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2 エリナと門下生たち


「それじゃ、私はノウレム先生の処に行ってくる」


 そう言ってカサンドラは出ていった。残されたエリナは、ちょっと考える。


「私はそうだな……ちょっと、道場へ行ってみるか」


 エリナが道場に行くと、稽古終わりの門下生たちが帰路につこうとしている。その中から、エリナはコニーを見つけて呼び止めた。


「おおい、コニーくん!」

「あ、エリナさん――昨夜はご苦労様でした」


 コニーが少し苦笑気味に挨拶する。


「昨夜、あんな事があったのに、稽古に出たのかい? 凄いね」

「いや……なんか日課になってるから、出ないと気持ち悪いだけです」


 コニーはちょっとテレながら、そう答える。

 そこでエリナは言った。


「ところでコニーくん、ちょっと手を貸してほしいことがあるんだが」

「手を貸す? なんですか?」

「ちょっと手伝ってほしいんだ――あ、アルデちゃん!」


 エリナは帰路につこうとしていたアルデを見ると、手を振って声をかけた。

 傍のコニーが驚いた顔で、目を丸くしている。


 やってきたアルデに、エリナは笑顔をみせた。


「昨夜はアルデちゃんもご苦労様。ところで、ちょっと助けてほしいことがあるんだ。コニーくんだけじゃ人手が足らなくてね」

「あたしでよければ……それで、なんでしょう?」


 黒髪をポニーテールにしたアルデが、凛とした眼をエリナに向ける。


「うん。そうだな……もう一人くらい――お、いいのがいた。おおい、クロイドくん!」


 呼びかけられたクロイドが、怪訝な顔をしてやってくる。


「あんたは……カサンドラ師範と一緒にいた――」

「エリナ・ロイだよ。ちょっと手伝ってほしいことがあるんだ」


 エリナの笑顔に対し、クロイドは仏頂面で応えた。


「なんでオレが? ……こいつらと?」


 クロイドは不機嫌そうに、コニーとアルデを見る。

 と、エリナは声をあげた。


「あ~、先輩がそういう態度だとがっかりだな~。戦いの究極は心理戦。つまり人の心を読むってことだ。人の気持ちを汲み取ることができない人は、強くなれないってことだよ。真面目なコニーくんとアルデちゃんは、ちゃんと気持ちを汲み取ってくれたのにな~」


「な……なんだよ…」

「昨夜、呼ばれたメンバーは先生から期待され信頼されてる人たちだと思ったのに。危険性は判ってるけど、それを承知で人を助けることに身を投げうてる正義心の強い門下生を集めたとばかり思ってたのに――ちょっとお姉さん、がっかりだな……。判った、コニーちゃんとアルデちゃんにお願いしよう」


「おい、待てよ! 手伝わないとは言ってないだろ! ……仕方ないな。手伝うけど――なんなんだよ」

「ありがとう! さすが先生の見込んだ門下生だ」


 エリナはにっこり微笑んでみせる。

 その笑顔に、クロイドがあてられたように、少し赤くなった。


「頼みというのはだね、この借用書をそれぞれの持ち主に返してほしいんだ」


 そう言うとエリナは、借用書の束を取り出した。


「え? こんなにあるんですか?」


 コニーが驚く。エリナは言った。


「これはだねえ、昨夜のヒモグラーたちの一味が、不当な方法で入手したものだ。それを奪い返したんだけど、これを元の持ち主に返したいんだけど――なにせ、帝都の土地勘がないもんでね」


 エリナはそう言うと笑ってみせた。と、アルデが真面目な面持ちで口を開く。


「判りました、そういう事ならお手伝いします」

「アルデちゃんは、いい子だね~! ギュッってしていい?」

「いや、あの……それは…」


 アルデが困った顔をみせる。エリナは笑いながら、さらに言った。


「それで、コニーちゃんとアルデちゃん二人一組で行動して」

「え? い、いや…なんで……?」


 少し顔を赤らめながら、コニーが問う。エリナはそれに答えた。


「取立人たちが、借入人のところに来て遭遇するかもしれない。つまり危険性があるんだ。だから必ず二人一組で行動して。それとアルデちゃんには、リンクを受けてもらっていいかな?」

