4 カサンドラ&エリナ、突入!
エリナの右の小太刀を警備役が剣で受ける。と、その瞬間に左の逆手の小太刀が、警護役の腹を打っていた。
「う――」
警備役が呻きながら倒れる。エリナの気当てにより、警備役は白目を剥いていた。
そのエリナに別の警備役が斬りつける。今度は逆手の小太刀で攻撃を受けると、右の剣柄で相手の顎を打ち抜いた。
「ぐはぁっ!」
怯んだ男の眼の前で、エリナが横に近い斜め回転を見せる。その瞬間、逆手小太刀が男のこめかみをしたたかに打っていた。
地面に降りたエリナは低く身を伏せる。その上げた顔の眼鏡の奥には、笑みが浮かんでいた。
一方、動かぬカサンドラに対し、前から三人、斜め後ろから二人の男が一斉に斬りかかる。全員の攻撃が当たると思われた瞬間――カサンドラが動いた。
向かって左端の男に、カサンドラは向かっていた。
相手の剣が届く前に、カサンドラの剣が相手の眉間を打っている。
男はものを言わずに昏倒した。
その男の横に入ると、カサンドラは男を肩で突きとばす。
昏倒した男が、真ん中の男、そしてさらに右端にいた男にぶつかって倒れ込んだ。
「うわっ!」
混乱する中で、左後ろから斬りかかってきた男だけが、カサンドラの動きを捉えている。男はカサンドラを追って、突きを繰り出した。
その突きを擦り上げて逸らすと、返す刀で眉間を打つ。その間に右後ろから来ていた男が、剣を振り上げて追撃しようとしてた。のを、カサンドラは一気にすり抜けながら胴を打っていた。
「ぐ……」
眉間を打たれた男と胴を打たれた男が、小さく呻いて倒れ込む。
味方をぶつけられた二人が、ようやく体勢を取り戻し襲い掛かってくるが、カサンドラは相手が斬りかかるその『出ばな』を捉え、逆に二人に打ちこんだ。
一瞬にして一度に襲い掛かった五人が倒されるのを見て、残りの者が色を失った。
「お…おい……」
「なんだ、こいつは――強すぎるだろ…」
「うろたえるな! 相手は女二人だぞ!」
小隊長らしき風貌の男の声に、警備役の男たちは一斉に剣を構えた。
エリナが腰に手を当て、不敵な笑みを浮かべる。
「まさにモテ期到来ね!」
「お前は本当に呆れた奴だ」
カサンドラが苦笑する。
しかしその後に襲い掛かってきた男たちは、凄まじい動きを見せる二人に、なす術もなく倒された。二十一人の警備役が、地面に倒れている。
「いやあ、カサンドラ、鬼のように強いな! 十五人はカサンドラにやられた」
「……鬼ってなんだ?」
エリナのあげた声に、カサンドラは首を傾げる。
思わずエリナは吹き出した。
「そこかあ! まあ、悪神のように強いって意味だよ」
「……あまり褒められた気がしない」
そう言いながら、カサンドラは城の扉を開いた。
すぐに大広間がある。そこに、二人の男がいた。
坊主頭のゴードンと、端正な顔に悲痛な表情を浮かべたケリーであった。
「ゴードン――それにケリー……」
苦渋の表情を浮かべたケリーが、カサンドラを見て口を開く。
「カサンドラ……頼むから、此処から引き返してくれ――今なら、まだ間に合う」
カサンドラはケリーを睨んだ。と、横のエリナが声をあげる。
「奥にヒモグラーの気配がする――しかも、相当の数よ」
「……ケリー、自分のやってることが判っているのか?」
エリナの言葉を聞き、カサンドラはケリーに話しかけた。
ケリーが顔を歪める。
「奥にいる奴らは犯罪者で、今も帝都の各地に放火した奴らだ。そんな奴らを隠すために――お前は戦うつもりか?」
「……これしか…道はないんだ」
