第三十七話 月光堂出版! 1 天才魔導士スレイル
細身で神経質そうな感じのスレイルは、僕が言った言葉に敏感に反応した。
「ぼ、ぼく? ぼくに何の用があるんだい?」
「実は魔導機械の印刷機があるんですが、それが故障してしまったんです。それを直せるのは、スレイルさんしかいない、と」
僕の言葉を聴くと、スレイルは眼を輝かせた。
「魔導機械の印刷機!? なんだい、それは! めちゃくちゃ興味あるぞ! ――レガルタス、ぼくは彼らの処へちょっと行ってみたいけど」
「ああ、いいぞ。じゃあ、今回はお前抜きで、たんまりと稼げるクエストに出かけておく」
レガルタスはそう言って、笑みを浮かべてみせた。
「くう~っ! なんて事を言うんだ、レガルタス! けど、仕方ない。場合によっては数日かかるかもしれないしな」
「フフ、冗談だ。お前抜きでデカい仕事ができるわけがないだろう。適当に小銭稼ぎしとくから、お前は気にせずに力を貸してやれ」
レガルタスが微笑しながらそう口にする。なんか、冗談言っても渋くて格好いい。
ただ、僕はそこで少し言い添えた。
「あの、修理代はちゃんと報酬としてお支払いしますんで」
「え? そうなのか? な~んだ機械を見せてくれるだけでも嬉しいのに、こいつはいい仕事だ。じゃあ、行ってくるよ、みんな」
スレイルはそう言うと、むしろ僕とキャルを急かす勢いでギルドの外に出た。
僕はギルドの外に出ると、歩きながら説明する。
「ちょっと僕らのパーティーハウスに機械が置いてあるんで来てほしいんですけど、大丈夫ですか?」
「全然構わないが――キミ! この前、飛んでただろう! その仕組みを教えてくれるという話だったじゃないか!」
あ~、やっぱり覚えてたか、この人。
「いや、それなので、ちょっと人目につかない処まで移動します。それからね」
そうして人目のない外れまで来ると、僕はスレイルに向き直った。
「それじゃあ、まず僕の異能から説明しますね」
僕は軽化の異能を説明し、同調の原理を理解してもらった上で、コートの後ろに足を入れてもらう。キャルが右、スレイルが左だ。
「それじゃあ、三人を軽化したところで、キャルに力場魔法で飛ばしてもらいます。キャル、お願い」
「うん、じゃあ行くよ」
そう言うと僕らの身体がふわりと浮かび上がる。
と、スレイルが声をあげた。
「おお! 浮いた! 凄いぞ!! なるほど、こうやって飛んでいたのか、これは素晴らしい!」
賑やかだな、この人。
「じゃあ、一旦、人目につかない上空まで上がって――パーティーハウスまで帰ろうか」
「判った」
と、キャルは一気に、上空まで飛行する。
「おおおおぉぉぉぉっっ!!!」
スレイル、凄くうるさい。けど、まあ仕方ないか。
やがて上空まで出た僕らは、パーティーハウスのある森に向かって飛び始めた。
「す! 素晴らしい! まさかこんな体験をしようとは! 飛行魔法は負荷が重く、不可能な魔法だと思われているが、魔力を上げるのではなく、負荷自体を軽減することによって飛行を可能にする――こんな方法があったとは! 眼から鱗とは、この事だ、クオンくん!」
「喜んでいただけたら、何よりです」
「キャルさん、使ってるのは普通の力場魔法かい?」
「あ……はい」
「ちょっと、ぼくに操縦を替わってもらえないだろうか。是非、体験してみたい」
スレイルは熱心な様子で、そう提案してきた。
「クオン、いい?」
「うん、いいと思うよ。危なかったら、キャルがサポートして」
「判った」
「おお! じゃあ、キャルさん、一度魔法を解いてみてくれないか」
キャルが魔法を解く。と、落下が始まる。
「おおっ! 落ちていく! まさに落下ではないか!」
「それはいいから、早く飛ばしてください!」
グン、と急に落下が止まり、空中に体勢が安定した。
「おぉ……本当だ、まるで一片の花びらを操ってる程度の負荷で、全員の体重を支えている。これで飛ぶことができるわけだな」
と、言った途端、急に僕らの身体が猛スピードで飛行を始めた。
魔力が強すぎる! 速度が速すぎて、風圧がヤバい!
