3 取り立て人の正体
現れた取り立て人の男は、エリナを見るとギョッとした顔をした。
「お前――なんで、此処にいる!?」
「あなたたちがまた性懲りもなく来そうだったからね」
エリナが笑みを含んで言うと、男は怒鳴った。
「いいか! そいつは俺たちに借金があるんだ! それを取りたてるのは、正当な権利だからな!」
「借金? どこにあるのさ、そんなもの?」
「事務所に戻れば――そいつの借用書がある!」
エリナは眼鏡の奥の眼で、男を見つめた。
「へ~……じゃあ、見せてもらおうじゃないの、借用書」
悪戯っぽく笑う瞳に、男は気づいた。
「あ! お前だな! うちのアジトから借用書を盗みやがったのは!」
「さ~て、なんのことだか?」
エリナはすっとぼけてみせる。
男は激怒の表情を浮かべると、口を開いた。
「てめぇ……昨日は止められたけど――今日はもう容赦しねえからな」
そう言った途端に、男の顔が醜く歪みだす。
やがてその身体が膨れ上がり、男はヒモグラーに変異した。
「きゃあっ!!」
「な、なんだ、この化物は!」
グビル氏と娘が、突如現れた奇怪な怪物に悲鳴をあげる。
エリナは少し後ろを見て声をあげた。
「家に入っていてください! 大丈夫、心配しないで」
エリナは微笑してみせる。親子は慌てて家の中へ駆け込んでいった。
その間にも、クロイドが声をあげる。
「エリナ、こいつ昨日、伯爵家で見た奴らじゃないか!」
「そういう事。さあ、これからが君の出番だ!」
「マジかよ――」
クロイドは渋い顔をしながらも、剣を抜いた。
「てめえら……ブッ殺してやる!」
ヒモグラーが巨大な爪で襲い掛かってくる。
クロイドはそれを受け流すと、返す刀で斬りつけた。
「ギィッ!」
ヒモグラーは呻くが、少しするとその傷が回復していく。
「う~ん、やはり厄介だねえ」
「おい! そんな余裕かましてる場合なのかよ!」
考えてる体のエリナに、クロイドが怒鳴る。
エリナは微笑して見せた。
「じゃあ、仕方ない。私もやるか」
エリナはバッと両手を胸の前で交差した。
その両手の指には、手裏剣が挟まれている。
その手裏剣が回転しながら飛んでいく。
手裏剣は弧を描くと、ヒモグラーの顔に向かって飛んでいった。
「ギギィッ!」
ヒモグラーが爪で手裏剣をはたき落とす。が、第二段が既に逆側から襲い掛かっており、三枚の手裏剣がヒモグラーの顔に突き刺さった。
「ギギィーッッ!!」
ヒモグラーが悲鳴をあげる。が、その隙を狙って、二枚の手裏剣がヒモグラーの足元を狙っていた。
「クロイド、気を貯めて!」
エリナの声に、クロイドは剣を構えて気を高める。
と、手裏剣がヒモグラーのアキレス腱を斬り裂いた。
「今だ! 当気で倒して!」
「任せろ!」
最大に気を高めたクロイドの剣が、ヒモグラーを襲う。
足元のバランスを崩したヒモグラーは、防御をできない。
思い切りクロイドの剣が炸裂すると、ヒモグラーはたまらずに地面に倒れ込んだ。
気力の当てによって昏倒したヒモグラーが、元の男の姿に戻る。
「よし、じゃあ仕上げだ!」
エリナは収納珠から鎖を取り出した。
それを念力で操ると、男の手と足をしっかりと鎖で拘束してしまった。
「これで一丁上がりだ。ご苦労さん、クロイド」
エリナがクロイドに微笑してみせると、クロイドは神妙な顔でエリナを見た。
「エリナって……実戦経験が豊富なのか?」
「まあね。色々と戦ってるんだよ、これでも」
エリナはにっと笑ってみせる。
「けどねえ、私はかく乱は得意だけど決定力に欠けるんだよ。今日はクロイドがいて助かった」
「そ……それなら…よかったけどよ…」
エリナの微笑みをみて、少し赤くなりながらクロイドが呟いた。
と、その時、エリナの脳裏にアルデからのリンクが届く。
“エリナさん、取り立て人と遭遇しました! 昨夜会ったヒモグラの化物に変異してます!”
“判った、クロイドとすぐ行く。場所は?”
“サウザン通りの24番地です”
エリナはそれだけ聞くと、クロイドに向かって声をあげた。
「クロイド! コニーくんとアルデちゃんもヒモグラーと遭遇してる。サウザン通りの24番地だ!」
「判った! 俺は先に行く!」
クロイドはそう言うと気力を高めて、一気にダッシュした。
あっという間にクロイドの姿が見えなくなる。
「あれが気力による発力走法か……学ばないとな~。ていうか、どっち行ったらいいんだ? クロイド~」
エリナは情けない声をあげながら、走り出した。
やがて迷ったりしながらもエリナが現地に着いた時、既に戦闘は終わっていた。
男が倒れて、クロイドがその喉元に剣を突き付けている。
「お~、もう終わっていたか。やっぱり君たちは優秀だなあ」
「けど、すぐに回復するから、手が付けられないぜ」
エリナの声にクロイドが応える。
エリナは再び鎖を出すと、男の手足を拘束した。
傍では、座り込んだコニーの傍に、アルデがしゃがみこんでいる。
「――コニー、大丈夫?」
「大丈夫だよ、これくらい」
「いいから見せて」
アルデがコニーの服を肩までまくりあげ、傷をみている。
そこには、ヒモグラーの爪痕と思しき傷跡があった。
「結構、深い傷じゃない! すぐ治癒するから」
アルデはそう言うと、コニーの傷に治癒術を施し始めた。
「いててて……」
「ちょっと我慢して」
その様子を見ていたエリナは、コニーに向かって笑いかけた。
「コニーくんには、私よりアルデちゃんの治癒の方がきくだろう」
「なな、何をいってるんですか!」
コニーが赤くなって声をあげる。
それを無視して、エリナはアルデに訊いた。
「アルデちゃんの方は、怪我ない?」
「あ、はい。あたしは……コニーが庇って戦ってくれたんで」
ちょっと微妙な表情をしながら、アルデは答えた。
エリナはちょっと、それを見つつ、また笑顔に戻す。
「じゃあ、コニーくんは名誉の負傷というわけだな。じゃあ、残りは大丈夫だから、コニーくんとアルデちゃんは、もう帰ってゆっくりして。ありがとう、本当に助かった」
頭を下げたエリナに対し、アルデが口を開く。
「いえ、あたしの方こそ、ありがとうございました。こんなに街の人が困ったことになってるなんて……知らなかったです。とても勉強になったし、自分のやりたい事の意味が――少し見えた気がしました」
アルデの真面目な顔を、エリナは見つめていたが、やがて言った。
「……アルデちゃん、ギュウッってしていい?」
「それはやめてください」
アルデは困ったように少し赤くなって、エリナにそう返した。




