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4 帝国の内乱


 スレイルの言葉に、カサンドラは驚いた。


「私を羨ましく思うって――あなたが?」

「うん、そうだね」


 スレイルはそんな事を言いながら、こともなげに野菜スープを口にした。


「そんな……あなたの方が、ずっと高い能力を持ってるのに――」

「ぼくなんか欠陥だらけの人間だ! 少し前まで、人と話すのは本当にダメだった。宮廷を追い出され、もうジリ貧になっている時、レガルタスがぼくを拾ってくれなかったら、ぼくは今も生きていたかどうかすら危うい」


 スレイルは少し真面目な顔になってそう口にした。


「レガルタスは、ぼくに人との関わり方を根気よく教えてくれた。力を合わせなきゃ、倒せないモンスターがいることも……。レガルタスだけでなく、あの無神経なイオラや、一言多いロンにもね。


喧嘩も沢山したけど――レガルタスはぼくを助けるために命を懸けてくれたこともあったし、ぼくも皆のために命をかけたこともあった。パーティーに入ったことで、ぼくは少しはマトモな人間になれたって思ってる……。あ、こう言うと、イオラに『お前、自分がマトモだと思ってんのか?』とか言われそうだけど」


 スレイルはそう言うと、はにかんだように微笑した。

 ふと、カサンドラは声を洩らす。


「私も……同じだな」

「同じ? 何が?」

「私もパーティーの仲間と一緒にいることで――やっとマシな人間になれたと…そう思ってる」


 カサンドラはそう言った。スレイルは意外そうな顔をしたが、すぐに微笑んだ。


「そう。キミ自身がそう思うのなら――そうなんだろな。あ、けどキミはとにかく高い能力を持ってることは間違いない。上級剣士のキミの腕前を知らないから確実な事は言えないが、純粋な戦闘力なら、多分、ぼくよりキミの方が上だと思うぞ」

「え? だってあなたは27000で、私は5000くらのなのだろう?」

「それは魔法の総合的な力をバロメーターにした例えだ。魔力、コントロール力、魔法学の理解度――その総合力であって、魔法の戦闘力を言ったものじゃない」

「そう……だったのか」


 カサンドラは胸の中のもやもやが解ける気がして、息をついた。

 スレイルはさらに笑いながら言う。


「それにキミは最近、急激に成長したんだろう? まだうんと伸びしろがある証拠だ。――まあ、もっとも人は幾つになっても成長する生き物だがね」

「そう……なのか?」

「うん、キミの師匠のノウレムがいい例じゃないか。彼女は宮廷魔導士としてぼくが知ってる頃より、ぐんと成長した。だから『ホール』が使えたんだ」


 カサンドラは意外な想いにうたれた。

 ノウレムは自分に厳しいことを言ったが、ノウレム自身も努力を続けていたのだ。


「そうか……人と自分を比べて――落ち込んでる場合じゃなかったな……」

「うん。それに、この料理の腕だけでも、キミには素晴らしい力があると思うがな。うちのパーティーの連中に教えてやりたい」


 スレイルがそう口にする。

 と、カサンドラの唇から、言葉が洩れた。


「……あなたに教えてもいいんだが」

「うん? ぼくが? 料理を?」


 驚いた顔をみせるスレイルに、カサンドラは笑ってみせる。


「少なくとも、私が特級魔導士になるよりか、ずっと上達の見込みのある試みだが」

「そうかな? ……うん、けどそれも悪くない」


 スレイルは真面目な顔をすると、大きく頷いた。



   ♦   ♦   ♦   ♦   ♦   ♦   ♦   ♦



 カリヤとバルギラはカイラキ郡の都市センディームを囲う、城壁の中の砦にいた。

 傍にはザンナード子爵がいる。


「どうでツ、この兵の数! 二万ほどもいるでツよ!」


 小太りした身体を無理やりにシャツの中にいれたようなザンナード子爵は、舌ったらずの口調で自慢げにそう口にした。


 砦の眼下には、視界のはるか先にまで並んだ兵士たちがいる。その数は確かに二万人もいそうであった。


「素晴らしいですね、ザンナード子爵。これほどの兵が急速に揃えることができたのは、子爵の人望あってのことでしょう」


 水色の髪を後ろで細く結んだバルギラが、そう言って微笑む。

 ザンナード子爵は相好を崩した。


「そうでツね! ワタチには旧貴族の者たちのネットワークもありまツ。ワタチの蜂起に続いて、各地の反皇帝勢力が決起し集まってくる手はずでツ!」

「やはり、あなたを第一の仲間にしてよかった。頼りにしてますよ、ザンナード子爵」


 バルギラの微笑みに、ザンナード子爵は機嫌をよくする。


「しかしバルギラ公爵の作戦がまんまとあたりまチたね! そこのカリヤくん配下のヒモグラー兵が正規軍を急襲し、その混乱を鎮圧する形で我が開都護衛隊がセンディーム入りする。その状態で、実際、正規軍はもう骨抜きでチた」

