝御飯を食べ終わると、僕らは勢い込んでカミラさんにそう告げた。
「クエスト要件を満たす分、駆除してもらえればいいからね。じゃあ、頑張ってちょうだい」
カミラさんは笑顔で僕らを見送ってくれた。なんて親切なんだ、カミラさん。人の温かさが沁みるって、こういう事を言うんだろうな。
「よし、それじゃあ昨日の調子で頑張ろう!」
「「おー」」
エリナの掛け声に、僕とキャルが拳をあげた。
昨日、頑張ったことはちゃんと身についていて、最初は少しもたついたが、僕らはあっという間に最初の一匹を仕留めた。
「ハッ!」
軽くした鉄棒を振ると、火を噴く前のヒモグラが地面に落ちる。まだ気絶してるぽいヒモグラに、柄の先端を刺してトドメを刺す。気が付くと僕らは、規定量の残り6匹を駆除していた。
「どうする? 必要な数は駆除したけど」
「どうせなら、カミラさんの畑をもうちょっと綺麗にしましょうよ」
「そうだな」
キャルも僕の言う事に頷いたので、僕らはさらにヒモグラ退治を続行した。3匹ほど獲ると、エリナが言った。
「あらかた畑はまわったな。もう、大丈夫だと思う」
「そうですか、それじゃあクエスト完了ですね」
僕がそう口にすると、キャルが嬉しそうに微笑んだ。
「頑張ったね、わたしたち」
「うん、頑張った」
僕らはみんなで微笑みあった。
と、そこに声が飛んでくる。
「皆さん、ちょっといいかしら?」
カミラさんだ。傍に老人がいる。
僕らがカミラさんの傍まで行くと、カミラさんが口を開いた。
「もう、わたしの畑のヒモグラは終わりかしら?」
「はい、ちょうど終わったところです」
「よかった。それならね、このジールさんの畑も見てほしいのよ」
カミラさんはニコニコ顔で、そう言った。傍にいた爺さんが、口を開く。
「なんか若者が来とるっちゅうからな、わしの処も頼もうと思ったんじゃ」
「ジールさんの分は別クエスト扱いになるから、改めてクエスト報酬が出ることになるわ。引き受けてもらえるかしら」
僕らは顔を見合わせると、頷いた。
「「「よろしくお願いします!」」」
それから僕らは、少し離れたジールさんの畑に行った。
ジールさんの畑は球場四個分ほどで、カミラさんの畑に比べれば狭い。
僕らはすぐに、ヒモグラを7匹ほど駆除した。
「もう、私たち慣れたものね!」
「ヒモグラ退治のプロですね」
エリナの言葉に、僕も調子に乗って言った。キャルが可笑しそうに微笑む。
これも仕事なんだろうけど――こんなに楽しく仕事をしたことは今までなかった。
こんな風に僕ら…この世界でうまくやっていけるかもしれない。
そんな事を思いながら、僕らはジールさんに駆除完了を告げに行った。
「いやあ、短時間でよくやってくれたのう。礼を言うぞい」
ジールさんはそう言って、相好を崩した。
その時だ。
「――きゃあぁぁっ!」
遠くだけど――カミラさんの声だ。
カミラさんの畑の方から声がした。僕らは一瞬顔を見合わせると、走り出した。
遠くにカミラさんの畑が見える。その中程に、カミラさんが立っている。
その視線の先に――何かいる。
大きな生き物だ。
「五角イノシシだわ!」
走りながら、キャルが声をあげる。その後にジールさんが続けた。
「あいつは凶暴じゃ。カミラが喰われてしまう!」
喰う? 人間を?
けど、元の世界のイノシシも雑食で、人を襲うって聞いたことがある。
だけど、遠くに見える五角イノシシとかいう獣は、その背丈がカミラさんほどもある、とんでもない大きさだ。
そのイノシシが、カミラさんに向かって走り出した。
「先に行きます!」
僕は叫んだ。
ゴムの脚! 最大速度!
「きゃあっ!」
間に合うか――カミラさんにもう五角イノシシが迫っている。
どうする? ゴムの手足で突き飛ばすか?
いや、突き飛ばしきれなかったら、カミラさんが五角イノシシの角にやられる。
ここは――
「重硬化!」
僕はイノシシとカミラさんの間に走り込んで、イノシシの前に立ちふさがった。
最大硬化で最大重量だ。
五角イノシシが凄まじい勢いで突進するのを、僕は肩で受け止めた。
自動車が正面衝突したような、衝撃音が鳴り響く。
「フギーッ!」
凄い鼻息だ。それに巨大な顔。僕の上半身くらいある顔が、僕の身体で止まっている。僕はカミラさんに叫んだ。
「逃げてください!」
「あ、ありがとう!」
カミラさんの気配が背後から消えた。
五角イノシシが首をブンブン振る。と、その度に、僕に奴の牙と角がガンガンと当たった。
五角イノシシは前に向いた長い牙と、鼻の上、それから眼の後ろから二本の角が生えている。凶悪な武器だ。
――いや待てよ? 五角ではなくて、二本は牙だぞ? 確かに五本の角が突き出てるように見えるが。
「ブギーッッ!」
そんな事を考えてる僕に、容赦なく五角イノシシが攻撃をしてくる。
僕の身体に、ガンガンと角が当たった。
「ええぃ、うっとおしい!」
僕は拳を最大に重くして、イノシシの鼻っ面を殴った。
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