表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

192/239

第三十三話 揺れる心  1 舞踏会のカサンドラ


 カサンドラは紅い髪を上方へまとめあげ、肩から胸元まで露わな純白のドレスを身に着けている。肘まである白い手袋をつけ、紅いヒールを履いていた。


 それに対しエリナは青のドレスを身に着けていた。ピッタリとした素材で手首まで袖があり、胸元にはレースがしつらえている。ヒールは白を選んでおり、眼鏡は外していた。


「おお、二人とも美しいではないか! では、行こうか」


 ガルドレッドは二人の美女に相好を崩すと、馬車で王宮へと向かった。

 馬車の中でエリナが口を開く。


「この視力矯正魔法って便利だな。ナターシャさんにかけてもらったんだが、眼鏡なしでもよく見える」

「ナターシャは優れた生活魔法の使い手でもあるからな」


 紅い唇をしたカサンドラが微笑した。


 二人を左右に連れたガルドレッドが、パーティー会場に入る。

 と、会場からどよめきが起きた。


「おい、誰だ? あの美女たちは?」

「一人は――カサンドラ・レグナじゃないのか? 確か帝都に戻ってきているという話だ」

「もう一人は?」

「判らん。……が相当の美女だな」


 場内を通り過ぎる中で、視線が三人に集中する。

 ガルドレッドは笑みを浮かべた。


「ハッハッハ! これで儂は一番の注目株だ」

「――おお、ガルドレッド将軍! これはまた大変な美女を連れてきましたな」


 ガルドレッドに話しかけてきたのは、熊耳の巨漢の男だった。

 フォーマルな衣装を身に着けていはいたが、一目で判る戦士の風貌だった。


「ゴライアス将軍、これは儂の娘みたいなもののカサンドラ。そしてその友人のエリナさんだ」


 カサンドラは静かに一礼する。エリナはにっこりと微笑してみせた。


「ほう、エリナさんはどちらからおいでかな?」

「ちょっと異世界から」


 エリナは微笑したまま、そう答えた。

 ゴライアスの表情が固まる。


「ほっほっほ、エリナさんは冗談もお上手とみえる。どうでしょう、この熊相手に一曲お相手願えるかな?」

「喜んで」


 エリナは微笑して一礼すると、手を差し出した。

 その手をゴライアスがとり、二人はホールの真ん中の方へ行き踊り始める。


 多少、ぎこちなさはあったが、エリナはカサンドラとの猛特訓のおかげで、なんとかステップを踏んでいた。


 その様子を遠くから眺めていたカサンドラとガルドレッドの元に、一人の男が現れる。


「なかなかの美姫――と思いきや、まさかの元隊長ではありませんか」


 声をかけたのは、頭が完全なスキンヘッドの壮年男性である。

 その姿を見た時、ガルドレッドとカサンドラの表情が、一瞬、強張った。


「ゴードン総隊長……盗賊の捜索に忙しい中、よくお越しで」

「いやなに、大したことありませんよ」


 ガルドレッドの軽い皮肉に、ゴードンは薄笑いを浮かべて答える。

 その笑いは何故か爬虫類を思わせた。


「……ご無沙汰しております」


 カサンドラが目を伏せて一礼すると、ゴードンはいやらしい笑みのまま言った。


「カサンドラ殿は、軍隊を辞めたので結婚相手でもお探しかな? なんなら儂が紹介してもいいが」

「…結構です」


 カサンドラはそう言うと、少しゴードンを睨む。

 それだけ言うとその場を離れ、カサンドラは近寄ってきたウェイターの盆から白ワインのグラスをとった。

 それをテーブルの傍であおる。


「……一番、会いたくない男に――」


 カサンドラは小さく呟いた。


「――君が来てるとは思わなかったな」


後ろからかけられた声に、カサンドラは振り返る。


「……ケリー…来てたのか」


 それはフォーマルな衣装を自然に着こなしたケリーだった。

 その端正な顔に、ケリーは微笑を浮かべる。


「そんな姿の君を見るのは――初めてだね」

「そう…だろうな」


 少し頬を染めて、カサンドラは横を向いた。


「一曲、お相手できないかな?」

「……承りました」


 カサンドラは静かに目を伏せると、白い手袋の手を差し出す。

 ケリーがそれを手に取ると、ホールの中へ進んでいく。二人は踊り出した。


 手をつないだ二人は、しばらく黙ったまま踊っていた。

 音楽の奏でるなか、二人の傍を光の粒子が流れていく。それは二人の視界に入りきらない、周囲の煌めきだった。


 カサンドラはケリーを見上げた。

 ケリーの金髪が微かに揺れる。その碧眼は、カサンドラを見つめていた。


 何度目かのターンを待った時、ケリーが口を開いた。


「君の隊が全滅したと聞いた時――心配したんだ」

「そう…ですか」

「いてもたってもいられないくらいにね……。自分でも驚いたよ」


 ケリーが苦笑してみせる。


「仕事も家も投げ出して、すぐにオーレムへ行こうかと思ったくらいだった……。まあ、君は無事だという続報を聞いて思いとどまったのだけどね」


 カサンドラはステップを踏みながら、口を開いた。


「家を投げ出すなんて――よくないことです」

「そうだね…。もし実行していたら、僕は破滅していただろう」


 ケリーは目を伏せて笑みを洩らす。


「その後、帝都に戻ってきた君を遠くから見た。……遺族に謝罪をしていく中で、張り詰めた顔の君に声をかけることはできなかった」


 不意に音楽に合わせて、ケリーがカサンドラの身体を倒す。

 ぐっとのけぞるカサンドラに、ケリーは囁いた。


「君に対する後ろめたさが……ずっとあったのかもしれない」


 カサンドラは倒れた身体のまま、横を向く。


「お気になさらないでください――昔のことですから…」


 カサンドラは身体を起こし、片手だけつないでターンを舞う。

 それを引き戻し、ケリーは後ろからカサンドラを抱くような姿勢で、カサンドラの耳元で囁く。


「けど昔より…君は綺麗になった。……眩しいくらいだ」


 カサンドラはその手からするりと抜けると、元の距離に戻った。


「貴方は少し――剣をおろそかにしてたのではないですか?」

「フフ……手厳しいな」


 ケリーは苦笑した。

 ふと、音楽がスローペースのものに変わる。


 二人は距離を縮めて、互いの肩を抱き合うように踊り始めた。

 カサンドラの顔の横に、ケリーの顔がある。互いの顔は見えない。


「家には……僕の居場所はないんだ」


 表情の判らないケリーが、耳元で囁いた。


「妻は実家にべったりで――息子を僕に関わらせないようにしてる」

「……どうしてそんなことを?」


 ゆっくりとステップを踏みながら、カサンドラは口にした。


「判らない。ただ…最初からあの家には、僕の居場所はなかったんだ。結婚した当初からね。あの家は優秀な跡継ぎが欲しかっただけで、婿や夫は必要じゃなかったんだよ――」


 ケリーは自嘲気味に苦笑の息を洩らした。

 と、不意に顔の見える位置に動いたケリーが、カサンドラを見つめた。


「僕は恐らく――選択を間違えたのだろうね」

「私には……選択肢はありませんでしたけど」


 カサンドラはそう言うと、静かに笑った。

 そしてカサンドラは、そっとケリーの手を放して後ろへ下がる。


「楽しかったですわ、グレイス師範。また…道場でお会いしましょう」

「カサンドラ……」


 切なげな顔をするケリーに向かい、カサンドラは片手で弧を描いて一礼をした


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