5 真相
カサンドラの左肩を貫いた槍が、一気に引き抜かれる。そこから血しぶきが舞い、カサンドラは呻いた。
「くぅっ!」
「ハッハッハ! どうした、小娘! 最初の威勢はどうした!?」
「く……貴様――」
カサンドラは左手をだらりと垂れ下げ、右手一本で剣を握る。
「そもそも獅子王戦騎団に選ばれた儂にたてつこうなど――思い上がりもはなはだしいわ!」
ゴードンが連続で伸縮自在の突きを見舞う。カサンドラは剣で防御しようとするが完全には間に合わない。
「くっ! ――ぐぅっ…」
右大腿、左脇腹を三又の槍がかすめ、鎧を切り裂いてカサンドラの身体を傷つけた。エリナが叫ぶ。
「カサンドラ!」
「人を気にしてる場合じゃないと言ってるだろう!」
ケリーがエリナに襲い掛かる。エリナは横跳びにそれを躱すが、ケリーはそれに追いついていた。横なぎに払った剣をエリナは小太刀で受けるが、そのまま押し込まれて横に飛ばされる。
「あぁっ!」
壁に激突したエリナは、そのままがくりとうなだれた。その顔から――眼鏡がずり落ちる。
「……エリナ――」
「フン、あの忌々しい娘も、ケリーの前では赤子も同然だな。儂にとって忌々しい存在は、誰であろうと排除する。――お前の兄にもそうしたようにな!」
ゴードンが凶悪な笑みを浮かべて、そう声をあげた。
カサンドラの眼が、驚愕に開かれる。
「兄さんを――グラント兄さんを排除しただと……」
「フフ、そうだ。最初は違う者が標的だった。犬耳の異民の分際で、分不相応にも軍隊に入隊してきた練習生を、いじめ抜いて除隊させる作戦だった。しかしお前の兄グラントが、その犬耳をかばい、それに対して異を唱えたのだ。そして生意気にも――儂にたてつきおった」
カサンドラは脇腹を抑えながら、よろける足で立ち上がった。
「貴様……兄さんに、何をした…」
「奴め――練習生たちの前で儂に勝負を挑んできおった……。お前の兄はな! お前よりはるかに強かった! 見た事のない技で儂の攻撃を受けきり、儂に膝をつかせた」
ゴードンは怒りに唇を震わせながら、声をあげる。
「しかも奴め! 儂を憐れんで、それ以上の負傷を与えず、外部への報告もしなかった――あの小僧が、儂に憐憫を与えるだと! これ以上の屈辱があるかぁぁっ!」
ゴードンは坊主頭に青筋を何本もたてて、怒鳴り声をあげた。
「奴を生かしておいては、儂のプライドが満たされることはない! 儂は手勢六人とともに、奴を襲った。奴の技は強固だったが――六人がかりでそれを破り、奴の胸を儂が刺した。その後は権限をフルに使い、奴が訓練中に自殺したと報告するだけでよかった」
カサンドラはゴードンが語る驚愕の真実に――絶句している。
勝ち誇ったように、ゴードンは薄ら笑いを浮かべた。
「……クク、自慢の息子が死んで、気落ちしたお前たちの父・バリーまでもが死んだのは幸いだった。奴め、奴隷を解放するなどと下らんことを言いおって――忌々しい政敵が死んで、儂にとっては好都合なことばかりだった。今では父と兄、愚かな二人が仲良く天国で暮らしているだろうよ。そして――」
ゴードンが槍を振り上げる。
「――お前も仲良く、死ね!」
振り下ろされた槍が床に叩きつけられ、辺りの物を破壊し爆炎があがる。
その煙の中――カサンドラは立っていた。
その姿に、ゴードンが少し驚きの表情を浮かべる。
カサンドラが憤怒の表情で、ゴードンを睨んでいた。
「……貴様は――許さん」
「ハッハァッ! 許さんだと? お前の方こそ、儂に泣いて詫びを言うようになる。散々痛めつけた後に、嬲り者にしてモンスターの餌にしてやるわ!」
ゴードンがそう声をあげると、不意に声が上がった。
「マジ最低……ないわ~――」
エリナがゆっくりと立ち上がる。
