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5 エリナの計画!


 銀髪を風になびかせてるようなシグマ、落ち着いた佇まいのハルトに続き、丸い髪型のスルーとダルそうな目つきのカエデが入ってくる。


「ほう、これは……いい本屋だな」


 ハルトがそう口にした。他の面子はそのまま中に入ってくる。

 ジョレーヌがその様子を見て、エリナに言った。


「ちょっと、此処を集合場所にしてるの?」

「いいじゃないか、此処は居心地がいいんだよ」


 エリナは悪びれない様子で笑う。ジョレーヌは諦めたようにため息をついて、声を上げた。


「じゃあ店では狭いから、みんな奥へ来て」


 そう言うとジョレーヌは店舗から奥に入った居住空間の方に僕らを案内した。

 ソファ二つと低いテーブルがあり、そこにディギナーズの四人が座る。


 僕らは傍にある高いテーブルと椅子席に座ると、ジョレーヌが紅茶を淹れて持ってきた。エリナが声をあげる。


「随分、客を迎える準備ができてる部屋だな、ジョレーヌ」

「本屋同士の会合なんかに使うからね。――いっぺんに作れないから、まずは新規のお客さんね。あなたたちは、エリナの新しい仲間?」


 シグマたちが、互いに顔を見合わせる。と、シグマが口を開いた。


「いや、元敵だ」

「は? 敵?」

「そうだ。強敵と書いて『とも』と読む」


 いや、それは判ったから。ジョレーヌも戸惑ってるじゃないか。


「まあ、それはいいとして、実は私、思いついた事があるんだけど言っていいかな?」


 エリナが突然、声をあげる。それにスルーが、声を返した。


「なに? あたしたちにも関係のあること?」

「おおアリだ! 実はみんなに協力してほしいことがあるんだ」


 なんだろ? エリナの言葉を皆が待ってると、エリナは人差し指をたてた。


「出版社を作ろうかな、と思ってる」

「「「出版社?」」」」


 皆が何を言い出したのかというような顔をしている。

 が、エリナは気にしない様子で続けた。


「ディギナーズは判ると思うけど、この世界――ノワルドには、消費されるための本屋もないし、新聞社もない。そういうメディアを作ろうかと思ってるんだ」

「なるほど……しかし出版も新聞も、大量の紙と印刷機械が必要だ。それが準備できるのかな?」


 ハルトがそう口にした。うん、なんか元先生っぽい、しっかりとした発言だ。

 と、ジョレーヌがそこに割って入る。


「ちょっと待って! あの――新しい人たちって…みんな転生者なの?」

「実はそうなんだよね~」


 カエデがダルそうな眼を細めて微笑する。ジョレーヌは呆気にとられた。


「エリナとクオンくんだけでも珍しかった転生者が……一気に四人増えた? もうなんか、異常事態すぎてついていけない」

「ついて来てくれよ、ジョレーヌぅ! だって、その出版社の社長はキミだぞ」


 エリナの言葉に、ジョレーヌは眼鏡の奥の眼を見開いた。


「はぁっ!? 何言ってるの、あんた! どうして、あたしが社長なの? 言い出しっぺがやりなさいよ!」

「私は元の世界の状況は知ってるけど、経営能力とかこの世界のコネとかゼロなんだよね。だから社長はジョレーヌの方がいいわけ。って言っても、それが実現できるかどうかは、実はさっきハルトさんの言った印刷機械次第なんだよね」


「それがないなら、まず無理な話じゃない」

「実はさ、マーブックに会った時に、その印刷機を預かってきたのよ」


 マーブックって誰だ? と思ってると、エリナが補足した。


「あ、マーブックっていうのは、帝都の書店マーブックの店長ね。ジョレーヌと仲いいのよね?」

「……あんたが考えるような仲じゃないからね」

「ええぇ!? そうなの?」

「彼は従兄だから。それに彼は自分の事は棚にあげて、実は美人好きだから」


 なんか、凄い辛辣な言い方をされてる――。けど、よく見ればジョレーヌだって、結構、美人だと思うけど。……よく見れば、だけど。


「なんだあ、そうなのか~。まあ、それはいいとして、印刷機を持ってきたはいいけど、実は故障してるんだ。で、この故障が直せそうな人がオーレムにいるって聞いてるんで、その人に会って故障が直せたら計画がうまく進められるかもしれない」

