6 最後の一人
僕の提案に、スルーが驚きの声をあげた。
「え? いいの? そりゃあ、あたしたち行く処ないけれど……」
「ゲストルームを作ったばかりなんだ。そこにいて、今後のことのメドをたてればいんじゃないかな」
そう答えると、ハルトが真面目な顔をして言った。
「しかし……敵だった我々を受け入れるというのは、心理的にも経済的にも負担なのではないか? 迷惑をかけることになるが――」
「迷惑なら今までの方がずっと迷惑だったよ。けど……これからはそうじゃないんでしょ?」
僕は軽く笑ってそう言った。
と、シグマがいきなり僕と肩を組んで、声をあげる。
「さすがクオン! やっぱりダチ想いの奴だぜ!」
「……いつからダチなんですか?」
「強敵と書いて『とも』と読む! そうだろう!」
……まあ、いいか。悪い人じゃあ、ないんだし。ディギナーズの面々は、戸惑いの表情もありながら立ち上がる。ダメージは抜けてるみたいだ。
みんな、こうして話すとごく普通の人たちだ。……どうして、この人たちと戦うことになったんだろう? なんて、ふと思う。
ギュゲス・ネイが彼らをまず洗脳して自分の配下にしてた。その時、ギュゲスに出資してたバルギラの配下にもなるようにしてた。そしてギュゲスが死んで、ディギナーズはバルギラの部下になった――
「……できればだが、ビジョンやポートそれにもう一人も…洗脳から解放してやりたい」
ハルトがそう口にした。
「もう一人、ディギナーズがいるんですか?」
「いるぜ! 『ワン』が」
僕の問いに、シグマが答える。が、ふとその顔に厳しい影がよぎった。
「『ワン』はディギナーズの中で……いや、オレの知ってる限りの最強の男だ。オレは――あいつと手合わせして、一度も勝ったことがない」
「え? あなたが?」
シグマはちょっと性格はヘンだが、強さは本物だ。
そのシグマが一度も勝てない相手って――
「一体、どんな異能を持ってるんですか?」
「判らん」
シグマは即答する。
「あいつは剣士だ。異能を使う前に、オレはいつも倒されてた……。あいつの気力はオレの装甲をも貫く。気力だけでも、とてつもないが――あいつの剣技がとにかく凄い……オレのような見た感じのカッコよさを求めるものではなく、研ぎ澄まされた日本刀のような男だ」
シグマの言葉に続いて、ハルトが口を開いた。
「一度訊いたことがあるが――彼は前世では剣道七段だったそうだ」
「七……段?」
なんだそれ? 凄すぎて次元がよく判らない。
「八段の最高位を目指していたらしいが、志なかばで亡くなったそうだ。が、このノワルドに来て、彼は嬉しかったらしい。それは『本当の戦いというものの中に身を置くことで、自分は本当の剣を目指せるからだ』と、言っていた」
――なんか、凄みのある言葉すぎて、正直なんと言っていいか判らない。
が、そこでふと、カサンドラが口を開いた。
「興味深いな。是非、手合わせしてみたいものだな」
「俺もだ」
ランスロットがそれに続いて声をあげる。剣士の性ってやつなのかな?
