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3 白馬の王子様


 突然、現れたエリナに、背後に控えていたジュールが驚く。


「女! 貴様、何処から現れた!」


 全身に黒い鎧を身にまとい、妖しいまでに白い肌と美貌を持つジュール・ノウがエリナを睨む。

 剣の柄に手をかけるジュールに対し、レオンハルトは笑いながら言った。


「ジュール、構わん。エリナは特別だ」

「しかし陛下……」

「私は何処からも現れてません~。ずっと此処にいました~」


 挑発するように、エリナがそう口にする。と、ジュールが口惜しそうな顔をみせる。エリナは微笑んだ。


「お、ジュール様の人間っぽい表情がみれた。フフ……それはいいんですが、レオ様、同時多発でテロを仕掛けてきてます」

「どうやらそのようだな」


 エリナの言葉に、レオンハルトは頷いた。


「20ヶ所ほどか――ゴライアス!」

「は、陛下、ここに!」


 玉車の下に、ゴライアスが現れる。その後ろには白い鎧を身にまとったカサンドラもいた。


「ゴライアス、帝都警護隊を帝城の消火と救助にあたらせよ。――リベリオン!」


 レオンハルトは帝都軍総司令リベリオン・クルーガーを呼びつけた。


「陛下、御前に」


 玉車の下、ゴライアスの隣にリベリオン・クルーガーが現れる。

 上背があり、がっちりとした体格のリベリオンは、黒髪をごく短くしていた。しっかりした顎と、くっきりとした眉はその意志の強さを表している。風貌の中に、物静けさと強靭さが同居しているような男だった。


「帝都軍を総動員して、消火と救助に当たらせよ。――一人の死者も出すな」

「……承知致しました」


 リベリオンはそれだけ答えると、風のように消えていく。

 そう即断した後で、レオンハルトはエリナの方を向いた。


「それはそうと――お前は、何故、姿を消して余の傍にいた?」


 レオンハルトの問いに、エリナは微笑む。


「この前、レオ様がヒモグラーを全滅させてからおとなしかったから、仕掛けてくるなら帝都祭だと思ったんです。場合によっては、陛下を直接狙って来るかと」

「では、余の事を心配してついていてくれたわけだな」

「ジュール様がついてるんで、余計な心配かとは思いましたが……。けど、相手は皇帝陛下の命ではなく、その権威を失墜させようとしてます。その巻き添えで、市民に危険が迫ってる」


 レオンハルトの傍から、眼下のカサンドラにエリナが声をあげた。


「カサンドラ! ヒモグラーの気配がする。連中――地中を集団で移動してる!」


 エリナの言葉に、レオンハルトの方が反応した。


「エリナ、判るのか?」

「あいつらとは何度も接触したので、霊の気配を知ってます。厳密にではないけど、うっすらと判る感じ。山の中に、モンスターの気配を探るのと同じ感覚ですね」


 カサンドラは眼下から声を上げた。


「エリナ、追おう! ――おい、馬を貸してくれ!」


 カサンドラは玉車を先導していた警護隊から、白馬を借りて飛び乗った。


「エリナ!」

「判った! ――それじゃあ、レオ様、行ってきます!」


 そう言うとエリナは空中へ飛んだ。宙でひらりと身体を回転させると、馬の背に乗る寸前で念動力で急停止する。と、ふわっとエリナは馬の背に乗った。


「おじ様、一味を探します! ――後から、追いかけてくれ!」


 そう声をあげると、カサンドラは馬を走らせた。

 馬は群衆の中の隙間を縫って走る。相当の馬術であった。


「カサンドラ、馬術も凄いな!」

「幼い頃、馬に乗るのが大好きだったからな――どっちだ、エリナ?」

「右に曲がって!」


 白馬は大通りから脇道へ入り、通りを疾走する。

 その白馬の上で、カサンドラの背中からエリナはしっかりと腕を回していた。


「フフフ……」

「なんだ、こんな時に」


 カサンドラは手綱を操りながら、訝し気な顔をする。

 エリナは堪えきれない、というように笑いを洩らした。


「いや、白馬の王子様は――美乳の美女だったかあ…とか思ってだな!」

「なにを、くだらない事を」


 カサンドラは苦笑する。と、不意にエリナの手がギュッとカサンドラの身体を抱きしめた。


「お、おい……何を――」

「カサンドラ、聞いてほしい事があるんだ……」


 エリナはそう言うと、カサンドラの耳元まで唇を近づけて、少しの間、囁いた。

 それを聞いたカサンドラが、驚きに眼を見開く。


「お前……本気なのか?」

「うん……」

「そうか――判った…」


 カサンドラは神妙な顔をすると、手綱をパン、と捌いた。


「飛ばすぞ、エリナ。……しっかり、捕まれよ!」

「うん――」


 そう言うと、エリナはカサンドラの背中に頬を寄せるように抱きついた。


 やがて馬はケイムの郊外へと出ていく。

 都市の風景から田舎風に景色に変わっていき、やがて馬は一つの場所へたどり着いた。


「此処か? エリナ」


 エリナは頷く。それへは城壁に囲まれた城の前だった。

 城としては小ぶりだが、それでも城である。城壁とともに堅固な造りが二人の前に立ちはだかった。


「やはり……ラインズ侯爵の城か」


 カサンドラが目の前の城を睨んで言った。

 ラインズ侯爵は、前の警護隊総隊長だったゴードンと懇意にしている貴族で――つまり奴隷拘束派である。


 そしてケリーの妻の実家であった。


 二人は馬を降りて、進んでいった。

 城門の前に二人の衛兵が立っている。


「止まれ! 此処は誰も通さん!」


 衛兵が声をあげた。エリナは横を向く。


「ああ、言ってるけど?」

「仕方ないな」


 カサンドラは歩を緩めることなく進んでいく。

 衛兵は持ってた槍を二人に向けた。


 が、次の瞬間、二人は口を開けて弛緩した顔をした。

 口からよだれが垂れる。


 一瞬で二人の間に移動したカサンドラが、二人を剣で気当てしていたのだった。

 衛兵が倒れる。エリナはぶ厚い門扉を見た。


「堅そうな門だね~」


 何も言わず、カサンドラは左掌を向ける。

 と、背後に現れた五つの火炎球が、門扉に突撃した。


 轟音とともに門扉が破壊される。


「あははは……カサンドラ、魔法の威力、上がったね~」

「行くぞ」


 カサンドラが門に入り、どんどんと進んでいく。

 と、その眼の前に、一斉に警備役が現れた。総勢、20人はいる。


「……元、警護隊の連中か」

「此処は、いかなる者も通さん!」


 元警護隊員が声をあげ、剣を含めた得物を構えた。

 カサンドラは視線を移さずに、口を開く。


「行くぞ、エリナ」

「了解」


 エリナは舌なめずりをする。

 その瞬間、警備役たちが襲い掛かってきた。


「やってしまえっ!」


 カサンドラは動かない。が、エリナは姿勢を低くして突進した。

 エリナの手に、小太刀が逆手と順手に現れる。


 と、急に横へ跳んだエリナが、右端の者の膝を斬っている。

 斬られた者が倒れる前に、その男を影にして、エリナは集団へ迫っていた。

 エリナの小太刀二刀が閃いた。



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