表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

173/239

6 最後の一人


 僕の提案に、スルーが驚きの声をあげた。


「え? いいの? そりゃあ、あたしたち行く処ないけれど……」

「ゲストルームを作ったばかりなんだ。そこにいて、今後のことのメドをたてればいんじゃないかな」


 そう答えると、ハルトが真面目な顔をして言った。


「しかし……敵だった我々を受け入れるというのは、心理的にも経済的にも負担なのではないか? 迷惑をかけることになるが――」

「迷惑なら今までの方がずっと迷惑だったよ。けど……これからはそうじゃないんでしょ?」


 僕は軽く笑ってそう言った。

 と、シグマがいきなり僕と肩を組んで、声をあげる。


「さすがクオン! やっぱりダチ想いの奴だぜ!」

「……いつからダチなんですか?」

「強敵と書いて『とも』と読む! そうだろう!」


 ……まあ、いいか。悪い人じゃあ、ないんだし。ディギナーズの面々は、戸惑いの表情もありながら立ち上がる。ダメージは抜けてるみたいだ。


 みんな、こうして話すとごく普通の人たちだ。……どうして、この人たちと戦うことになったんだろう? なんて、ふと思う。


 ギュゲス・ネイが彼らをまず洗脳して自分の配下にしてた。その時、ギュゲスに出資してたバルギラの配下にもなるようにしてた。そしてギュゲスが死んで、ディギナーズはバルギラの部下になった――


「……できればだが、ビジョンやポートそれにもう一人も…洗脳から解放してやりたい」


 ハルトがそう口にした。


「もう一人、ディギナーズがいるんですか?」

「いるぜ! 『ワン』が」


 僕の問いに、シグマが答える。が、ふとその顔に厳しい影がよぎった。


「『ワン』はディギナーズの中で……いや、オレの知ってる限りの最強の男だ。オレは――あいつと手合わせして、一度も勝ったことがない」

「え? あなたが?」


 シグマはちょっと性格はヘンだが、強さは本物だ。

 そのシグマが一度も勝てない相手って――


「一体、どんな異能を持ってるんですか?」

「判らん」


 シグマは即答する。


「あいつは剣士だ。異能を使う前に、オレはいつも倒されてた……。あいつの気力はオレの装甲をも貫く。気力だけでも、とてつもないが――あいつの剣技がとにかく凄い……オレのような見た感じのカッコよさを求めるものではなく、研ぎ澄まされた日本刀のような男だ」


 シグマの言葉に続いて、ハルトが口を開いた。


「一度訊いたことがあるが――彼は前世では剣道七段だったそうだ」

「七……段?」


 なんだそれ? 凄すぎて次元がよく判らない。


「八段の最高位を目指していたらしいが、志なかばで亡くなったそうだ。が、このノワルドに来て、彼は嬉しかったらしい。それは『本当の戦いというものの中に身を置くことで、自分は本当の剣を目指せるからだ』と、言っていた」


 ――なんか、凄みのある言葉すぎて、正直なんと言っていいか判らない。

 が、そこでふと、カサンドラが口を開いた。


「興味深いな。是非、手合わせしてみたいものだな」

「俺もだ」


 ランスロットがそれに続いて声をあげる。剣士の性ってやつなのかな?

