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2 カサンドラの買い物


 ずらりと並んだ12人は、それぞれ個性的ないでたちで、しかもある種のオーラを持った者たちばかりだった。全員がAランク、というのはウソではない――とカリヤは思った。


「これは中々、壮観ですねザンナード子爵。一騎当千の強者揃いだと一目で判る」

「ワタチは強い者を集めるのが好きでチでね。いつの間にか、こんな人数になっていた。Aランクは大隊長クラス――つまり文字通り一人が1000人に匹敵する戦力でツ。今、この部屋には12000もの兵力があるも同然、というわけでツよ」


 自慢げに鼻をならすザンナード子爵に、バルギラは微笑して言った。


「これならばカイラキ郡を入手するのは、ごくたやすい事でしょう。しかし一つだけ注意しておきます」

「なんでツか?」

「『皇帝の黒剣』ジュール・ノウがもし来たならば……速やかに逃走してください」


 なに? と、その場の十二人の顔色が変わる。

 その内の一人、大剣を背中に背負い、片目が傷で潰れてる男が野太い声を上げた。


「バルギラ殿は、我らが『皇帝の黒剣』ただ一人に勝てない、と仰るのか?」

「そうです。ジュール・ノウだけは相手にしてはダメだ」

「ハン! 世界三大剣士の一人とか言われてるが、要は剣士なんだろ? アタシの爆裂魔法で消し炭にしてやるよ」


 ピンクの髪をやたらに結び、眼が痛いほどカラフルな衣装を身に着け、赤い眼鏡をした女が言った。その女の言葉に、別の太目の女が反応する。


「剣士だったら、魔法で勝てるって言ってるのかい?」

「まあ、そんなトコだね」


 太目の女は割烹着を着た、地味な中年女性にしか見えない。顔も地味で、化粧っ気もなく、派手女とは対照的だった。

 が、地味な中年女は突然、歯と眼を剥き出しにして凶悪な本性をみせる。


 その瞬間、中年女が消えた。

 次の瞬間には派手女の喉笛に、中年女の出刃包丁が付きつけられている。


「ひ……」

「そういう生意気な奴を料理するのが、わたしは得意なんだよ――お前は切り刻んでミンチにした後、ハンバーグにしてやる」


 料理女の凄みに、赤い眼鏡の派手女は声も出ない。

 と、大剣の男が声をあげた。


「よさないか! 子爵の前だぞ。――バルギラ殿は慮って言ってくれてることだと判ります。しかし我々とて、その腕を買われてザンナード子爵のもとに集った者。子爵がお命じになれば、相手が誰であろうと我らは戦うでしょう。それが……『皇帝の黒剣』でも」


 大剣の男は、隻眼の鋭い眼光をバルギラに向けた。

 子爵がそれに嬉しそうに反応する。


「うんうん、頼もしいでツね。まあ、バルギラ公爵、御心配にはおよびません。彼らは帝国の精鋭『獅子王戦騎団(レオン・ヘッド)』よりも強いとワタチは自負しておりまツ。まあ、カイラキ郡を落とすのはカリヤ氏の手を借りるまでもありません。任せてください」

