6 届かぬ剣
ジェットは長い爪を自分で舐め、舌なめずりをした。
と、その身体から電撃を発し、姿が消える。
ジェットの爪がカサンドラを襲っている。
カサンドラはかろうじて、その爪の一撃を受けていた。
が、もう一方の爪がすかさず襲ってくる。カサンドラは魔力を集中して、魔導障壁でそれを防いだ。
「剣も魔法ってわけかい。器用だな、あんた!」
ジェットはそう言うと大口を開け、口から炎を吐き出した。
「くっ!」
カサンドラは横転しながら飛び退いて、炎の直撃を躱した。
しかしジェットは追撃の手を緩めない。
凄まじい速さの連続攻撃を、カサンドラはなんとか剣で受ける。
しかしその中で、カサンドラは全身の炎をたぎらせていた。
「こっちから行くぞ……爆炎閃光斬!」
爆発的なダッシュとともに、火炎をまとった剣をジェットに向けて振る。
が、ジェットの後退の速さが想像を超えた。
(――届かない)
カサンドラは瞬時に判断した。
(ならば!)
カサンドラは剣の元にある鎖を伸ばし、剣の切先の届く距離を伸ばす。
しかし、その切先はジェットの身体には届かず、その腕をかすめた。
「へぇ……そんな細工もあるのかい? けど――オレには届かないな」
腕から血を流して、足を止めたジェットがせせら笑う。
カサンドラは歯噛みをした。
(今の剣技では……まだ届かない――)
カサンドラはそれでも表情に出さず、ジェットを睨みつける。
と、脇で女の声が上がった。
「――い、痛い! こいつ、何処にいやがるんだ!?」
ザビーの声だった。
ザビーは顔、背中、手足を手裏剣に切り裂かれている。
しかしそれを操ってるエリナの姿は見えない。
「ザビー!」
「ジェット!」
二人は駆け寄って、互いを見つめ合う。
「怪我してるじゃないか、ザビー。……なんてひどい事をしやがるんだ…」
「ジェットもだよ。ざっくり切り裂かれちまってる……」
そう囁きあうと、二人は互いの傷をペロペロと舐め合い出した。
その時、姿を現したエリナがげんなりした声を出す。
「どうでもいいけど――いちいちイチャイチャすんの、やめてくれる?」
「お前たち……オレの大切なザビーを傷つけたな。けどな――」
そう言うと、二人の姿が電気を帯びて光る。
と、その光の中で、二人の傷がみるみる治っていく。
「オレたちの回復力をあまくみるなよ」
ジェットは勝ち誇ったように、笑みを浮かべた。
「ウフフ、あいつら驚いてるよ、ジェット! バカ面さらしてる、ウケる!」
ザビーが小馬鹿にしたような声をあげる。
その時だった。
突然、二階の踊り場から何かが振ってくる。
床に落ちたその影は、帝都護衛隊の隊員だった。
「ぐはぁぁっっ!」
床に落ちた隊員は、血を吐きながら呻き声をあげた。
エリナがその場に駆け寄る。
「大丈夫!?」
「う…ぐぅ……」
隊員が呻いた時、隊員を落としたと思しきヒモグラーが、一階へ飛び降りてきた。
「ギイィィィ!」
ヒモグラーが雄叫びをあげる。
と、それに呼応するように、一階のあちこちから、また二階からヒモグラーが次々と現れた。
その数は二十体ほどはいる。
カサンドラは汗を垂らしながら、歯噛みをした。
「やっちまいな!」
ジェットが声をあげると、ヒモグラーが一斉にエリナとカサンドラに襲い掛かる。
エリナの姿が消えた。
「ハッ!」
カサンドラは鎖剣を振るった。
その剣が、迫ってくるヒモグラーを次々に切り裂いた。
別のヒモグラーたちの顔面には、手裏剣が突き刺さる。
「ギギ……ギィィィ!」
ヒモグラーたちが声をあげる。
と、その傷がみるみる回復していった。
「ハハッ! お前たちのつけた小さな傷など、ヒモグラーの回復力の前では無意味だ!」
ジェットが勝ち誇った笑みを浮かべる。
カサンドラとエリナは、僅かに青ざめた表情をみせた。
「オレたちの攻撃に、どれだけ耐えられるかな?」
ジェットが残虐な笑みを浮かべる。
そしてジェットが手を振った。
「かかれ!」
ヒモグラーが再び一斉に襲い掛かる。
しかしその時、二人の背後から複数の影が飛び出した。
その影は襲い掛かるヒモグラーを迎撃した。
「お前たちは――」
カサンドラが驚きの声をあげる。
そこに現れたのはクロイドとコニー、アルデ、そしてもう三人の道場生だった。
「遅くなってしまったな、カサンドラ――」
その声にカサンドラが振り返る。
そこには獅子王戦騎団――ガルドレッド将軍その人の姿があった。
「おじ様……」
「来るのが遅れてしまったが……まさか、こんな事になっているとは――」
警護隊が倒れている惨状に、ガルドレッドは表情を曇らせた。
そしてヒモグラーを迎撃した門下生たちが、声をあげる。
「先生、こいつら――回復力が強すぎます!」
門下生たちは一度下がる。
その間にヒモグラーたちは、つけられた傷を回復していった。
「ガキどもが何人こようが、関係ないぜ!」
ジェットの声に、傷が治ったヒモグラーたちが再び襲いかかる。
――が、そのヒモグラーたちが、突然、動きを止めた。
「ぐ……」
ヒモグラーたちが小さく呻く。
一体は肩から袈裟斬りにずり落ち、一体は胴を真っ二つに――そしてもう一体は、その首がボロリと落ちた。
「回復が早いなら――治すことができぬ一撃を与えるまで」
そこには、剣を振り抜いたガルドレッドがいた。
門下生たちは、その剣技に息を呑む。
「こいつが……帝国の精鋭、獅子王戦騎団――」
ジェットが驚愕の眼を見開いた後、舌なめずりをした。
「お前は、オレがいただくぜ!」
ジェットの姿が消えたと思われた瞬間、電撃を迸らせながらジェットがガルドレッドに襲い掛かっている。
だがその身体が、弾かれるように吹き飛ばされた。
「ぐ――」
踏みとどまったジェットの身体に、肩から胸にかけて深い傷が走っている。
「ふむ……浅かったか」
白い口髭を動かし、ガルドレッドがそう呟いた。




