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3 ノウレムの卒業試験


 カサンドラはノウレムに呼ばれて、その屋敷へ来ていた。


「朝、緊急で皇帝陛下から招集がかかりました」

「皇帝から?」


 カサンドラは驚いたが、ノウレムはゆっくりと頷く。


「なんでも、復興チームを作るということで、帝都にいる上級魔導士六人を招集したようです。それで、このまま行こうと思います」

「判りました」


 と答えたはいいものの、それで何故、自分がノウレム宅に呼ばれたのか、カサンドラはいまいち飲み込めてなかった。

 が、その戸惑いを察したように、ノウレムが言う。


「カサンドラ、わたくしのお願いを覚えてる?」

「はい。特級魔法『ホール』の発現ですね」


 ノウレムは頷いた。


「今からそれを行います。――貴女の卒業試験と思って、やってほしいの」

「判りました」


 カサンドラは力強く言った。カサンドラなりに、準備はできているつもりだった。


「じゃあ、行くわね」


 ノウレムが大きな魔法杖を取り出す。その先端には、緑色の巨大な魔晶石が備わっていた。


「空間を形成する微粒子群の粒子加速およびその領域展開を発現する。我が命により集え、大気に宿りし粒子の力、その動き大地にかかる力となりし時――」


 ノウレムが魔法の法式を詠唱する。それは高度で複雑な方式だったが、時空間にひずみを作り、その裂け目を固定化、そして目的の場所へと歪みの裂け目を作る法式だった。


 そして詠唱するノウレムの身体が白く光り出す。魔力の相当な量の発現により、それが洩れだすほどの量だった。


 ここにカサンドラが自らの魔力をあげ、そこに加算する。

 輝きが――一層の眩しさを増した。


「今ここに開け――『ホール』!」


 ノウレムの声に呼応するかのように、目の前の空間が黒い渦と共に歪む。

 成功だった。


「できた! やりましたね、先生!」

「……ありがとう、カサンドラ。じゃあ、行きましょうか」


 ノウレムは微笑すると、そのホールの中に入っていった。

カサンドラもそれに続く。


 行った先で、カサンドラは驚いた。

 皇帝レオンハルトが、目の前に座っている。


「……お呼びになりましたか、陛下」


 ノウレムは静かに、頭を下げた。

 レオンハルトは眼の前のホールに驚いたようだったが、すぐに微笑を浮かべて席から立ち上がった。


「ノウレム……やっと、余のもとに来てくれたな」

「ホールで陛下のもとに行く――そう言ったのは、わたくしでしたから」


 ノウレムは自分に近寄ってきたレオンハルトを見つめて言った。

 レオンハルトはノウレムの傍に来ると、その両肩を手で触れた。


「待っていたぞ、ノウレム」

「申し訳ありません、陛下。こんなに時間がかかってしまって――。もう、陛下に眼を止めてもらえるような、若さも美しさも失ってしまいました……」


 ノウレムは苦い笑みを浮かべると、顔をうつむけた。

 が、レオンハルトは微笑して言った。


「なにを言う。変わらぬ美しさだ、ノウレム。そなた、時を遅らせる魔法を、自分にかけていたな?」

「そうでもしなければ……陛下にお見せする顔がないと思いまして――」


 恥ずかしそうにうつむくノウレムの顎を、レオンハルトはそっと持ち上げた。


「50年も待ったのだぞ、ノウレム。もう、そなたに触れてもよかろう?」

「陛下がまだ……お望みであれば――」


 ノウレムは恥ずかしそうに言った。

 それはカサンドラが今まで見たことのない、少女のようなノウレムの顔だった。


 レオンハルトがノウレムに口づける。

 ノウレムの眼に、涙が光った。


 唇を離すと、ノウレムはあどけない笑みを浮かべた。

 レオンハルトはそれを見つめていたが、ふと気づいたようにカサンドラを見た。


「ノウレム、後ろの者は?」

「わたくしの弟子で、カサンドラといいます」

「ん……エリナの友人だな? そして、ジュールに稽古をつけてもらった女剣士であろう?」

「は! 覚えていただき、光栄です!」


