5 ケリーとの立ち合い
門下生の中から声をあげたのは、ゆるいウェーブを描く金髪で碧眼の、一目でわかるほど端正な顔立ちの男だった。
「ケリー、お前がやると?」
「はい、素剣で構いませんが」
ガルドレッドがカサンドラを見ながら言った。
「しかしカサンドラは、今、三番勝負したばかり。日を改めてはどうだ?」
「――私は構いません」
カサンドラは即座に言った。その眼は、静かにケリーと呼ばれた男を睨んでいる。
ガルドレッドはそれを見ると、頷いた。
「ならばよかろう。立ち合ってみなさい」
「では、失礼します」
ケリーは門下生をかきわけ、カサンドラの前に立った。
門下生たちがざわめく。
「グレイス師範がたちあうのか?」
「さっき、『久しぶりに』って言ってたぞ」
ケリーは礼をしながら声を発した。
「お願いします」
「……お願いします」
カサンドラが礼を返す。ケリーは静かに木剣を構えた。
カサンドラも木剣を構えケリーに対峙する。
「始め!」
ガルドレッドの声で立ち合いが始まった。
ケリーは僅かに入る。が、カサンドラはそれと同じだけ引く。
ケリーの木剣が、少しだけカサンドラの木剣を横に押す。
くるり、と切先を返し、カサンドラの木剣が裏に入る。と、ケリーが出た。
突きである。カサンドラは木剣をたて、その突きを流れを逸らしている。
そして、すぐさま迫ってきたケリーの首に横払いを入れた。
が、ケリーは既に後退し、間合いを切っている。
と思われた直後、ケリーが振りかぶって斬りつけてきた。
カサンドラはそれを剣を寝かせて振りかぶることで受流し、くるりと返す刀でケリーに斬りつけた。
ケリーがそれを受ける。二人の間合いが詰まり、互いの顔がすぐ傍にある距離で二人は見つめ合った。
二人が飛び退いて間合いを取る。
その一瞬の攻防に、門下生たちは声を出すのも忘れて見入っていた。
ス……とカサンドラが木剣を下段に落とす。
ブワッ、とケリーは木剣を上段に構えた。
ジリ、と二人が迫る。3mmずつほど、二人は互いに距離を寄せていく。
道場中の息が詰まる想いだった。
と、二人が動いた。
左手一本で突きを繰り出したカサンドラの木剣の切先がケリーの喉元に――そしてケリーの木剣は、カサンドラの頭上で止まっている。
「それまで!」
ガルドレッドが声をあげた。
「なんだ、今の? どうなったんだ?」
「相討ち……じゃないのか?」
門下生たちがざわめく。
その中で、ケリーはカサンドラに歩み寄った。
「私の負けだ、カサンドラ。君の方が早かった」
「……ありがとうございました」
カサンドラはそれだけを言うと、礼をした。
と、その静けさを破るように、急に声が上がった。
「わあお! カサンドラ、やっぱり凄いじゃない! さすがね~!!」
明らかに場違いな声をあげるエリナに、門下生が驚きの眼を向ける。
カサンドラはそれに苦笑して見せた。
「エリナ……まったく…」
「いい勝負だったぞ、二人とも」
ガルドレッドが二人の前に出てきて、そう告げた。
「カサンドラ、腕を上げたようだな。今以上を望むというのか?」
「はい、先生。今のままでは――至らないと思います」
カサンドラの答えに、ガルドレッドは腕組みをした。
「ふむ……判った。少し考えてみよう。しかしまずは、門下生たちに稽古をつけてやってくれないか」
「判りました」
カサンドラが頭を下げると、ガルドレッドは門下生たちに言った。
「よし、では稽古再開だ! ――コニー!」
「はい!」
ガルドレッドに呼ばれ、一人の門下生が出てくる。
まだ年若く、ブラウンの髪を坊ちゃん風に切りそろえている。
「お前はエリナさんに、気力の使い方を教えなさい」
「え、ぼくがですか?」
「そうだ。当気剣の使い方や、発力歩法もだぞ」
「けど、先生、それぼく最近できるようになった事ばかりですけど……」
コニーは不安げな顔をみせた。と、ガルドレッドが言う。
「だから、だ。教えながら、自分のできる事をきちんと見返しなさい。判ったな」
「はい、先生」
コニーはガルドレッドに頷くと、エリナの元へと歩み寄った。
「そ、そういう訳で、コニー・デルモンドです。よろしくお願いします」
コニーはそう言うと、エリナに頭を下げた。
と、エリナが吹き出す。
「ど、どうしたんですか!?」
「だって、普通、教わる方が『よろしくお願いします』でしょ? まあ、君が真面目なのはよく判ったよ。私はエリナ・ロイ。よろしくね」
エリナが微笑むと、コニーはちょっと顔を赤らめて横を向いた。
「そ、それじゃあ、気力の使い方ですが――ええと、エリナさんは全身を気で覆うことはできますか?」
「どうだろう? ちょっとやってみるか」
エリナはすっと息を吸うと、気力を高めた。コニーが驚きの顔になる。
「凄い! エリナさん、かなりの気力の持ち主ですね!」
「そうなの? 治癒の時にしか使わないから、よく判んないんだけど」
周りの門下生も、突然、圧を上げたエリナの気力の高さに驚きの眼を向けていた。
「じゃあ、その高めた気を、掌に集中してください」
「それは治癒でもよくやる。こうね」
掌がぼんやりと白く光る。
「じゃあ、それを治癒じゃなくて衝撃に変換するつもりで、僕の胸を打ってください」
「え? 君の胸を打つの? いいの?」
「大丈夫です、どうぞ」
そう言って胸を張ったコニーに、エリナは掌打を当てた。
と、その衝撃をコニーは気力で防御する。
「うん。来てますね。けど、まだ中に浸透する感じじゃない。今度は、僕の背中まで貫く感じで打ってみてください」
「判った。やってみる」
エリナが難しい顔をしながら、コニーの胸を打つ。少しコニーが驚きの顔をみせるが、再び衝撃を緩和する。
「いいですね! ちゃんと抜けてました。ちょっと、物体に気力を通す感じが判ったんじゃないですか?」
「うん、確かに」
「じゃあ、木剣を手にとってください。今度は全身を木剣ごと気力で覆う感じです」
エリナは言われるがまま木剣を手に取って、気力を発した。
と、コニーが苦笑する。
「なに? なんかヘンだった?」
「いいえ。エリナさんがあんまりスイスイできちゃうんで、ちょっと……ぼくは相当苦労してできるようになったのになあ」
「まあけど、すぐにできる事が伸びるとは限らないよ。それに、できない事があっても強くなる人もいるし、強くなる方法もある。強くたって負けることもあるし、弱くたって勝つこともある」
エリナがそう言うと、コニーはポカンとした顔をした。
「エリナさんて……なんか大人ですね」
「まあね! これでも一応、冒険者だからな。色んな経験をしてるのさ」
エリナは胸を張って、にっと笑ってみせた。
コニーは真面目な顔で、エリナに問う。
「色んな経験って……モンスターと戦ったりとか、ですか?」
「そうだな。あまり大きな声じゃ言えないが――悪党と戦ったりもする」
エリナが声をひそめてそう言うと、コニーは真顔から顔をしかめた。
「なんだ、冗談か。もう……からかわないでくださいよ」
「あっはっは! なんか真面目な君を見てると、つい――ね」