まあ、まだ見ぬ『ワン』のことは置いといて――
「じゃあ、とりあえずオーレムに帰りましょう。けど、ガドとスーに会っていかないと。エリナさんたちは場所を知ってるんですよね?」
「ああ、少し降りた宿場街にいた。行こうか」
僕らは連れ立って、キャルも泊まったあの宿場に戻る。
その一角の宿屋に入ると、エターナル・ウィスルの面々がいた。
髪を短く切り上げたレガルタスが、僕を見て声をあげる。
「お、クオンたち。下山したか。目的のものは手に入れたのか?」
「一度は入手したんですが……結局、バルギラの配下に奪われてしまいました」
「やはり、クエストの報奨金は出すつもりがなかったということか。バルギラのやることは、今後、注視する必要があるな――」
レガルタスは顎に手をあてて、思慮深げな表情をみせた。
僕はレガルタスに礼をした。
「レガルタスさん、色々ありがとうございました」
「クオン、同じ冒険者同士だ、『さん』づけはよせ。…こっちがオッサンだと意識しちまう」
「あ、すみません」
「冗談だ! はっはっは!」
するとランスロットが傍に来て、レガルタスに頭を下げた。
「ガドとスーのこと、ありがとう」
「礼ならジージョに言うんだな。助けたのはあいつだし」
ランスロットは傍に椅子に座っていた、太目のジージョにも頭を下げた。
「ジージョ、ありがとう。本当に助かった」
「フォッフォッフォ。まあ、冒険者同士、持ちつもたれつ、ですな。ガドとス-は二階の部屋で休んでいるので、会っていくのがよろしいでしょう」
ランスロットはそれから、二階へ上がっていく。僕とミレニアも、その後についていった。
「ガド、スー、入るぞ」
ランスロットがドアを開けると、ベッドが並んでてガドとスーが既に身を起こしている。
ガドが口を開いた。
「帰ってきたか、クオン。……さっぱりした顔をしてるじゃないか、ランスロット」
「お前達を撃った兵器を作った奴を――倒した。ガド、スー、すまなかった」
ランスロットが頭を深々と下げる。
と、ガドがベッドを降りてきて、ランスロットに近づいた。
「おい、顔を上げろ」
ランスロットが頭を起こす。と、ガドがその顔をいきなり殴った。
「ガド!」
ミレニアが声をあげる。が、構わず、ガドはランスロットに言った。
「謝るんじゃない! お前が下した決断は、その時々で間違ってはいなかった。男は自分の生き方のために、新しい場所へと旅立つこともある。だから、お前の決断は別に謝ることじゃないんだ。ただ……その道が、違っていると感じて、元の道がやはり自分の歩むべき道だと思ったんなら、ただそう言えばいいんだ。――オレたちと、もう一回組みたいのか?」
殴られたランスロットが、顔を戻してガドを見る。
ふっ、とランスロットが笑みを洩らした。
「ガド……それにスー――もう一度、俺たちと組んでくれるか?」
「……当たり前だろ!」
ガドがぐっと腕を突き出す。
ランスロットは笑うと、その腕にぐっと腕を絡ませた。
「はいはい、これでボルト・スパイク再結成ってことでいいんだよね?」
「クオン、色々、ありがとうな」
「いや、お礼を言われるのはこっちだけど。ボルト・スパイクに助けてもらわなかったら、やられてたかもしれない。けど……みんなの力でなんとか乗り切ったんだ。これからも、何かある時は力を貸してほしい。僕らももちろん、君らの力になることを惜しまないよ」
僕はそう言って微笑んでみせた。
ランスロットとガドも笑みを浮かべている。スーは細い眼を、さらに細くして微笑していて、ミレニアはこっそり涙ぐんでいた。
「じゃあ、一緒に戻る?」
「いや……俺たちはガドとスーが完全に治るまで、少しここに留まるよ。色々、今後の事も含めて話したいこともあるしな。それに――クオンは、ディギナーズを連れて行くんだろ?」
ランスロットの言葉に、僕は頷いた。
「なんだ、敵が味方になったのか?」
「そんなとこ。しばらくゲストハウスに入ってもらうことになると思う」
僕の答えを聞いて、ガドは笑った。
「そりゃあ、長逗留になりそうだな。なにせ、あそこは居心地がいいからな」
「元々、ボルト・スパイクが来た時をイメージして作ったゲストハウスだったんだけどね。妙なことになっちゃった」
ランスロットが声をあげる。
「ゲストハウス? そんなものができたのか?」
「ああ、最高の出来だぜ! なにせ、オレも手伝ったからな!」
「フフ……落ち着いたら、今度、遊びに行こう」
僕はボルト・スパイクに別れを告げて、一階に降りた。
裏に停めてあったブランケッツ号にディギナーズを乗せて、同調のコツを教えると、僕はブランケッツ号を引いた。
ふと見上げると、迷宮のあったカスカル山を見上げる。聳え立つカスカル山は、白い雪を被って美しかった。