「まあ、ザンナード子爵の揃えた護衛隊――特に『煌輝十二将』の力に負うところも大きいでしょう」


 バルギラがそう褒めると、ザンナード子爵はさらに調子にのって声を上げた。


「しかし帝国正規軍なんて言っても大したことありせんでチたね。特に我が『煌輝十二将』に並ぶほどの猛者は、一人もいませんでチたね!」


 ザンナードはそう言うと、そこに控えた十二人の者を手を振って示す。

 そこには明らかに只物じゃない雰囲気を漂わせた十二人の男女がいた。


 その中で、割烹着を着た、化粧っ気のない太目の中年女が口を開く。


「フン、正規軍なんて大したことない奴らばっかりだったよ。料理のし甲斐がないねえ!」


 そう言って凶悪な笑みを浮かべたのは『料理女』マルガリータだった。

 そこから離れた処にいる、ピンクの髪をやたらに結び、目が痛くなるほどカラフルな衣装をつけた女が口を開く。


「まだ、これからなんでしょ? 帝都から本隊がくれば、少しはアタシも爆裂魔法の使い甲斐があるでしょ」

 

 そう口にした赤い眼鏡の派手な女は、『虹の魔女』ケーラである。

 ケーラ、マルガリータを含め、そこにいる『煌輝十二将』は、全員がAランク戦闘者の強者ばかりだった。


「……確かにケーラの言う通りだ。本隊がこれからやってくる、ここからが我々の真の力の見せどころだ」


大剣を背負った隻眼の男がそう口にする。彼は冒険者の中でも有名な剣士『沈黙の隻眼』スゴウだった。

そのスゴウに対し、声をあげた者がいる。


「なんかオレは、お前がリーダーみたいに仕切ってんのが、どうにも気に入らねえんだよなあ! アン?」


 そう声をあげたのは完全なスキンヘッドで、眉毛もない、細身の男だった。

 無理矢理切り裂いたような口を吊り上げ、『シザークロー』ジャシードは自分の右手を出してみせた。その指一本一本に長い刃物の爪がついている。


 ジャシードは自分の爪を舐めながら、スゴウを睨んだ。


「俺はリーダーのつもりなどない。我々はあくまで、ザンナード子爵の配下だ」

「ケケッ、オレと争う気はないってか? まあ、懸命なことだよ、隻眼!」


 ジャジードは薄笑いを浮かべて、舌を出す。

 そこにザンナード子爵は笑いながら声をあげた。


「まあまあ、皆さん。皆さんは仲間でツからね。仲良くやってください! なにせ次にやってくるのは獅子王戦騎団でツ。その時にこそ、皆さんが力を発揮する時でツ!」

「それはいつ頃になる?」


 スゴウの問いに、ザンナード子爵が答える。


「まあ、慌てて兵を揃えて出発して――三日ってところではないでツかね」


 その様子を白けた顔で見ていたカリヤは、隣のバルギラに囁いた。


「おい……何故、俺を此処に連れてきた?」

「フフ、まあ今に判ります。ぼくの予想が当たれば――来るのは獅子王戦騎団じゃない」

「じゃあ、もっと別の戦力が来るってのか?」


 カリヤの問いに、バルギラは前を向いたまま緊張した笑いを浮かべた。


「そう…それをぼくも見届けなければいけないのだよ――」


 その時、扉が開いて兵士が入ってきた。


「伝令です! こちらに向かって来る飛行体があります!」

「フン、空から来ましたか。それで、敵はどのくらいの数でツ?」

「それが……」


 伝令の兵士は一瞬言いよどんだ後に答えた。


「――一機とのことです」

「一機? そりゃあ敵兵じゃなくて、ただのモンスターでチョう」


 ザンナード子爵は双眼鏡を取り出すと、自ら砦の際に立って覗いてみる。

 それを見ながら、バルギラが呟いた。


「やはり来たか……『皇帝の黒剣』」


 その言葉を聞いたカリヤは、バルギラの顔を見る。

 バルギラは笑ってはいたが、その顔には緊張が走っていた。


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