 まあ、まだ見ぬ『ワン』のことは置いといて――


「じゃあ、とりあえずオーレムに帰りましょう。けど、ガドとスーに会っていかないと。エリナさんたちは場所を知ってるんですよね?」

「ああ、少し降りた宿場街にいた。行こうか」


 僕らは連れ立って、キャルも泊まったあの宿場に戻る。

 その一角の宿屋に入ると、エターナル・ウィスルの面々がいた。


 髪を短く切り上げたレガルタスが、僕を見て声をあげる。


「お、クオンたち。下山したか。目的のものは手に入れたのか?」

「一度は入手したんですが……結局、バルギラの配下に奪われてしまいました」

「やはり、クエストの報奨金は出すつもりがなかったということか。バルギラのやることは、今後、注視する必要があるな――」


 レガルタスは顎に手をあてて、思慮深げな表情をみせた。

 僕はレガルタスに礼をした。


「レガルタスさん、色々ありがとうございました」

「クオン、同じ冒険者同士だ、『さん』づけはよせ。…こっちがオッサンだと意識しちまう」

「あ、すみません」

「冗談だ! はっはっは!」


 するとランスロットが傍に来て、レガルタスに頭を下げた。


「ガドとスーのこと、ありがとう」

「礼ならジージョに言うんだな。助けたのはあいつだし」


 ランスロットは傍に椅子に座っていた、太目のジージョにも頭を下げた。


「ジージョ、ありがとう。本当に助かった」

「フォッフォッフォ。まあ、冒険者同士、持ちつもたれつ、ですな。ガドとス-は二階の部屋で休んでいるので、会っていくのがよろしいでしょう」


 ランスロットはそれから、二階へ上がっていく。僕とミレニアも、その後についていった。


「ガド、スー、入るぞ」


 ランスロットがドアを開けると、ベッドが並んでてガドとスーが既に身を起こしている。

 ガドが口を開いた。


「帰ってきたか、クオン。……さっぱりした顔をしてるじゃないか、ランスロット」

「お前達を撃った兵器を作った奴を――倒した。ガド、スー、すまなかった」


 ランスロットが頭を深々と下げる。

 と、ガドがベッドを降りてきて、ランスロットに近づいた。


「おい、顔を上げろ」


 ランスロットが頭を起こす。と、ガドがその顔をいきなり殴った。


「ガド!」


 ミレニアが声をあげる。が、構わず、ガドはランスロットに言った。


「謝るんじゃない! お前が下した決断は、その時々で間違ってはいなかった。男は自分の生き方のために、新しい場所へと旅立つこともある。だから、お前の決断は別に謝ることじゃないんだ。ただ……その道が、違っていると感じて、元の道がやはり自分の歩むべき道だと思ったんなら、ただそう言えばいいんだ。――オレたちと、もう一回組みたいのか?」


 殴られたランスロットが、顔を戻してガドを見る。

 ふっ、とランスロットが笑みを洩らした。


「ガド……それにスー――もう一度、俺たちと組んでくれるか?」

「……当たり前だろ!」


 ガドがぐっと腕を突き出す。

 ランスロットは笑うと、その腕にぐっと腕を絡ませた。


「はいはい、これでボルト・スパイク再結成ってことでいいんだよね?」

「クオン、色々、ありがとうな」

「いや、お礼を言われるのはこっちだけど。ボルト・スパイクに助けてもらわなかったら、やられてたかもしれない。けど……みんなの力でなんとか乗り切ったんだ。これからも、何かある時は力を貸してほしい。僕らももちろん、君らの力になることを惜しまないよ」


 僕はそう言って微笑んでみせた。

 ランスロットとガドも笑みを浮かべている。スーは細い眼を、さらに細くして微笑していて、ミレニアはこっそり涙ぐんでいた。


「じゃあ、一緒に戻る?」

「いや……俺たちはガドとスーが完全に治るまで、少しここに留まるよ。色々、今後の事も含めて話したいこともあるしな。それに――クオンは、ディギナーズを連れて行くんだろ?」


 ランスロットの言葉に、僕は頷いた。


「なんだ、敵が味方になったのか?」

「そんなとこ。しばらくゲストハウスに入ってもらうことになると思う」


 僕の答えを聞いて、ガドは笑った。


「そりゃあ、長逗留になりそうだな。なにせ、あそこは居心地がいいからな」

「元々、ボルト・スパイクが来た時をイメージして作ったゲストハウスだったんだけどね。妙なことになっちゃった」


 ランスロットが声をあげる。


「ゲストハウス? そんなものができたのか?」

「ああ、最高の出来だぜ! なにせ、オレも手伝ったからな!」

「フフ……落ち着いたら、今度、遊びに行こう」


 僕はボルト・スパイクに別れを告げて、一階に降りた。

 裏に停めてあったブランケッツ号にディギナーズを乗せて、同調のコツを教えると、僕はブランケッツ号を引いた。


 ふと見上げると、迷宮のあったカスカル山を見上げる。聳え立つカスカル山は、白い雪を被って美しかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