6 パーティーハウスへの帰還
エリナはシグマ、それに僕とキャル、カサンドラに眼を向けた。
「シグマは色々やることあるよ。工場の場所を決めたらそこの整備、製本できるようになったら、そこから荷造り、荷運び――それに万が一の時を考えての用心棒だね。人手は幾らあっても足りないくらい」
「そうか――ま、それならいいけどよ。何でも言ってくれ」
シグマは力仕事向いてそう。いや、それなら僕だって――
「あの、エリナさん、僕は……」
「クオンくんは、基本、キャルちゃんと一緒に行動して」
「え、えぇ!?」
僕とキャルは眼を合わせて驚く。え、いや……そりゃちょっと嬉しいけど。
なんか、それを見透かすように、にっと笑う。
「君たちはとにかく移動が必要なこと全般を受け持ってもらうから、大忙しだよ。原稿を頼んでる人の原稿取りや、連絡役。この世界には携帯電話がないからね。直接、色んな情報を運んでもらうことになると思う。そのためには、二人一組でいるのが一番いいんだ」
「そう……」
僕は納得して、キャルの方を見た。キャルが僕を見て微笑む。
「頑張ろうね、クオン」
「う、うん――」
その可愛さに思わずどきまぎした。が、そこでカサンドラが声をあげる。
「私は仕事がなさそうだな?」
「何を言ってるんだ、カサンドラ! 君は今回の帝都祭の動乱についてのレポートを書いてもらうつもりだ」
「私が――文章を?」
カサンドラが珍しく顔を歪ませる。あ、カサンドラって、こういう表情もできるんだ。
「そう。君が事件の経緯や出来事について、一番、詳しく書けるだろうからね」
「お前が書けばいいじゃないか」
「私は、私の原稿があるの! で、ちょっと書いて、どうかなーと思ったら、ジョレーヌに見てもらって、手直しとかアドバイスとか受けて。そうだな……三日! 三日で第一稿あげて」
「三日だと! ……お前、ノウレム先生以上に無理難題をふっかけるな」
「できるよ、カサンドラなら」
エリナは、にっと笑ってみせる。と、エリナはジョレーヌに向き直った。
「と、こんな感じだ社長。出版社稼働まで、全速力で駆けるぞ!」
「……あたし、そんなアクティブなタイプじゃないんだけどな~……」
「そんな事は判ってるさ! けど、ここが踏ん張りどころだよ、ジョレーヌ」
ジョレーヌは一つ息をつくと、諦めたように眼鏡を直しながら笑った。
「ま、あんたにつきあってみるよ、エリナ。きっと面白いものを見せてくれるんだろうから」
「そうこなくちゃね! それじゃあ、今日の処はみんなでパーティーハウスに帰ろう。決起会――パーティーをするけど、ジョレーヌも来てね」
「え? あたしも?」
「社長がいないと始まらないでしょ!」
エリナはそう言うと、笑ってみせた。
それから僕らはブランケッツ号に全員を乗せて、パーティーハウスに戻る。
「おお! これがクオンたちのパーティーハウスか!」
シグマが歓声をあげる。エリナとカサンドラも、顔を輝かせながら、パーティーハウスを眺めた。
「いやあ、リフォームする計画とは聞いてたけど――二階建てになってる上に、ゲストハウスまであるじゃないか。クオンくん、凄いな!」
「ガドが手伝ってくれたから、作業が早かったんだよ。僕とキャルが二階に行くから、エリナとカサンドラは一階で。――あ、ディギナーズはゲストハウスに逗留してね」
僕の言葉にスルーが微笑みながら声をあげる。
「こんな処に住まわせてもらうなんて――これはきっちり働ないとね」
「うん、凄くいい感じ。ね、一階と二階、男どもはどっちがいい?」
カエデがシグマとハルトに訊く。ハルトが落ち着いた様子で答えた。
「私はどちらでも構わんが」
「女子には色々都合があるから――一階の方がいいわね」
スルーがそう言うのに、シグマとハルトは頷いた。
脇ではエリナがジョレーヌに話しかけている。
「ジョレーヌも今日は泊まってってね」
「私は何処に泊まったらいい?」
「私の部屋に泊まって。――で、私はカサンドラといちゃいちゃしながら寝る」