「そうですか。では、そのお手並みを拝見しましょう。カリヤ君は、その後の帝国軍が派遣される可能性に備えて、子爵に同行するといい」


 バルギラはカリヤに向かってそう言った。

 カリヤはゆっくりと立ち上がって、煌輝十二将の面々を見る。


「いいだろう。色々と……面白くなりそうだ」


 カリヤは黒マスクの中で、薄笑いを浮かべた。



○  ○   ○   ○   ○   ○   ○   ○   



 ブランケッツ号にディギナーズを乗せ、オーレムまで戻ってきた。

 街の近くで皆を降ろす。


「少し必要な買い物をして、集合しましょう。――そうだな、月光堂書店を集合場所にしましょうか?」

「あ、それがいいな。私はジョレーヌと会う予定だったし、そうしてもらえると助かる」


 エリナの言葉を受けて、僕はディギナーズに言った。


「何より、そのディギナーズの制服が目立ちますからね。着替えを買ってください。お金はありますか?」

「当座必要なものを買うくらいは持ってるな」


 スルーがそう答え、ディギナーズの皆が頷いたので安堵した。


「じゃあ、ある程度、個人的に必要な生活用品とかは自分たちで買っておいてください。そうだな……三時間後に月光堂書店で」

「「「「判った」」」」


 ディギナーズを見送って、僕は口を開く。


「さて、じゃあ僕らは食材でも買いに行きますか」

「じゃあ、私はジョレーヌの処に直行する。では」


 エリナはそう言うと、片手を上げて別方向に歩いて行った。

 と、カサンドラが声を洩らす。


「わ、私は…どうしよう?」

「カサンドラが一番料理上手いんだから、指示してくれないと。一緒に食材を選んでよ」

「そ、そうか。そうだな!」


 にわかに嬉しそうな顔をして、カサンドラが微笑んだ。

 僕はキャルとカサンドラと一緒に市場へと出かけた。


 市場へ行くと、カサンドラが嬉しそうに買い物を始めた。


「シチューを作るのに、肉とキノコ類が欲しいな。青物野菜も必要だ。メイン料理は鶏にするか……いや、ここは牛ステーキで――」


 献立を考えながら買い物をするカサンドラは活き活きしている。

 キャルが微笑みながら僕に言った。


「カサンドラ、楽しそうだね」

「うん、そうだね。凄くリラックスしてる感じがする」


 今までのカサンドラは、どちらかというと軍人ぽくて、いつも緊張した面持ちをしているイメージだった。

 再会直後にも思ったけど、エリナと仲良くしてたのも驚きだ。そんな事が影響して、カサンドラの緊張がほぐれてきたのかもしれない。


「……いい感じじゃないかな」

「うん、そう思う」


 キャルも笑った。キャルは自分を操る白夜の呪宝が奪われて、本当は心細いはずだ。けど、こうやって微笑んでくれてる。……僕がしっかり守らないと。


 食材をしこたま買うと、我に返ったようにカサンドラが言った。


「な、なんか私……うかれてたような気がするが」

「楽しそうだったよ」


 キャルが笑って言った。と、カサンドラも微笑を浮かべる。


「そうだな、凄く楽しかった。隊長時代は、より軍人ぽくあらねばならないと思って、街で買い物をするなど最小限だったからな……」

「自分に厳しすぎるんだよ、カサンドラは」


 僕がそう言うと、カサンドラが笑みを洩らした。


「エリナにもそう言われたよ」

「エリナさんが?」

「ああ。もっと力を抜いて生きてみろって。――まあ、力を抜くというのは、武でも最も重要なことでもある。そんな事を、あいつに教わるとは思いもしなかったが」


 カサンドラはそう言って笑みを浮かべた。

 エリナを『あいつ』って呼ぶのか――よっぽど仲良くなったんだろうな。


 僕らは買い物を終えると、集合場所である『月光堂書店』へと向かった。

 書店に入ると、予想通りエリナとジョレーヌの話声が聞こえる。


「――いや、やっぱりね~、サラディーヌはミハイル隊長メインだとしても、その脇にラガルド、ケリー、コットみたいな個性派イケメンが控えてるのがいいんだよね~。けど、私的にはアンドワード将軍とか、ちょっと好みなワケよ」

「……おじ専?」

「そうじゃないんだけど! 渋いじゃない、アンドワード将軍! 頼りになるわ~って感じ? ……っていうか、なんでそんな言葉知ってんの?」

「この間、エリナに教わったから」

「そうだっけ?」


 ――何を教えてるんだ、この人は?


「ジョレーヌさん、こんにちは」

「あ、クオンさんにキャルちゃん、それにカサンドラね。いらっしゃい」


 緑の髪をボブにして、眼鏡をかけたジョレーヌが僕らに挨拶する。

 カサンドラが少し緊張した面持ちで、口を開いた。


「エリナから聞いてはいたが、会えて光栄だ。よろしく」


 その挨拶を聞いて、ジョレーヌは表情も変えずにエリナを見た。


「――聴いてはいたけど、凄く真面目な人ね」

「大隊長ってのは、これくらいじゃないと務まらないんだ」


 そう言ってエリナが笑ってみせる。


「もう、リアル『魔導剣姫サラディーヌ』の感じだろ?」

「う~む……ビジュアルもいい感じ」

「これでいて、ちょっと抜けた可愛いところがあるんだよ。それがまたいいんだ」


 エリナの言葉に、カサンドラが引きつった顔を見せる。


「お前、ジョレーヌに私の何を吹き込んでいるんだ?」

「いやあ、まさにヒロインだと紹介してるだけだよ」


 エリナの悪びれない様子に、カサンドラが少し顔を赤くした。


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