 カサンドラは慌てて、膝を屈して頭を下げた。


「陛下、カサンドラは上級魔導士で、復元魔法も使えます」

「そうか。ならば向うの控えの間で、他の上級魔導士と合流するがよい。そなたにも、復興を手伝ってもらおう」

「は、おおせのままに!」


 カサンドラは立ち上がると、示された隣室に向かうことにした。

 振り返ると、レオンハルトに肩を抱かれたノウレムが微笑んでいる。ノウレムはカサンドラに礼を言うように、微かに頷いた。


 カサンドラは幸せな気分で、その部屋を後にした。


*  *   *


 帝都祭二日目、カサンドラは集められた上級魔導士たちと一緒に、火災にあった家並みを復元することに協力した。集められたのはノウレムを含めた六人で、カサンドラで七人目となった。


 それぞれがさすがに高い実力を持っていたが、やはり皇帝レオンハルトの魔力は段違いであった。レオンハルトが街を復元すると、歓声と感動の声が上がり、街の人々が皇帝を称えた。


 そして帝都祭も最終日を迎える中、賑わいをみせる街の中心街、その中央広場で突如、空中に巨大な映像が浮かび上がった。


「親愛なる帝都の皆さん、ごきげんよう。ぼくはオーレム太守のバルギラ公爵です。みんな、帝都祭を楽しんでおられるかな? 祭りも盛り上がってる中――ぼくから皆さんに、ちょっとしたお願いをしたいと思い、クエストという形で出すことにしたよ。その報酬として――5億ワルドを用意します」


 5億ワルド――という金額を聞いて、街の住民にどよめきが起きる。

 クエストの内容はキグノスフィア迷宮にいって、ある魔道具を見つけるという内容であった。しかし、その名前を聴いた時、カサンドラの背に戦慄が走った。


「その魔道具の名前は……『白夜の呪宝』。ここにあるのは、そのレプリカだ」


バルギラ公爵は、白く輝く結晶体が埋め込まれた、十字型の白金製ペンダントを取り出した。その時、突如、隣にいたエリナが声をあげた。


「いけない!」

「な、なんだ、いたのかエリナ。どうした?」


 エリナは驚愕に眼を見開き、空中の映像を凝視している。


「あれは……キャルちゃんに埋められた『青炎の呪宝』と対のものだ。……バルギラ公爵! あいつこそが、キャルちゃんの一族を滅ぼした張本人だ!」


 そう声を出した後で、エリナは顎に手をあてて考え出す。


「待って――あいつが黒幕だと考えると……色々とつじつまが合う!」

「どういう事だ、エリナ?」


 エリナはカサンドラに眼鏡の奥から眼を向けた。


「サンダーチーターぽいカップルが、ヒモグラーたちのリーダーだったろう?」

「ああ、あいつらだな?」

「あれは――多分、この前、私たちが捕らえたサンダーチーターの細胞を移植して作られた怪人だったんだ」

「なんだって……」


 カサンドラは、エリナの展開する推理に驚くしかなかった。


「カリヤとバルギラはグルだ。裁判所の動乱も、バルギラがカリヤたちにやらせた事で、太守を殺して頃合いを見計らって事態の鎮圧に乗り出す。そうやってバルギラは太守代理になり、太守になった。――そしてバルギラが太守になってから、異民差別が公然と行われるようになった。これは……魔人族である皇帝の権威を、民衆から失墜させるための工作だったんだ」


「バルギラ公爵の狙いは――最終的には、皇帝の失脚…か?」

「あるいは――皇帝位の簒奪」


 エリナは鋭い目線を横に向けた。


「これだけ長い期間にわたって入念な工作をしてるんだ。ただ自分が出世するだけで、その目的が収まるはずがない。もしかしたらだけど――既に戦争の準備をしてるかもしれない」

「戦争――この帝国で内乱が……?」


 あまりの想定に、カサンドラが息を呑む。エリナはさらに言葉を続けた。


「そしてどういう理由でかは判らないが、あいつはキャルちゃんの力を自分のものにしようとしている」

「……そんな事――許せるはずがない!」


 カサンドラの言葉に、エリナも頷いた。


「戻ろう、オーレムへ。クオンくんとキャルちゃんに、合流しないと」


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