「なんで私の処に来る!? ジョレーヌとその……一緒に寝ればいいだろう!」
「ん~……なんか、ジョレーヌってそういう相手じゃないんだよな~」
「確かに、そういう感じがするわ」
エリナが腕組みをして言った言葉に、ジョレーヌもうんうん、と頷く。
カサンドラはもう呆れ顔をするしかなかった。
それからカサンドラとスルー、カエデが料理を作り始める。
シグマとハルトは部屋に荷物を入れて部屋作りを始め、エリナとジョレーヌは打ち合わせに余念がない。僕とキャルは――
「僕たち、なんかやることないかも」
「いいんじゃない? けど、みんな楽しそうだし」
キャルが笑った。考えてみると、キャルはせっかく貰った白夜の呪宝を奪われて、不安な立場なんだった。
「ちょっと、夜風にあたろうか」
「うん」
僕はキャルと一緒に二階のバルコニーに出た。
二人で手すりにもたれて、夜空を見上げる。綺麗な星空だった。
「……まだ、ここが廃墟だった時、窓から見る星空が綺麗だな――って、思った」
ふと、キャルがそう口にした。
「そうなんだ。なんかあの頃、生きていくだけで大変だったから、そんな余裕なかったなあ」
「わたしは……クオンと出会ってから、やっと自分が本当に生きてるって思えるようになったから…。何もなかったけど、凄く嬉しかったし、希望があった」
「今もあるよ――」
僕はキャルを見つめた。キャルが微かに笑う。
きっと不安に思ってる。けど、そんなキャルを――僕が必ず守ってみせる。
「今だって、希望はあるよ。この出版社がうまくいったら……もう戦わなくても生きていけるし、白夜の呪宝も獲り返して、キャルが心配なく生きていけるようになる。僕が――そうしてみせるよ」
「クオン……ありがとう」
キャルの手が、手すりにおいた僕の手に触れた。
どきっとしたけど――僕はその上から、もう一方の手を重ねる。
不意にゆるやかな風が吹いて、キャルの純白の髪を揺らした。
月明りでキャルの唇が――輝いて見える。
みつめあった僕らは、自然にお互いの距離を縮めていた。
「――クオンくん、キャルちゃん、ご飯だぞ~!」
不意に階下から響くエリナの声に、僕らは我に返った。
――え? 今、もうちょっとで…キスしそうになってた……?
えぇ!? いやいや、ちょっとそんな――
と、見ると、キャルが顔を赤くしてうつむいている。
「ご飯、食べにいこっか!」
キャルは顔をあげると、にっこり笑った。
* * *
その日のパーティーはとても賑やかで楽しいものだった。
このパーティーハウスが、こんなに賑やかな場所になる日が来るなんて――本当に想像もしてなかった。
そして翌日から――
エリナの出版計画は始動した。
僕がまずキャルと行ったのは、冒険者ギルドだ。
受付には、相変わらずの美人エルフ、ミリアさんがいた。
「こんにちはミリアさん、前に言ってた――特別ギルドの場所を教えてもらえますか?」
僕が訊くと、ミリアさんはちょっと微妙な表情をした。
「前に冒険者ギルド以外に、原民優先の探索者ギルドができたってお話ししましたよね? そっちの方に会員が流れたので、特別ギルドと一般ギルドは合併したんです。だから、こっちで上級クエストも受けられるんですよ」
「じゃあ、Aランクパーティーもこっちに出入りするんですね? エターナル・ウィスルの皆さんを見ませんでしたか?」
「今日はまだ見てませんけど――あ、いらしたんじゃないですか?」
ミリアさんが出入り口を促す。そっちを見ると、まさに――エターナル・ウィスルの面々が入ってくるところだった。
「ミリアさん、ありがとう! ――こんにちは、レガルタス!」
僕は先頭にいたリーダー、レガルタスに声をかけた。
ブラウンの短い髪と、角ばった形にカットした顎鬚。いかにも筋肉がある巨躯の背中に背負った棒。そして何より――歩いただけで感じるその威厳。
「おう、クオンか。新しいクエストでも探しに来たのか?」
「いえ、実は――スレイルさんに用がありまして」
僕は後ろにいた、細身の魔導士スレイルに声をかけた。




