第四話 いざ、冒険の始まり 1 最初のクエスト
準備が整ったところで、エリナが言った。
「それじゃあ、まず薬草採りに行こうか。もうお昼近くだけど――キャルちゃん、このダカン高原って、遠いのかい?」
「そうですね……地図で見た感じだと、歩いて2時間くらいかと」
「2時間! ……うぅ、電車もバスもない世界は辛いなあ。けど仕方ない、頑張っていくか」
エリナの声に、僕も応じた。
「そうですね、僕らの初仕事。頑張りましょう!」
「うん。がんばろう」
キャルもそう口にする。エリナが声を上げた。
「ようし、じゃあブランケッツ、始動だ!」
「「おー!」」
そうして僕らは、初の冒険へと旅立った。
と、意気込んでみたものの、実際は田舎に向けた道をひたすら歩いてるだけだ。
なんか天気が良くて、陽射しがポカポカしてる。もう春が近いらしく、花があちこちに咲いていて、蝶が舞っている。
「いい風景だな。なんだか、なごんできた」
「本当ですね。ちょっとピクニックに来た気分です」
「ピクニックって?」
キャルが問うので、僕は答えてやった。
「お弁当持って山とかに出かけるんだ。――そうだ、そろそろお昼にしませんか?」
「いいねえ、ちょっと歩いたし、お腹もすいたところだよ」
僕たちは街道添いの原っぱで、適当に座って昼食を取った。
バケットに切ったハムを挟んだ、固めのサンドイッチだ。
「いただきまあす」
エリナがそう言って、サンドイッチと頬張る。と、キャルが不思議そうな顔をした。
「ね、二人とも食べる前に、その『いただきます』って言うけど、前の世界の儀式の言葉なの?」
僕は、改めて言われて、無意識にそう言ってたことに気付いた。
「そうか、『いただきます』って、日本の風習だ」
「キャルちゃん、私たちの世界では、食べ物を食べる時に、その食べる物に感謝する、という風習があるんだよ。私たちは、命をいただいてる。だから『ありがとうございます』っていう気持ちで、『いただきます』って、言うんだ」
エリナがそう解説した。
そうか、そんなに深く考えたことなかった。
キャルはそれを聴くと、微笑んだ。
「凄くいい言葉ね。わたしも、これから言うことにする。いただきます」
キャルはそう言うと、エリナの真似をして手を合わせた。
僕も、いただきます、と言ってサンドイッチにかぶりついた。
それから、凄く沢山歩いて、ようやく高原に着いた。
結構、山道だったので、僕たちはクタクタだった。けど、ここからがクエストだ。
「キャルちゃん、もらった草のカードを出してみて」
「はい。これですね、裏にも絵が描いてありますね」
キャルはカードを取り出すと、エリナに渡した。表には集めるヒリアの薬草。
裏には、よく似た草の絵と注意が書いてある。
裏に描いてるのは、ドキアの草。ヒリアの草に似てるけど、毒性らしい。混入させないこと、と注意書きがしてある。
「なるほど、注意しないとな」
「ドキアの葉には、この筋のところに紫の色が入ってます。葉の先も少し尖ってますし、何より、裏を見ると、ドキアの葉には黒い小さなつぶつぶがあるんで、すぐに判ります」
キャルがそう口にした。僕はちょっと驚いた。
「キャル、詳しいんだね」
「うん、よく採りにいってたから、薬草の事は少し知ってるかも。ヒリアってのは回復、毒消し、消毒と色んなことに使われる薬草の基本みたいなものなの。だけど栽培が難しくて、天然ものを採取するしかないの」
キャルの解説に、僕らは感心した。
「へー、じゃあ採取したら、間違ったものが入ってないか、キャルちゃんにチェックしてもらおう」
「はい。任せてください」
キャルは微笑んだ。
それから僕らは、しばらくの間、薬草採りにいそしんだ。
ほどなく、キャルが抱えてるバッグにいっぱいになる。
バッグにあるヒリアの薬草とは別に、キャルが黄色い花をつけた草を何本か採取していた。エリナが問うた。
「キャルちゃん、それは?」
「あ、これはちょっと珍しいベルニカの花です。この花の成分から、火傷の治療薬ができるので、一緒に持っていけば換金できるかもって思って」
「おお、キャルちゃん、素晴らしいな!」
エリナが声をあげた。僕も本当に凄いと思った。
「けど……もうバッグがいっぱいで、持って帰れないかも――」
「あ、それなら大丈夫だよ。ちょっと待ってて」
キャルの心配そうな顔を見ると、エリナは声をあげた。
と、エリナは辺りを見回すと、樹に絡まってるつる草を取り始めた。
「こういうつる草を取ればいいんですか?」
「うん、なるべく多めにとって」
僕とキャルはつる草を取ると、エリナに持っていく。エリナはそれをくるくると巻きながら、それで何か編み始めた。
僕とキャルは、その手際のいい様子を見ている。
すると、あっという間につる草で編んだバッグが出来上がった。
「エリナさん、凄いです!」
「ふふ、こういうの実は得意なのよ。じゃあ、これで薬草はいいとして――どうする? 一旦戻るか、このままナミキリ村のカミラさんの処に行くか」
「まだお昼過ぎですよね。一度、現場に行ってみませんか」
「そうだな。そうしてみよう」
僕らはそこから、地図を頼りにナミキリ村まで移動した。
ナミキリ村は、家より畑の方が多いという田舎だった。
クエストのメモによると、カミラさんのお宅は村に入る街道から三件目の、緑の屋根の家――とあった。ほどなく、そのお宅を発見した。
家に近づくと、庭に出て野菜を干している老婆がいる。
僕は声をかけた。
「すみませ~ん」
老婆が顔をあげる。銀髪が緩いウェーブを描く、優しそうな感じのお婆さんだ。
「あの、カミラさんのお宅はここでしょうか?」
「はい、わたしがカミラですよ。ああ、ヒモグラ駆除に来てくれた方ね」
カミラさんはにっこりと微笑んだ。
「随分とお若い方たちね。それにみんな可愛らしいわ」
「そんな、可愛いだなんて!」
エリナが赤くなって喜ぶ。いや、きっとキャルのことだよ。
「それで、ヒモグラのいるのは何処ですか?」
「あっちのね、離れの畑の方なの」
僕らはカミラさんの案内するままに、少し離れた畑に行く。
「この一帯がそうなんだけど――」
「広っ!」
エリナが声をあげた。いや、無理もない。僕もそう思ったからだ。
小さく見積もっても、球場9個分――とかなんだろう。ちょっと、想像していたより広い。
「あの……カミラさんが、お一人でこの畑を作ってるんですか?」
「まあ、広くても作業する手は沢山あるから」
カミラさんが、にっこりと笑う。と、カミラさんは両手をそっと広げた。
「現れなさい、わたしの分霊体」
そのカミラさんの言葉とともに、突然、乳白色の大群が現れた。
リスだ。少し大きめのリスの大群だ。
「こ、これは――」
驚いてる僕とエリナをよそに、キャルが口を開いた。
「カミラさんは、霊術士なんですね」
「そうなの。この子たちが種まき、雑草取り、収穫とやってくれるから、なんとかやれてるのよ」
カミラさんはそう言って微笑した。と、突然、エリナが声をあげる。
「カミラさん、私に霊力の使い方を教えていただけないでしょうかっ!」
エリナの真剣な顔と、カミラさんの驚きの顔を僕らは交互に見た。
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