「あ、はい、どうぞ」


 アルデがそう返事をすると、エリナは指先を光らせてアルデの額につけた。

 光の粒が、アルデの額に吸い込まれる。


「これで、少々離れても話ができる。もし取立人に遭遇したら、必ず連絡して」

「判りました」

「それと、もう借金のために子供や奥さんとかを奴隷にとられたような人がいたら、メモをとっておいて。その人の名前、性別、年齢、特徴とか」


 エリナの言葉に、アルデとコニーは真剣な面持ちで頷いた。


「よし、じゃあ半分はお願いするよ。残りの半分は、私とクロイドくんで廻ろう」

「オレは……一人でいいよ」

「なに言ってるんだ、君は私のボディガードだぞ」


 エリナは眼鏡の奥の眼で覗き込む。

 と、クロイドは顔を赤らめて、そっぽを向きながら口を開いた。


「そういうことじゃ……しょうがないな。判ったよ」

「うん、ありがとう。もしもの時は、頼りにしてるよ。――じゃあ、アルデちゃんとコニーくん、頼んだよ。終わったら、ケーキごちそうするよ」


 エリナの言葉に、アルデがちょっと飛び上がった。


「ほんとですか、やった!」

「フフ……いい店あったら、それも教えてね」

「はい! 判りました!」


 コニーはそんな笑顔のアルデをボーッと見ている。

 と、アルデはコニーに向き直った。


「それじゃあ、コニー、行こうか」

「う、うん」


 戸惑いながらも、コニーとアルデは歩き去っていった。

 エリナはそれを見送ると、クロイドと一緒に歩きだす。


「それじゃあ、案内頼むわね、クロイドくん」

「その『くん』づけは止めてくれねぇか」


 クロイドは渋い顔をする。エリナは笑って言った。


「じゃあ行こっか、クロイド」

「おう」


 二人はそれから借用書に書かれた人々を訪ね歩いた。

 ある者は涙を流して喜び、ある家族は、それでも娘はもう取り戻せないと泣いた。数件回ったところで、クロイドが怒った顔で口を開く。


「畜生……なんて奴らだ、許せねぇぜ」

「君はやっぱり、正義感の強いいい奴だな。クロイド」


 エリナが微笑む。と、エリナは通りに店を見つけてクロイドに声をかけた。


「お、あれは武具屋かな? クロイド、ちょっと寄っていきたいんだが」


 クロイドの返事を待たずに、エリナは店へ入っていく。クロイドは肩をすくめた。


「まったく、返事もききゃあしないのかよ……」


 クロイドが仕方なく店に入っていくと、エリナはもう買い物をしようとしていた。

 エリナが手にしているのは、小太刀二本である。


「おい、その短い刀は補助用だ。二本持つものじゃないぜ」

「そうなの? けど、私はこれがいいんだ」


 エリナはそう言うと、小太刀を二本買った。くわえてエリナは、鎖を手に取る。


「そりゃ魔獣用だぜ。そんなもん、何にするんだ?」

「なるほど、それは頑丈そうでいいや」


 エリナは鎖の先に輪がついている猛獣用の鎖を10本ほど買っていった。

 買い物は全部、収納珠に入れて携帯する。


 やがてエリナたちは、最初に会った犬耳の親子――グビル家へと到着した。

 あの犬耳の少女がエリナを見ると、笑顔を浮かべて駆け寄ってきた。


「あ、あの時の人! ――お父さん!」


 少女は家の中で駆けこんでいく。

 やがて少女と父親が家から出てきたが、その顔が急に凍り付いた。


「――おい、昨日の話はまだ済んじゃいねえぜ」


 背後から野太い声がして、エリナは振り返った。

 それは昨日、エリナたちから追い払われた二人組の片割れだった。


「お、お前は昨日の――」

「やっぱり懲りてなかったか。まあ、予想はしてたけど?」


 エリナは男を見て、不敵な笑みを浮かべた。


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