5 五連火炎球
休憩を終えたカサンドラは、ノウレムと庭に出ていた。
「それでは実技の訓練を始めるわね」
「お願いします、ノウレム先生」
カサンドラが一礼すると、ノウレムが口を開いた。
「まずは火炎放射」
ノウレムが右掌を前に向ける。右手首につけられたブレスレットの、緑の魔晶石が光ると、掌の先から業火が放たれた。
「凄い……」
ごく簡単な魔法ではあるが、そのシンプルさゆえに使い手の魔力量が判る。
ノウレムの魔力量は相当に高いものだった。
「このままでいるより、これを収束させた方が威力が上がります」
そう言うとノウレムは火炎放射に回転を加えた。
火炎は渦を巻きながら放射される。
「どうしてだが判りますか?」
「普通の放射では、拡散する炎があるため?」
「そうです。渦を巻くことによって、拡散を防ぎ標的に威力を収束します」
そう言うと火炎放射は消え、今度は掌を上に向ける。
と、その掌の上に、顔より大きいサイズの火の玉が現れた。
「火炎球。これも同じ事です。これも渦を巻かせます」
火炎球がその大きさのまま、渦巻く炎になった。
「見た目は同じ大きさですが、威力は全く変わっています。けどその分、制御は難しくなっている。けど、魔力を極端に消費してるわけではありません。火炎球一つでも、作り方に少し工夫を加えるだけで大きさがほぼ同じなのに、威力に雲泥の差が出ることになります。まずはこれをやってみなさい」
「はい」
カサンドラは左掌を上に向けた。左手首につけた銀のブレスレットの紅い魔晶石が光る。
最初に火炎球、そしてそれに渦を巻かせる。
「できたようね。ではそれを力場魔法の障壁で包みなさい。このように」
ノウレムの火炎球が、見えない障壁によって包まれる。
「そしてその障壁の中で、火炎に最大の奔流を起こすのです」
そう言った途端、ノウレムの火炎球に変化が起きた。
火炎が凄まじい勢いでうねりを上げて渦を巻く。渦は一方向ではなく、瞬間瞬間でその姿を変え、その勢いは障壁がなければ辺りを焼き尽くすほどの勢いだった。
「……凄いです…」
その火炎球は直径1mくらいの大きさで、ノウレムの掌の上空に浮かんでいる。
その内部の奔流の凄まじさに、カサンドラは息を呑んだ。
「二種類の魔法を同時に使い、一つはそれを爆発させるように、もう一つはその威力を封じ込めるように。そういう相反する作用を、一度に操作するのです」
「判りました」
カサンドラは火炎球を力場魔法で包もうとする。
が、力場魔法の封じる力が強く、火炎が弱まる。カサンドラは声をあげた。
「……難しいです、ノウレム先生」
「でしょうね。これはただ、闇雲に威力の高い魔法を出そうとしてもできるものではありません」
ノウレムに言われ、カサンドラは自分が黒炎のガントレットを使っていた時、そのガントレットの黒炎の威力をただ使用していたことに気付かされた。
「ただし、これができるようになれば、火炎球の威力は向上します」
ノウレムはそう言うと、庭先にある大岩に火炎球を投げた。
その火炎球は岩にぶつかり、凄まじい爆発を起こす。
「――っ!」
その爆風に紅い髪を揺らしながら、カサンドラはその威力の凄まじさに驚愕していた。
「ただの火炎球が――こんな威力に……?」
「そうです。そして貴女には、最終的にこれを同時に五個出せるようになってもらいます。このように!」
ノウレムはそう言うと、右手を頭上に掲げた。
と、その上空に五つの火炎球が一瞬にして発現する。
その一つ一つが、力場に包まれた業火の火炎球だった。
「こ――こんな事が! こんな事が……できますか…?」
カサンドラは驚きのあまり眼を見開いていた。
ノウレムはなんでもないように、火炎球を消す。
「できなければ、それまでです。そうですね……これを一週間で三個、二週間で五個発現できるようになりなさい。当然ですが、火炎魔法と力場魔法の法式も書き替えて工夫する必要があります。それで判らないところや、行き詰まりがあったらおいでなさい。答えは教えないけど、ヒントはあげましょう」
ノウレムはそう言うと、静かに微笑んだ。
カサンドラは唾を呑み込むと、ノウレムに言った。
「判りました、ノウレム先生。やってみます」
「頑張ってくださいね」
ノウレムは凛とした立ち姿で、カサンドラに言った。
* * *
カサンドラは湯に浸かると、思わずため息を洩らした。
「どうしたんだい、カサンドラ? ため息なんかついちゃって~。魔法修行、そんなに疲れたのかい?」
一緒に入浴しているエリナが、傍に寄ってきて訊ねる。
カサンドラは苦笑すると、それに答えた。
「いや、課題の大きさと難しさに、ふと先が思いやられてな……」
「ふ~ん。どんな事をやったわけ?」
カサンドラは、その課題の話をしてみせた。
と、エリナは首を傾げる。
「あれ? なんか近い事、前に聞いた気が――。あ、そうだ! 前に家の緩衝材を作る時に、キャルちゃんが似たような方法で枯れ葉を乾燥させたって言ってたぞ」
「え? そうなのか?」
カサンドラは驚いた。
「うん。力場魔法で包んでから、中で熱風を起こして渦を起こす――確か、そんな方法だったはずだ」
カサンドラは、もう一つ深いため息をついた。
「やっぱり……凄いなキャルは――。あの子には魔法の才能がある。自力でそんな事を思いつくなんて……」
「まあ、確かにね。そもそも魔力が村で一番高かったから、なんか巫女みたいのに選ばれたって話だったし」
「ふむ……キャルをノウレム先生に会わせてみたいな。きっと凄い魔導士になるぞ」
カサンドラは微笑みを洩らしながら、そう口にした。
エリナはその傍まで寄ってきて、カサンドラに言う。
「けど、君だってその先生に認められて授業を受けてるんだ。凄い魔導士かつ、凄い剣士になるんだろう?」
「……そうだな」
カサンドラは、エリナに微笑んでみせた。
「なりたいな……目指す自分に――」
カサンドラは上を見上げた。ふと、自分の口から笑みが洩れていることに気付く。
と、傍にエリナが寄ってきていた。
「なんて可愛いんだ、カサンドラ! ギュッとしてやろう!」
「やめろ、おい!」
エリナとカサンドラは、また性懲りもなく風呂場でバシャバシャと暴れていた。
*
エリナとカサンドラが帝都に来て、一週間が経とうとしていた。
エリナはコニーを相手に、気力を使わない素剣の立ち合いをしている。
エリナの打ち込みをコニーが止めた。
そこから押し込む力はなく、逆にコニーが押し込んでくる。
エリナはそれを後退していなし、不意に横に躱すと、つんのめりそうになるコニーの肩を狙った。
「てぃっ!」
「むっ――」
コニーがその一撃を受ける。が、そこからエリナは連続で攻撃をしかけた。
「ていていていていっ!」
「うぉっと――」
その連続撃をコニーが全て受けきる。と、二人は切り結んだ状態で、間近に迫った。その顔が至近距離まで近づいたところで、二人は飛び退いて間合いをとる。
「エリナさん、かなり使うようになりましたね。凄い上達です」
「けど、まだ君から一本もとれないな」
「そう簡単にとられちゃあ、僕の立場がありませんよ」
コニーが苦笑してみせた。




