表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

178/239

5 ケリーとの立ち合い


 門下生の中から声をあげたのは、ゆるいウェーブを描く金髪で碧眼の、一目でわかるほど端正な顔立ちの男だった。


「ケリー、お前がやると?」

「はい、素剣で構いませんが」


 ガルドレッドがカサンドラを見ながら言った。


「しかしカサンドラは、今、三番勝負したばかり。日を改めてはどうだ?」

「――私は構いません」


 カサンドラは即座に言った。その眼は、静かにケリーと呼ばれた男を睨んでいる。

 ガルドレッドはそれを見ると、頷いた。


「ならばよかろう。立ち合ってみなさい」

「では、失礼します」


 ケリーは門下生をかきわけ、カサンドラの前に立った。

 門下生たちがざわめく。


「グレイス師範がたちあうのか?」

「さっき、『久しぶりに』って言ってたぞ」


 ケリーは礼をしながら声を発した。


「お願いします」

「……お願いします」


 カサンドラが礼を返す。ケリーは静かに木剣を構えた。

 カサンドラも木剣を構えケリーに対峙する。


「始め!」


 ガルドレッドの声で立ち合いが始まった。

 ケリーは僅かに入る。が、カサンドラはそれと同じだけ引く。


 ケリーの木剣が、少しだけカサンドラの木剣を横に押す。

 くるり、と切先を返し、カサンドラの木剣が裏に入る。と、ケリーが出た。


 突きである。カサンドラは木剣をたて、その突きを流れを逸らしている。

 そして、すぐさま迫ってきたケリーの首に横払いを入れた。

 が、ケリーは既に後退し、間合いを切っている。

 と思われた直後、ケリーが振りかぶって斬りつけてきた。

 カサンドラはそれを剣を寝かせて振りかぶることで受流し、くるりと返す刀でケリーに斬りつけた。

 ケリーがそれを受ける。二人の間合いが詰まり、互いの顔がすぐ傍にある距離で二人は見つめ合った。


 二人が飛び退いて間合いを取る。

 その一瞬の攻防に、門下生たちは声を出すのも忘れて見入っていた。


 ス……とカサンドラが木剣を下段に落とす。

 ブワッ、とケリーは木剣を上段に構えた。


 ジリ、と二人が迫る。3mmずつほど、二人は互いに距離を寄せていく。

 道場中の息が詰まる想いだった。


 と、二人が動いた。

 左手一本で突きを繰り出したカサンドラの木剣の切先がケリーの喉元に――そしてケリーの木剣は、カサンドラの頭上で止まっている。


「それまで!」


 ガルドレッドが声をあげた。


「なんだ、今の? どうなったんだ?」

「相討ち……じゃないのか?」


 門下生たちがざわめく。

 その中で、ケリーはカサンドラに歩み寄った。


「私の負けだ、カサンドラ。君の方が早かった」

「……ありがとうございました」


 カサンドラはそれだけを言うと、礼をした。

 と、その静けさを破るように、急に声が上がった。


「わあお! カサンドラ、やっぱり凄いじゃない! さすがね~!!」


 明らかに場違いな声をあげるエリナに、門下生が驚きの眼を向ける。

 カサンドラはそれに苦笑して見せた。


「エリナ……まったく…」

「いい勝負だったぞ、二人とも」


 ガルドレッドが二人の前に出てきて、そう告げた。


「カサンドラ、腕を上げたようだな。今以上を望むというのか?」

「はい、先生。今のままでは――至らないと思います」


 カサンドラの答えに、ガルドレッドは腕組みをした。


「ふむ……判った。少し考えてみよう。しかしまずは、門下生たちに稽古をつけてやってくれないか」

「判りました」


 カサンドラが頭を下げると、ガルドレッドは門下生たちに言った。


「よし、では稽古再開だ! ――コニー!」

「はい!」


 ガルドレッドに呼ばれ、一人の門下生が出てくる。

 まだ年若く、ブラウンの髪を坊ちゃん風に切りそろえている。


「お前はエリナさんに、気力の使い方を教えなさい」

「え、ぼくがですか?」

「そうだ。当気剣の使い方や、発力歩法もだぞ」

「けど、先生、それぼく最近できるようになった事ばかりですけど……」


 コニーは不安げな顔をみせた。と、ガルドレッドが言う。


「だから、だ。教えながら、自分のできる事をきちんと見返しなさい。判ったな」

「はい、先生」


 コニーはガルドレッドに頷くと、エリナの元へと歩み寄った。


「そ、そういう訳で、コニー・デルモンドです。よろしくお願いします」


 コニーはそう言うと、エリナに頭を下げた。

 と、エリナが吹き出す。


「ど、どうしたんですか!?」

「だって、普通、教わる方が『よろしくお願いします』でしょ? まあ、君が真面目なのはよく判ったよ。私はエリナ・ロイ。よろしくね」


 エリナが微笑むと、コニーはちょっと顔を赤らめて横を向いた。


「そ、それじゃあ、気力の使い方ですが――ええと、エリナさんは全身を気で覆うことはできますか?」

「どうだろう? ちょっとやってみるか」


 エリナはすっと息を吸うと、気力を高めた。コニーが驚きの顔になる。


「凄い! エリナさん、かなりの気力の持ち主ですね!」

「そうなの? 治癒の時にしか使わないから、よく判んないんだけど」


 周りの門下生も、突然、圧を上げたエリナの気力の高さに驚きの眼を向けていた。


「じゃあ、その高めた気を、掌に集中してください」

「それは治癒でもよくやる。こうね」


 掌がぼんやりと白く光る。


「じゃあ、それを治癒じゃなくて衝撃に変換するつもりで、僕の胸を打ってください」

「え? 君の胸を打つの? いいの?」

「大丈夫です、どうぞ」


 そう言って胸を張ったコニーに、エリナは掌打を当てた。

 と、その衝撃をコニーは気力で防御する。


「うん。来てますね。けど、まだ中に浸透する感じじゃない。今度は、僕の背中まで貫く感じで打ってみてください」

「判った。やってみる」


 エリナが難しい顔をしながら、コニーの胸を打つ。少しコニーが驚きの顔をみせるが、再び衝撃を緩和する。


「いいですね! ちゃんと抜けてました。ちょっと、物体に気力を通す感じが判ったんじゃないですか?」

「うん、確かに」

「じゃあ、木剣を手にとってください。今度は全身を木剣ごと気力で覆う感じです」


 エリナは言われるがまま木剣を手に取って、気力を発した。

 と、コニーが苦笑する。


「なに? なんかヘンだった?」

「いいえ。エリナさんがあんまりスイスイできちゃうんで、ちょっと……ぼくは相当苦労してできるようになったのになあ」

「まあけど、すぐにできる事が伸びるとは限らないよ。それに、できない事があっても強くなる人もいるし、強くなる方法もある。強くたって負けることもあるし、弱くたって勝つこともある」


 エリナがそう言うと、コニーはポカンとした顔をした。


「エリナさんて……なんか大人ですね」

「まあね! これでも一応、冒険者だからな。色んな経験をしてるのさ」


 エリナは胸を張って、にっと笑ってみせた。

 コニーは真面目な顔で、エリナに問う。


「色んな経験って……モンスターと戦ったりとか、ですか?」

「そうだな。あまり大きな声じゃ言えないが――悪党と戦ったりもする」


 エリナが声をひそめてそう言うと、コニーは真顔から顔をしかめた。


「なんだ、冗談か。もう……からかわないでくださいよ」

「あっはっは! なんか真面目な君を見てると、つい――ね」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