ケリーが絞り出すような声を出す。カサンドラは息をついた。
その様子に、ゴードンがせせら笑うように声をあげた。
「お前たちは公爵家に無理に押し入った賊だ。うっかり殺されても、文句の言えぬ立場だぞ」
ゴードンはそう言うと、その手に得物を出した。それは三又の槍であった。
「今更、引き返そうとしてももう遅い。お前たちは、この如意槍グランドスターの餌食にしてやる!」
そう言うなり、ゴードンの槍がいきなり伸びた。伸びた切先が、エリナの喉元を狙う。エリナは小太刀で、その不意打ちを弾いた。
「ちょっと! 危ないな、いきなり!」
「小娘が――パーティー会場での恥を、お前にお返ししてやる!」
「まだ根に持ってるの? やだしつこい、気持ちワル」
「なんだとおっ!」
激昂したゴードンが槍を持って襲い掛かる。
凄まじい槍の連即攻撃を、エリナはかろうじて逃げて躱した。
その勢いに、エリナはカサンドラの陰に隠れる。
「ちょっと! あのオッサン、強いんだけど!」
「歪んではいるが、元獅子王戦騎団の一人だ。……私が相手になろう」
「任せた! ――というわけで、イケメン師範は私が相手だ!」
エリナはケリーを指さす。するとケリーは、ムッとした顔で口を開いた。
「舐められたものだな……剣術を始めて一ヶ月程度の女が相手とは――」
「舐めてるのは――どっちかな!」
そう言った瞬間、ケリーは横から飛んできた手裏剣を剣で叩き落とした。
が、まだ追撃がある。ケリーは横に跳んで躱すが、手裏剣は地面に着く前に急旋回し、なおもケリーに襲い掛かる。
その手裏剣を三回、四回と斬り弾くと、手裏剣はエリナの手に戻った。
ケリーが汗を垂らしながら、口にする。
「なるほど……これは舐めてかかれる相手ではない、という事だな…」
「判ってくれればいいのさ!」
エリナは眼鏡の奥から見つめながら、不敵な笑みを浮かべた。
カサンドラはゴードンと対峙している。
ゴードンが、嘲笑うように口を開いた。
「小娘が……儂に勝てるとでも思っているのか?」
「思っている――としたら、どうだ?」
カサンドラの言葉に、ゴードンがテカる頭に青筋をたてた。
「思い上がるな、小娘が!」
ゴードンが動くとともに、槍が伸びる。
向かって来る槍の切先をカサンドラが首を傾げて躱す。が、ゴードンは凄まじい連続突きを繰り出した。
しかしカサンドラは大きく動かず、立身の姿勢のままゴードンの連撃を躱した。
連撃が収まると同時に、カサンドラは口を開いた。
「まだ私が思い上がってると思うか?」
「……ほざけ!」
ゴードンが繰り出した突きを、カサンドラが瞬時に躱す。
が、その刹那、槍が急に横にしなった。
「なにっ!?」
しなった槍が、カサンドラの胴を打つ。
「ぐうっ!」
カサンドラが呻き声とともに吹っ飛ばされた。
それを気付いたエリナが、声をあげる。
「カサンドラ!」
「よそ見できる立場か!」
ケリーが隙に付け入るように斬り込んでくる。エリナは逆手の小太刀でそれを受けるが、その威力に押し込まれる。
「きゃあっ!」
自分の腕を身体に押し込まれ、エリナは後方に吹き飛ばされた。
一方、倒れてるカサンドラに向かい、ゴードンは槍をふりかざして叩きつける。
「くっ!」
カサンドラが転がって躱す。ぐん、と伸びてしなった槍が床を叩き、床に張った石畳が破壊された。その凄まじい威力に、破片が部屋中に舞い上がる。
と、床を叩いた槍が反動で戻り、蛇のような波を描いてカサンドラの方へ伸びた。
「カサンドラ!」
エリナが声を上げた時、ゴードンの槍がカサンドラの左肩を貫いていた。




