表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

218/239

3 スレイルの過去

 

 エリナが出版計画を発表してから三日目。朝からエリナは僕とキャルに言った。


「今日はハルトさんを連れて、ゲンシムに行こうと思ってる。一日仕事になるよ」


 最近知ったのだが、ガロリア帝国には五大都市というのがある。まずは皇帝のいる帝都ケイム、そして僕らの住む開都オーレム。

 それから西に向かって順に、ガレム、センディーム、ゲンシムと離れていく。ゲンシムと言えば、五大都市の中でも一番遠くだ。


「ゲンシムって、相当に遠いですよね」

「1200キロくらいだな。ブランケッツ号の最大速度で行っても、10時間くらいかかるんじゃないか? 途中のセンディームで一泊しようと思ってる」


それでも、普通に馬車で行くのと比べると――って事か。僕は納得した。


「こんな長距離は始めてですね。前はゴム脚だったけど、今はバネ脚にできるんで、速度は上がってるはずですよ」

「そうか。まあ、休み休み行こう」


 そう言うと、エリナ、キャル、ハルトがブランケッツ号に乗り込んだ。

 軽化すると、ふわりと荷車が浮く。そして眼の前に、バリアができる。


「じゃあ、行きますよ」


 僕はそう言うと、駆け出した。

 しばらくは順調――だったが。


 さすがに二時間も走ると疲れが出てきた。いくら脚力を使ってないとはいえ、姿勢を維持する筋肉は使っている。さすがに疲労した。


 バリアを作るキャル、車を浮かせてるエリナも疲れが出てきてる。魔力も霊力も、軽いとはいえ使えば疲労する。ハルトも途中で替わっていた。

 街と街の間は、草原や平野などの開発が進んでない土地だ。そういう処は全速力で飛ばし、中都市・小都市は休憩するためなら立ちより、そうでなければ迂回した。


 そうして7時間も走った頃、今日の宿泊予定都市のセンディームの手前に、小さな街に到着する。僕らはそこに立ち寄ったが、そこから出ようとする時、街の城門で騒ぎが起きていた。


「センディームは封鎖されてるぞ!」

「軍隊が出ていて、先に進めない!」


 そんな声が飛び交っている。


「どうしたというんだ?」


 ハルトが渋い顔をみせた。エリナが、そこにいた男に話しかける。


「ねえ、一体、どうなってるの?」

「ああ、センディームの郊外に軍隊が一万は出てる。あれは開都警護隊だ。昨日、帝国駐留軍を、開都警護隊が急襲したっていう話だ」


 男の言葉に、僕らは呆然とする他はなかった。


「もしそれが事実なら……これは、内乱になるぞ」


 ハルトがそう呟く。内乱って、つまり――


「戦争が起こるって……こと?」


 エリナが、深刻な面持ちで口にした。



△  △   △   △   △   △   △   △



 カサンドラは、原稿に向かいながら、まったく進まないことに苛立っていた。

 原因は判っている。


『ノウレムの魔力は大体、25000で、僅かに足らなかったはずだ。その5000を、上級魔導士なりたてのキミが埋めた』

『ぼくは27000ってところかな』


 頭の中で、スレイルの言葉が渦巻いていた。

 上級魔導士になって、相応の実力を得たつもりでいた。しかしスレイルの計算が合ってるならば、師であるノウレムのまだ五分の一程度の力しかない。


 そしてあの神経質そうな細身のヘンな男――スレイルは、そのノウレムより自分の方が上だと言った。――そんな事があるのか?

 けれど……あの集中力を見ると、本当のような気がした。何より、カサンドラでは全く判らない魔導工学にも、スレイルが造詣が深いことは明白だった。


 それに『暁の波濤』グエンナードと親しくしているというのも、引っかかった。グエンナードは皇帝レオンハルトを除けば、帝国――いや、世界最高峰の魔導士である。


 その歳は恐らく70歳を超える。灰色の総髪、長い顎鬚、トレードマークのような樹の節目の残る魔導杖。グエンナードはカサンドラの幼き頃から、ほとんど伝説上の人物だった。

 それをあのスレイルは――


 まるで茶飲み友達かなにかのように話し、そして師匠のノウレムに対してもそうだが、呼び捨てだ。自分が神のように感じてる偉人を、まるで軽く扱われてるようで、どうにも胸がもやもやする。