「ふうん……その故障が直せそうな人って?」


 ジョレーヌの問いに、エリナは答えた。


「うん。魔導工学に凄く造詣のあるスレイル・キュービックっていう人だって」

「――スレイルさん!?」


 僕は思わず声をあげた。驚いたように、エリナがこっちを見る。


「なに、クオンくん、知ってるの?」

「この前知り合いになったばかりだよ! 『エターナル・ウィスル』っていうAランクパーティーの、性格はヘンだけど凄腕の魔導士の人だ。うん……性格はちょっとヘンだけど」


 僕はキャルを見ると、キャルも頷く。


「うん。あの人たちに助けてもらった……性格はちょっとヘンだったけど」

「そうか。これこそまさに運命! どうかな、君の印象では? 元の世界の技術を取り入れた印刷機だけど、直せそうな人かな?」

「あの人なら、多分、直せるよ」


 僕は笑って言った。あの人なら、きっとやれる。そう確信があった。


「ようし! これで印刷機が準備できたら、出版が可能になるわ。ちょっと見えて来たかも」

「しかし、印刷に使う紙の仕入れ先は?」


 ハルトが現実的な質問をする、と、エリナはそこで胸を張った。


「実は紙の大量生産は、前の大戦の必要からもう技術的に可能になってるのよ。で、まだ帝国政府だけがそれを使用してたんだけど、それを私たちも使っていいって」

「……え? もう許可を貰ってる?」

「そう。これを見よ!」


 エリナは革ケースを取り出すと、それを開いて中を見せた。中には銀の獅子の紋章が入っている。

 それを見て、カサンドラとジョレーヌが目を見開いた。


「それは!」

「――獅子王戦騎団の紋章……ではないな。獅子王戦騎団の紋章は金だ。それは一体、なんだ?」

「これは獅子王執行官の紋章――だって。レオ様から貰った」

「こ……皇帝直々に――?」


 ジョレーヌが唖然として絶句する。

 エリナは言葉を続けた。


「この一ヶ月、皇帝レオンハルトに元の世界のインフラや情報通信事情を教えてたのね。そうしたら、レオ様が『我が国も、そのような発展を遂げるのが望ましいな』って言うわけ。で、私はそれを推進する役目として紋章を貰い、これを持ってれば帝国のどの施設、どの資源も皇帝直下の命として使用できるって。無論、予算も上限なし!」


 エリナはそう言って微笑みをみせたが、周囲はあまりにも規模の大きい話なのでついていけない。

 皆、ちょっと絶句している。


「あの~……みんな?」

「面白そうじゃない」


 その中で、スルーが声をあげた。


「あたし経理ならできるから、協力させてもらうわ。もちろん、給料出るんでしょ?」

「ええ、それはもう、ちゃんと」

「モンスター相手に戦ったりするより、よっぽどあたし向き。改めてだけど、あたしはスルー……で、よろしくお願いします」


 スルーはエリナに頭を下げた。エリナも相好を崩す。


「こちらこぞ、よろしく。スルー」

「――出版社やるんなら、受発注とか、配送管理とかの仕事必要なんじゃないの? アタシ、そういう事務方ならできると思うよ。……ちなみに、8人までは増えるから、場合によっては8人分の労働を一人分の給料で雇える」

「雇った!」


 カエデの言葉を聞いたエリナが、嬉しそうに声をあげた。

 ……あれ? なに、この流れ?


「ふむ……どれくらいの規模でやるつもりなのかにもよるが……流通経路の確保や、発行工場の設立、人材の登用など庶務があるだろう。――一から事業を始めるのに参加するのは、とても面白そうだ。是非、加えてもらえないだろうか」


 ハルトの落ち着いた言葉に、エリナは笑みを浮かべる。


「ハルトさん、すっごい頼れそうで、まずお願いしようと思ってたの。是非、よろしくお願いします!」

「こちらこそ」


 ハルトは静かに笑った。……は、いいけど。

 これって、僕――全然使えない奴なんじゃ?


「うわ、ヤベぇ! え? そういう流れなの? オレ、そんな仕事したことないから判らんわ。」

 

 よく言ってくれた、シグマ! 僕もだ!


「大丈夫! 君たちにも頼みたい仕事はあるよ!」


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