「もういいんじゃかな、カサンドラ。案の定、勝ち誇った瞬間に、迂闊に真実を喋ってくれたし」
「……お前の作戦通りだったな」
カサンドラは苦笑した。
二人で白馬に乗っている時、エリナが囁いたのだった。
「この先にきっとゴードンがいる。ああいう奴は勝ち誇った瞬間に気が抜けるから、迂闊な事を話すかもよ。……多分、お兄さんの死の真実が判る」
カサンドラは笑みを消して、ゴードンを睨んだ。
「お前の口から真実が聞けてよかった――兄は……自殺したのではなかった。誇りを持って、人を守ろうとしたんだ……。そして心置きなく――お前を倒せる」
「儂を倒すだと! その身体で何ができると――」
ゴードンがそう声を上げる中、カサンドラの身体が光りを放つ。
そしてカサンドラの負傷が回復していった。
「な――身体回復だと! フン、しかし身体回復で傷は治せても、体力は回復できんぞ!」
「お前を倒すのに、体力などいらん」
カサンドラの言葉に、ゴードンは青筋をピクピクと震わせた。
「よくも獅子王戦騎団の儂に……大口を叩いたなあぁっ!」
ゴードンが槍を凄まじい勢いで伸ばしてくる。
が、その勢いが、カサンドラの手前で止まった。
カサンドラの身体から、光の壁が放たれていた。
「そ……その技は――お前の兄も使った技――」
「気力域――父さんの生み出した技だ。そうか……兄さんは既に会得していたんだな。その事を教えてくれた事、そこだけには感謝しよう」
「くっ、そんな気力の壁など――あの時のように、大勢でかかれば無理やり破壊できる! ケリー、力を貸せ!」
ケリーが戸惑いとともに、カサンドラの方へ移動しようとする。
が、その前にエリナが現れた。
「はいはい、自分からフッといて、未練たらたらで追いかけようとした挙句、今度は上司の命令で攻撃? ――イケメンかもしれないけど……正直、最悪だね」
「お前は――」
エリナが自分の身体を治癒しながら、眼鏡の奥から不敵な笑みを見せる。
「お前も……やられたフリだと?」
「じゃあ、本気みせちゃおうかな」
エリナは微笑むと、小太刀を構えた。
次の瞬間、目にもとまらぬ速さでエリナが急接近し、ケリーの目の前で斜め回転しながら太刀を浴びせてきた。
「むぅっ!」
ケリーは回転しながら斬ってくる連続攻撃を、剣で受ける。
凄まじい回転速度で浴びせる攻撃のなか、ケリーは切り上げの形で反撃を試みた。
それをエリナは空中に跳んで躱す。と、跳んだ先の壁を蹴って、エリナが逆手の小太刀で襲い掛かる。
それをケリーが受ける。と、すぐにケリーは横なぎに胴を払おうとするが、エリナの身体が宙に浮き、それを躱した。
「……動きに、念動力を加えているのか」
「ご名答」
地面に降り立ったエリナがすぐさまに逆手の小太刀で、こめかみを狙う。
ケリーがそれを受けた瞬間に、エリナの順手の小太刀がケリーの頭部を狙った。すぐさまにそれに反応したケリーは、剣を防御に向ける。
――が、そこに向かってくるはずの小太刀がない。
「なに!?」
その瞬間、ケリーは逆の側頭部に衝撃を受けた。
エリナの小太刀はケリーを襲うとみせかけ、宙を旋回して逆側にまわっていたのだった。
「見事……」
ケリーが呻いて床に倒れる。
エリナは不敵に、ゴードンに笑ってみせた。
「ケリー! この……ふがいない奴め!」
「後はお前だ、ゴードン。……覚悟しろ」
気力域を張ったカサンドラが、ゴードンにそう言い放った。
低く唸ったゴードンが、連続で槍の突きを繰り出す。
しかし相当の速さで繰り出される突きの全てが、気力域に阻まれた。
「こうなったら、儂の奥義――激・怒轟閃光突!」
凄まじい気力とともにゴードン自身が突進して槍を突き出した。
その瞬間、カサンドラが気配もなく前に出る。
そして――ゴードンの身体が崩れるように、前のめりに倒れた。