「……なんだというんだ」


 カサンドラは一人、ぼやいた。

 スレイルが気に入らないわけではない。ただ、何か納得できないような気持が胸にあって、それが集中を妨げる。


「――ん…もう、こんな時間か」


 気付くと、もう昼近くであった。カサンドラは部屋の外にでたが、ハウスには誰もいない。ふと外の様子を見ると、昨日と変わらずスレイルが作業に没頭している。


「……昼食をつくるか」


 カサンドラは昼食を作った。オリーブオイルで鶏肉を香草焼きにし、それを刻んでパンにはさむ。それを両面焼きにしてホットサンドにした。

 そしてポテトサラダと野菜スープを添えると、カサンドラはスレイルを呼びにいった。


「スレイル……さん、昼食を作ったのだが」


 昨日と違い、たまたま作業の合間だったらしいスレイルは、にこやかにカサンドラに言った。


「あ、そうなのかい。ありがとう、今日もご馳走になるよ」


 スレイルは微笑むと屋内に入り、カサンドラと向かい合って食卓についた。

 ホットサンドにかぶりつく。


「美味い! いやあ美味いな。こんな食事に慣れると、もうパーティーに帰れなくなるかもしれん。」

「そんな、大げさな」

「いやいや、本当の事だ。はっきり判ったが、うちのパーティーには料理上手がいないんだな。――上位のものがあるという事を知るというのは、残酷なものだ」

「あなたがそれを言いますか」


 カサンドラは、ふと唇をついて出た言葉に、自らはっとなった。


「あ……すまない」

「ん? 何が?」


 気にした様子もなく口をもごもごさせているスレイルを見て、カサンドラはため息とともに苦笑した。


「いや……私が昨日、あなたの話を聞いてショックを受けたばかりだったから。つい――」

「ショック? 何故、キミがショックを受ける必要がある?」

「――自分の…至らなさを自覚して、だな」


 カサンドラは苦笑して見せた。が、スレイルは妙なものを見る目つきをしている。


「キミのどこが至らない? 上級魔導士で上級剣士で、料理も上手くて、おまけに美人なのだろう? バランスのとれた、素晴らしい資質ではないか」

「いや、私は……ノウレム先生やあなたと比べれば、全然、まだまだなんだと自覚しただけだ――それにしても不思議なのだが、何故、あなたほどの実力者が冒険者を? あなたは宮廷魔導士でもおかしくない実力なのでは?」


 それを聞いたスレイルは、こともなげに言った。


「宮廷魔導士だったよ。もう、10年くらい前の話だけど」

「10年前? ……あの、スレイルさんは今、幾つなんだ?」

「27。14歳で上級魔導士になり、15歳の時に宮廷魔導士になった」


 スレイルは野菜スープを呑みながら、なんでもないようにそう語る。


「は!? 14歳で上級魔導士? ……天才すぎる…」

「いやあ、けど嫌がらせとか政治的謀略があって辞めたんだ」


 スレイルはそう言って苦笑した。と、カサンドラは憤慨する。


「そんな! 真に実力がある者を登用すべきなのに! まったく間違ってる」

「いやあ……そうでもないと、ぼくは思うよ」


 スレイルはそう言って自嘲気味に笑った。


「15歳の頃のぼくは、自分が頭がいいのを鼻にかけて、周りを小馬鹿にし、全く周囲とうまくやろうなんて考えもしないクソガキだった。そんな奴とうまくやれないのは当然だ。嫌がらせもするし、謀略もして、ぼくを追い出したくなるのは当然だろう」

「……それで、あなたはいいのか?」

「いいも悪いもない。ぼくは誰からも相手にされなくなって宮廷を出た。正直言うと――人と関係を作るのは、今でも苦手だ。ぶっちゃけて言うと、あのグイグイ来る眼鏡の女性は、少し苦手だ」


 苦笑気味にそう告白するスレイルに、カサンドラは目を丸くした。


「エリナが苦手? …あなたが?」

「ああ。ナイショにしておいてくれ」


 少し間をおいて、カサンドラは笑い出した。それを見て、スレイルも微笑む。


「ぼくは確かに秀でたところがあるかもしれないが、バランスが危うい。そこへ行くと、キミはトータルで秀でていてバランスがとれている。素晴らしい資質だ――羨ましく思うよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