6 立ち合いを所望だ!
エリナはにっと笑うと、コニーに言った。
「それじゃあ、コニーくん、気力アリの立ち合いを所望だ!」
「いいですけど……なんでそんな言葉使いに?」
「ちょっと、気分が盛り上がるだろう?」
エリナは微笑すると、剣を構えた。
それに応じるように、コニーも剣を構える。
「参る!」
エリナが掛け声とともに発力する。
その急接近が想像以上の速さで、コニーは動揺した。
「――速い!」
エリナが仕掛ける。
袈裟に斬るとみせかけて、一気に下段から切り上げの太刀。
コニーがかろうじて、間合いをとって躱す。
が、足から発力するエリナの速度がそれに追いつく。
「ハッ!」
気合とともにエリナが突きを繰り出す。コニーがその軌道をなんとか逸らす。
と、その突きを逸らした木剣を、そのまま攻撃に転じた。
「この距離なら!」
躱せない――という言外の言葉が出る前に、コニーの顔に驚きが浮かんだ。
エリナの姿が眼の前にない。
「横!?」
エリナは発力して、一気に横に跳んでいた。
その跳んだ先で踏み込み、反転して抜き胴を放ってくる。
コニーはそれを木剣を立てて防ぐが、エリナはすり抜けた直後に旋風のように身体を翻した。
コニーが後ろからの攻撃に備えようと振り返る――より先に、身を翻したエリナは左手一本で木剣を振っていた。
コニーのこめかみを、エリナの木剣の切先がとらえようとする。
「あ……」
防げない、とコニーが思った瞬間だった。
カン、と木剣の乾いた音がする。
「――それまで!」
エリナの木剣を、ケリーの木剣が防いでいた。
あと少しでこめかみを襲う一撃に、コニーは冷や汗を垂らす。
ケリーは姿勢を戻しながら、エリナに言った。
「エリナさん、貴女は片手で木剣を止める技をまだ持ってないでしょう?」
「あ」
「木剣とはいえ、直撃したら命にかかわる怪我になるところでしたよ」
やんわりとしたケリーの戒めに、エリナは少ししょげてみせた。
「ごめんなさい。ホント、ゴメンねコニーくん」
エリナは両手を合わせて、コニーに謝る。
「謝られてもなあ……僕、ちょっとショックですよ。もう、エリナさんに一本とられるなんて」
コニーはしょげた様子で、そうぼやいた。
それをよそに、ケリーはガルドレッドの方を振り返る。
「先生、エリナさんはもう一般の稽古に混ざれると思いますが」
「うむ……そのようだな。エリナさん、これからは他の門下生と一緒に稽古するといい」
ガルドレッドの言葉に、エリナは笑みを浮かべた。
「はい、判りました!」
エリナはそう返事をすると、道場で別の門下生に稽古をつけているカサンドラに眼をやった。
「――うむ。右からの斬りつけはいいが、左から斬りつけた時に、姿勢が崩れる癖がある。姿勢が崩れた攻撃は、それが防がれた時に次の動きがとれない。相手を斬ろうと急く気持ちを抑え、姿勢を崩さずに戦うことだ」
「はい、カサンドラ師範!」
教えを受けた門下生が、真面目な顔で返事をする。
カサンドラとの稽古は、門下生一人一人の特徴を見極め、伸ばす点と直す点と的確に教えるため、一週間ですっかり人気を集めた。今も、カサンドラとの稽古を待つ門下生が行列を作っている。
「ふ~む、私もカサンドラに稽古をつけてもらうかな……」
「次は僕が稽古をつけてもらう番ですよ! 僕も、稽古に混ざりたかったんですから!」
コニーもそう声をあげると、カサンドラの前に並ぶ。
エリナは笑みを浮かべた。
*
カサンドラはノウレムの屋敷の庭で、魔法の練習をしている。
「火炎球!」
火炎球が一つ。渦を巻く火炎球を力場魔法が包み込む。
「……あと二つ…」
カサンドラは魔力を高めた。
「三連火炎球!」
カサンドラは一気に、残り二つの火炎球を発現させる。
その業火は力場魔法の障壁の中で、渦を巻いていた。
「できた……三つ――」
「――とりあえずの課題はクリアしたようですね」
カサンドラは背後から届いた声に振り返る。
そこには近づいてくるノウレムがいた。
「残り二つを作るのは、基礎魔力を高めればすぐにクリアできるはずです。これは多分、もう一週間あれば克服できるでしょう」
そう言って微笑むノウレムに、カサンドラは眼を輝かせた。
「ノウレム先生!」
「よく頑張りましたね、カサンドラ。けど、まだ道の先はあるわ。決して、これで奢らないこと」
「はい、ノウレム先生」
神妙な顔をして返事をしたカサンドラに、ノウレムは微笑とともに頷いた。
「今日はこれから用事があるので、授業は終わりにします。たまには、午後をゆっくり過ごしなさい」
「はい、判りました」
カサンドラはノウレムの屋敷を後にすると、ガルドレッドの屋敷へと戻ってきた。
と、裏庭に気配を感じ、カサンドラは廻り込む。
「――ハッ!」
短い声をあげると、エリナはダッシュをする。
すぐに方向転換し、またその先で蹴り足を使って方向を変える。その全てに足からの発力を用いて、その速さはかなりのものだった。
エリナの一人練習を見ていたカサンドラに気付くと、エリナは足を止めた。
「なんだ、カサンドラ。今日は早いじゃないか」
「ノウレム先生が用事だったんで、早く終わったんだ。――やっぱり、一人練習してたんだな」
カサンドラの言葉に、エリナは眼鏡を外して汗を拭きながら、微笑を浮かべる。
「……すぐ傍で、誰からの教えもなく、一人で黙々と練習して強くなった少年を見てきたんでね」
「クオンか――なるほど」
カサンドラは目を伏せると、息をついて笑みを浮かべた。
*
「――舞踏会。ですか?」
夕食を取りながら、カサンドラは声を上げた。
ガルドレッドが相好を崩して、カサンドラに言う。
「そうだ。明日の晩、王宮で舞踏会が催されることになった。エリナさんも、是非、出ていただけませんかな?」
「え。私みたいな部外者が出ていんですか?」
「もちろん、もちろん。儂も美女を二人連れていけば、ちょっと周りに鼻が高いというものです」
ガルドレッドの言葉を聞いて、エリナはカサンドラの方を向く。
「カサンドラ、一緒におめかしして行こうよ! 私、そんな舞踏会なんて初めてだ」
「まったく……物見遊山だな」
カサンドラは苦笑した。と、エリナは気が付いた。
「あ、けど、私踊れないんだった! カサンドラ、明日の晩までに特訓だ!」
「……お前、踊るつもりなのか?」
「当然だろう! 舞踏会なんだから。これでなんか、凄い美形の騎士とかと出会いがあるかもしれない! まあ、少しくらいヘタな方が可愛げがあるとしよう!」
エリナの意気込みに、カサンドラは苦笑するばかりだった。




