6 上級認定書
「キィィィィ……テエエェェェェィッッッ!」
気合一閃。カサンドラが斬り込む。
ガルドレッドがそれを擦り上げて逸らし、返す刀で頭部を狙う。
が、その太刀を弾いてカサンドラは間合いをとった。
一瞬の攻防であった。が、それは攻めの隙を狙う者同士が行う、一段、高い次元の攻防であった。道場の皆がそれを理解しており、息を呑んで見つめている。
カサンドラが切先を下げる。と、前に出た。
頭はがら空きである。それを打つのか――打たないのか。
道場生が見守るなか、ガルドレッドは突如、右手を外し左手一本の突きを繰り出した。いきなり間合いが伸びてくる突きを、カサンドラ下段から払いあげる。
が、その払い上げの勢いを利用し、ガルドレッドは再び両手で木剣を振りかぶった。そのまま斬り下ろされる木剣を、カサンドラは受流しながら後退する。
また間合いが生まれた。と、思われたその瞬間だった。
カサンドラが、ツ…と前に出る。
ガルドレッドが少し詰まった間合いに、木剣を振りかぶって踏み込みをみせる。
が、それはカサンドラの誘いであった。瞬間――二人は斬り込んだ。
ガルドレッドより早く、カサンドラの木剣が相手の頭上で止められている。
「……うむ。どうやら一本取られたな」
「ありがとうございました」
カサンドラは木剣を納刀の形に持ち替えると、ガルドレッドに礼をした。
わっ、と道場内が沸いた。ガルドレッドが白い口髭の下をほころばせる。
「カサンドラ、もう充分な力量だ。お前を上級剣士に認定する」
「あ……ありがとうございます!」
驚きの顔をみせた後、カサンドラは再び頭を下げた。
ガルドレッドが満足げに頷く。
「うむ。夕方、もう一度道場に来なさい。認定書を渡そう」
「はい」
カサンドラは喜びのうちに屋敷に戻った。
入浴を済ませると、午後はノウレムの屋敷へ行く。
ノウレムはカサンドラに言った。
「必要な法式は、書きこんできましたね?」
「はい、先生」
カサンドラは手首のブレスレットに嵌まる魔晶石をみせた。
「では、いきますよ」
ノウレムはそう言うと、手に持った大き目の壺をいきなり床に落とした。
床に落ちた壺は、割れて粉々になる。その破片は大きく広がった。
「では、やってみてみなさい」
「判りました、先生」
カサンドラは魔力を高めながら、左掌を破片に向けた。
「修復」
紫の魔力がカサンドラから立ちのぼり、それが破片を包む。
と、粉々に砕けた壺は、みるみる内に元の形に戻っていった。
やがて壺は完全に、元の形に戻る。その壺をノウレムが持ち上げた。
「どうやら完全に修復魔法を自分のものにしたようね。この短期間で素晴らしい成果です。カサンドラ、貴女を上級魔導士に認定します。おめでとう」
そう言って静かに微笑むノウレムに、カサンドラは深く頭を下げた。
「ありがとうございます、先生!」
ノウレムは微笑んでいたが、頭を上げたカサンドラに言った。
「貴女に卒業試験――というより、実はお願いがあるの」
「…なんでしょう?」
カサンドラは首を傾げた。
ノウレムは微笑みから、静かな表情に戻る。
「皇帝の魔法『ホール』――あれを実現したいのです。わたくしと、貴女で」
「先生と……私で?」
カサンドラは驚きに眼を見張った。
「そうです。皇帝陛下の『ホール』は、皇帝陛下の論文『時空間の16次元解析による魔導理論のスパイラル顕現法』、その他の論文を理解した上で、過大な魔法力が必要です。私は理論を理解しましたが、魔力が足りませんでした」
「ノウレム先生で――魔力が足りなかったんですか?」
カサンドラはその言葉に驚く。だが、ノウレムはこともなげに言った。
「そんなに驚くことではありません。今や単純な魔力だけなら、貴女の方が大きいでしょう。けど、貴女一人でもこの魔法を実行するのは難しい。しかしこの魔法を理解する者が二人揃えば――きっと実現できるはずです。これはわたくしの、長年の夢なの。カサンドラ、皇帝の論文を理解して、わたくしに力を貸してください」
ノウレムはそう言うと、静かに頭を下げた。カサンドラは慌てて声をあげる。
「そんな、頭をあげてください先生! 私でよければ――いえ、なんとか理解して、先生の力になれるように頑張ります!」
カサンドラの声を聞き、ノウレムは顔をあげた。
その顔には、静かな微笑みが宿っている。
「ありがとうカサンドラ……では、待ってますよ」
「はい、先生」
カサンドラはその後、上級魔導士の認定書をノウレムから受け取ると、ノウレムの屋敷を後にした。
その道すがら、カサンドラは少し息をついた。
――大変な事を約束してしまった。と思ったが、カサンドラは前を見つめた。
夕方に道場に来いと言われたので、カサンドラは道場に行く。するとガルドレッドが待っていた。
正座したガルドレッドはカサンドラに上級剣士の認定書を手渡す。それに対峙するカサンドラは、それを両手で貰った。
「ありがとうございます、おじ様。偶然ですが……先ほど、ノウレム先生から上級魔導士の認定書をいただいたばかりです」
「そうか! 素晴らしい成長だな、カサンドラ、おめでとう」
「おじ様のおかげです。ありがとうございます」
カサンドラは認定書を胸に抱くと、頭を下げた。
そのカサンドラに、ガルドレッドの重い声が響いた。
「それではカサンドラ、これからお前に儂の奥義をみせる」
「え? 奥義――?」
驚きの中、カサンドラは声をあげた。
二人は木剣を持って、静かな道場で向かいあう。
「では、見てなさい」
そう言うと、ガルドレッドはいきなり爆発的な呼気をあげた。
「ハアアァァァァァァァ――」
ガルドレッドの身体を気力が覆う。が、気力はガルドレッドの身体に収まらず、その周辺へと広がっていく。
「こ……これは……?」
そのとてつもない気力の広がりに、カサンドラは絶句した。
「では打ってきなさい。気力、そして魔力も使っても構わない」
「判りました、先生」
カサンドラは気力を最大限に高める。が、さらにそこに魔力を加えた。
「ハァッ!」
紅蓮の炎がカサンドラの全身を包んだ。ノウレムのところで鍛えられた魔力の高さは、凄まじいものである。カサンドラは剣を振りかぶると、ガルドレッドに突進した。
「イアァァッ!」
炎をまとった木剣を振り下ろそうとした瞬間、何かが身体、足、腕にぶつかった。それ以上前に進めずにカサンドラは立ち止まる。――何かがカサンドラの前進を阻んでいる。
「これは――気力?」
カサンドラは少し後退し、その前進を阻む壁自体に斬りつけた。
が、気力魔力の双方をぶつけた一撃でも、その見えない壁を破れない。
――いや。カサンドラはそこで諦めなかった。
「ハアアアアアア………」
そのまま気力と魔力を高めて、壁を押し切る。その見えない壁を破り、カサンドラの木剣が入り込んだ瞬間だった。
「ぐぅっ!」
ガルドレッドの繰り出した突きが、カサンドラの胸を捉えた。
カサンドラの身体が飛ばされ、カサンドラは後退して踏みとどまる。
と、ガルドレッドの気力が消えた。カサンドラは呆然として、口を開く。
「おじ様……今のは?」
「これは気功域――お前の父、バリー・レグナ編み出した技だ」
思いがけない言葉に、カサンドラは言葉を失った。




