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3 ガルドレッド道場


 エリナとカサンドラ――二人の様子を見ていて、僕は思ったことを口にした。


「それにしても二人、仲良くなった感じだよね。何かあったの?」

「あったさ! 色々とな!」


 エリナが眼鏡の奥の眼を輝かせて答える。

 それに対して、キャルも口を開いた。


「え、なにがあったのか聞きたいな」

「あたしも、ちょっと聞いてみたいわ」


 ジョレーヌもさらに声をあげる。

エリナはフフン、と鼻をならした後で胸を張った。


「では話してあげましょう。帝都での我々の活躍を――」

「おい、エリナ! あんまり口外するような事じゃないぞ!」

「まあまあいいじゃないか。それに――主役はカサンドラだ!」


 エリナは悪戯っぽくウィンクすると、事の経緯を話し始めた。



△  △   △   △   △   △   △   △



 二人はガロリア帝国首都――通称『帝都』と呼ばれる街、ケイムに向かう馬車に揺られていた。

 向かいの席に座る眼鏡をかけたエリナに、紅い髪のカサンドラは言った。

 

「エリナ、何を考えてる?」

「なにって、何がさ」

「私の修行についてきたいなどと言って――何か狙いがあるんだろう」


 カサンドラの言葉に、エリナはにっと笑ってみせた。


「まあ、カサンドラには悪いのだが、そろそろあの二人がいい仲になってもいいんじゃないかと思ってね。二人きりにしてみたんだ」

「何故、私に悪いなどと」

「だって君、クオンくんのこと好きだろう」


 エリナにずばりと言われて、カサンドラは赤くなって眼を剥いた。


「な、なんてことを言うんだ! 私は――そんな事はない!」

「いや、隠さなくてもいいよ。彼に救われたんだから、そういう気持ちになるのも無理はない。というか、私もキャルちゃんも同じなんだ。彼に救われた……クオンくんは、不思議な魅力を持ってる。一見、普通の少年なんだがな」


 エリナの言葉に、カサンドラは息をついた。


「確かに心惹かれてる部分はあると思うが……その恋愛的なものではない――と、私は思ってるのだが」

「まあ、それならそれでいいよ。ただ、私はキャルちゃんも大好きなんだ。クオンくんにはキャルちゃんが似合ってると思う。二人は運命的に出会った二人だと思ってる。――けどね、もし修行を終えて二人の仲に進展がなかったとしたら、君がクオンくんにアプローチするのも止めないよ? 恋愛は自由だ」


 エリナはそう言うと、カサンドラに向かって微笑した。

 カサンドラは少し顔を赤らめながら、エリナに言った。


「なんか……エリナは、パーティーハウスにいる時と感じが違わないか?」

「私はクオンくんやキャルちゃんの前では、すこ~し猫を被っているのだよ。なにせ彼らは純真な少年少女なのでね」

「まったく……」


 カサンドラは息をついた。

それを見たエリナが、不意に真面目な表情を向ける。


「しかし君と一緒に修行してみたいと言ったのも事実だ。多分だけど、これから私たちは――いや、特にクオンくんとキャルちゃんは大きな敵と向き合うことになる。その時、どれだけ二人の力になれるか……そう思ってるんだ」

「そういう意味では……私と同じ気持ちだった、ということか」


 カサンドラは微笑してみせた。


「――ところで、ガルドレッド将軍の処に行くんだよね? 具体的には、カサンドラとどういう関係なんだっけ?」

「ジェイムズ・ガルドレッド将軍は、父バリー・レグナの友人で、私の剣の師匠でもある方だ。帝国精鋭の証でもある獅子王戦騎団(レオン・ヘッド)の一人である。今でも後進の指導をされているので、そこに加えてもらおうと思っている。既に手紙は出しておいた」

「そうか、楽しみだな」


 エリナはにっ、と笑ってみせる。


*  *   *


 近くの街で宿を取って一晩過ごし、早朝に二人が向かったのが、ガルドレッド将軍の屋敷であった。


「広い敷地だな! それに大きな屋敷だ」


 エリナは思わず声をあげた。馬車は並木道を走っている。言われなければ、此処が個人宅の敷地内とは思われない景色で、敷地はひろく緑に溢れていた。


カサンドラが、感心するエリナに向かって言った。


「獅子王戦騎団というのは十三名からなる皇帝のすぐ下の家臣団だ。帝国の中枢と言ってもいい。そのうちの一人で、ガルドレッド将軍は祖父の代から皇帝に仕える名家だ。まあ、当然といえば当然だ」