「ちょっと、スレイルさん! 速すぎます!」
僕の頬が風を受けて歪む。口の中に空気が入って、唇がめくれる。
「はにゃふぎまふ――ふへいふさんっ!」
「ふぉ、ふぉうかあ!」
同じ様に風圧で顔の歪んだスレイルが応える。
キャルは――うつむいて、顔が歪まないようにしてた。よかった。
は、いいけど――
「きゃふ! しーるどょはって!」
キャルは顔はあげずに、うんうんと頷いた。と、進行方向に力場のシールドができて、僕らは風圧から解放された。
「ふう……スレイルさん、速すぎですって!」
「いやあ、すまん。これ中々、調節が難しいんだよ」
そうなのか。……ん? キャルと飛んだ時って、こんな苦労したことないぞ。
キャルの魔法のコントロール力が、きっと高いんだろうな。
「じゃあ、僕が指さす方向に飛んでください。もう、好きなだけスピードあげていいですから」
「ほっ、ほーいっ! 了解だ!」
――で、僕らはびっくりするくらい早く、パーティーハウスに帰ってきた。
絶対、スレイルさんはスピード狂だ。もう二度と、一緒に飛ばない。
それはともかくとして、エリナがバルコニー下に印刷機を出して見せる。
スレイルは興味深そうに色々眺めていた。
「いやあ、これは凄いな……こんなものを作れる天才がいるとは――。一体、どこの誰だい?」
「ああ……この前、迷宮で飛行機械が飛んできたでしょ? あれを作った奴です」
「なんと! あの飛行機械だけでなく、こんな印刷機も作れるのか! 素晴らしい技術だ! 凄いぞ!」
まあ、確かにウェポンは凄い奴だったのかもしれない。最低な奴だったけど。
「――で、どうだい? 直せそうなのかい?」
「う~ん、一度バラして、構造をちゃんと把握すれば、なんとかなるのではないかと思われる」
「バラす? 分解するってこと? ……それ、元に戻せるの?」
エリナは疑わしそうに、スレイルに言った。
「図面に起こしながらバラすので、戻るのは確実だ。ただ、故障が直せなければ、故障状態に戻すだけだが」
「けど、やってみないと判らないし、うまくいく可能性もあるのね?」
「というかだな――」
スレイルは少し考えながら言った。
「この機械の構造が判れば、この機械自体は治せなくても、新たな印刷機械は作ることができるかもしれない」
「えーっ! そうなの!? スレイルって、もしかして天才?」
「まあ、そうだね」
こともなげに、スレイルは肯定した。……きっと、この人、本当にそうなんだろうな。それは特に、珍しいことでも自慢でもないに違いない。
「というか、大まかな構造は判ってるんだ。だから作った奴は凄いと言ってるのだけど、ぼくのプライドにかけて、この機械の50%性能の印刷機械は作れると断言しよう」
「ホントに!? スレイルって、マジで凄い! よ~し、じゃあ我々は出版に向けて各方面の動きを加速するわよ!」
エリナはそう意気込んだが、スレイルはそこで声をあげた。
「あ、作れるとは言ったが、すぐじゃないぞ。部品の加工とかに時間がかかるから、それなりに時間は必要だよ。これが直せれば、そんなに時間はかからないが、新たな機械は一年以上かかる」
「一年!? そんなに待ってられないわ!」
「そうは言っても、細かい部品の加工は、ぼくだけじゃできなくて、あちこちの工房に頼むことになるから、時間はかかるものだよ」
スレイルがそう言ってるところに、僕はちょっと口を挟んだ。
「あの~……僕、大概のものは加工できますよ。異能で、うん」
「なんと! キミはそんな事もできるのか? 一体、どういう原理なんだ!?」
「いや、それはおいおい話すとして……部品加工の時間がかなり短縮できたら、どんな感じになります?」
「そうだなあ……一ヶ月! 一ヶ月で、印刷可能な状態にしたいな」
エリナがスレイルの言葉を聴いて、腕組みをした。
「よし! じゃあ、こちらもその一ヶ月をメドに、原稿取りやインフラ整備を進めよう。忙しくなるぞ、クオンくん!」