「なるほどね~。で、カサンドラはそのおじ様のお気に入りの弟子だったわけだ」

「気に入られたとは思わんがな」

 

 カサンドラは苦笑しながら、そう呟いた。

 屋敷についた二人は、メイドに案内され居間で待つ。そこにガルドレッド将軍が現れた。


 白髪を短く切り揃え、白い口髭をたくわえた精悍な顔つきのガルドレッド将軍は、二人を快く迎え入れた。


「よく来たな、カサンドラ。それにそちらの――」

「エリナ・ロイです。よろしくお願いします」


 エリナはガルドレッド将軍に、挨拶をした。

 ガルドレッド将軍は、エリナに問うた。


「カサンドラの手紙では、貴女も気力を使う戦闘法を修行したい、とあったが?」「あ、はい。そうなんです」


 にこ、とエリナが笑う。ガルドレッド将軍も相好を崩した。


「そうかね。では、よろしい。二人とも道場に来なさい、ちょうど午前の稽古をしている。が、まあ、その前に部屋にいって荷物を置いて、身支度してくるといい。30分後に集合だ」

「判りました」


 二人の傍に、メイドの女性がやってくる。


「カサンドラ様、お久しぶりです」


 中年女性のメイドは、嬉しそうにカサンドラに言った。


「ナターシャ! 元気にしてたかい?」

「はい、おかげさまで。では、お部屋に案内します」


 二人はベッドが二つ並ぶ広めの部屋に案内され。そこで身支度を整えた。


「では、行くか」


 ガルドレッド将軍に連れられて、屋敷の外へ行く。

 と、しばらく歩くと大きな建物が見えてきた。


「道場が敷地内にあるんですか?」

「ああ、皆、ここに通ってきている。もう稽古を始めておるだろう」


 ガルドレッド将軍について道場に入ると、中では沢山の門下生が稽古中だった。

 多くは木剣を使って打ち合っている。エリナは、ほー、とため息をついた。


「皆、少し集まってくれ」


 ガルドレッド将軍が声をあげると、門下生たちはわらわらと集まってきた。


「今日から、此処にいる二人が稽古に加わることになった。こちらは知ってる者も多いと思うが、カサンドラ・レグナだ。もう一人の女性はエリナ・ロイさんと言って、霊術士だ。剣術は初心者なので、そのつもりでいてくれ」

「「「「はい!」」」」

「カサンドラには師範として入ってもらう。カサンドラ、稽古をつけてやってくれ」


 ガルドレッド将軍はカサンドラにそう言ったが、カサンドラは困った顔をした。


「おじ様……私は稽古をつけてもらいに来たのですが――」

「教えることで、学ぶことがある。まず、色んな者と手合わせしてみなさい」


 ガルドレッド将軍は、重々しくそう言った。

 カサンドラもそれ以上は言い返せず、頷く。


 と、道場の中で、門下生の囁き声が聞こえてきた。


「あれって……例の――」

「ああ、隊を全滅させた女隊長だろ?」

「あれでオレたちに教えるつもりらしいぜ――」


 カサンドラの顔に、影がよぎる。

 と、エリナが声をあげた。


「なんか、空気悪くないですか、ここ? 言いたいことくらい、はっきり言えばいいんじゃないのかな」


 エリナは片手を腰に手をあてて、眼鏡の奥の眼を道場に向ける。

 門下生たちは鼻白んだ顔をしていたが、その中の一人が声をあげた。


「先生、師範というからには、実力をみせていただきたいのですが。そうすれば、皆も納得すると思います」


 そう薄笑いを浮かべながら言ったのは、藍色の髪を短くした若者だった。


「ふむ。じゃあ、クロイド、どうするというのだね?」

「オレとレグナ師範を、立ち合わせてください!」


 クロイドはそう言って不敵な笑みを浮かべ、カサンドラを見た。


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