5 ディギナーズの過去
僕の言い草に、シグマはまだ半分寝ている状態で怒鳴った。
「黙ってろとはなんだ! クオン、もう一度オレと勝負しろ!」
「あのさあ、治してもらってるのに、もう勝負とかありえないでしょ。ちょっとは状況を見て物を言ってください」
「う…む……」
シグマは改めてエリナの方を見ると、エリナがスルーの耳裏から黒いものを抜き出すのを見た。
「げっ! なんだあの気持ち悪いものは!?」
「あなたの耳裏にもあったんだからね。それを除去してるの」
「な……なんだと…」
さすがのシグマも絶句して黙る。
全員の除去が終ると、エリナは全員に回復用の治癒をしていった。
「ふぅ~……働きづめだね。スーの力が欲しかったなあ」
エリナが息をついて、汗を拭いた。
四人の目覚めたディギナーズは、まだぼんやりとして地面に座っている。
「どうですか、皆さん、調子は?」
僕の問いに戸惑ったように、四人は互いを見回した。
「調子は……悪くないが――どういうことだ? 何故、我々を助けた?」
「訊きたいことがあるんですよ。バルギラが『白夜の呪宝』を使って、何を企んでるのか知らないかと思いまして」
僕の言葉に、シグマがすぐに反応した。
「オレたちがバルギラ様を売ると思ったら、大間違いだ! もう一度倒されてても、何も喋らんぞ!」
「そんなにバルギラを敬ってるんですか? バルギラの何がそんなに魅力的なんです?」
「それは――」
スルーが即答しようとして、不意に固まる。
「……え? なに??」
「これ――どういう事なの……?」
カエデも、ダルそうな眼を見開いて当惑している。
そこでハルトが、はっきりと口にした。
「我々は……何故、バルギラを信奉してたんだ?」
ハルトの言葉に、シグマ、カエデ、スルーが目を見開く。
だが、その言葉が真実が含まれていると感じてることは、一目瞭然だった。
「あなたたちは、バルギラに洗脳されていたんですよ。今なら判るんじゃないんですか?」
僕は呆然としているディギナーズに、そう言った。
全員が、その言葉を理解したようだった。
「……アタシ、バルギラ様に褒められること以外、考えてなかったわ~。今なら判る」
カエデがダルそうな眼で、そう口にした。
と、突然、シグマが立ち上がる。そして拳を握りしめた。
「クソッ! なんてことだ! まさか悪の組織に利用されてしまうとは! オレは一体……なんのためにこの力を手に入れたんだ――」
いやあ…なんかヒーローみたいな苦悩を抱えてるぞ、この人。
しかし、それはともかく、こっちには訊きたいことがあるんだ。
「それでですね、皆さんはバルギラが何故、こんなに青炎を手に入れる事にこだわってるのか、ご存知ないですか?」
「私とカエデは一番後にディギナーズ入りしたが……何も聞かされていない」
ハルトがそう答え、カエデも頷く。
シグマが口を開いた。
「オレは何も知らない。スルー、知っているなら教えてくれ! 奴の悪の陰謀を!」
「あたしも知らないわよ。……っていうか、バルギラ様って悪なの?」
「オレたちを洗脳したんだぞ! 悪に決まってるだろう!」
シグマの声とは別に、ランスロットが重々しく口を開いた。
「バルギラの計画によって、開都護衛隊に志願した50人近くが、ウェポンの兵器の犠牲になった。ウェポンが暴走したわけじゃなく、その行動は容認されていた。……少なくとも、俺はバルギラを許さない」
ランスロットの迫力に、スルーは押し黙った。
僕は言葉を続けた。
「僕たちにとっては、バルギラはキャルの一族――シャレード族を皆殺しにして、キャル本人を奴隷にしようとしている張本人です。これ以上、説明必要ですか?」
「判ったわ。……やっぱり…あたしたち、間違ってたのね――」
スルーがため息をついた。
「なんかね……ちょっとおかしい気はしてたんだ。それでいて、あたなたちは戦ったあたしたちを治癒したりするし。あたしは二度もあなたに治癒された」
スルーはそう言って、エリナを見る。
エリナは軽く眉を上げた。
「……とはいえ。これからあたしたち、どうしたらいいの?」
スルーはそう言って、他のディギナーズを見た。
「オレはバルギラと戦う! 一旦闇落ちしても、オレは正義の心を取り戻したのだ!」
「はいはい、あんたはそれでいいかもしれないけど、具体的にどうするって話よ。あたしたちの住居や財産――全部、バルギラに貰ったものなのよ?」
そこまで言うと、丸髪のスルーはその頭を抱えた。
「結構、あたしたち贅沢してたじゃない。ああ、あたしにも運が回ってきた、あとは素敵な結婚相手をこの世界で見つけるだけ――とか思ってたのに!」
「そんな事、思ってたんだ」
カエデがそのダルそうな眼を、感心したように細める。
「あたしはね! 前世は商社勤務のOLだったのよ。経理とクレーム処理を二重でこなす激務に耐えて、通らない領主書や難癖まがいのクレームを華麗にスルーするのが、あたしの仕事だったのよ!」
凄いと思うけど……それ結構、ブラックな会社なんじゃ?
「だからね、そもそも霊力を使って戦うとか、そういうのとは無縁の人間なの! 月9のドラマとジム通いと、婚活があたしの世界だったのよ。それが何!? 異世界転生して悪の手先になってました。もうすぐ正義のパーティーに滅ぼされそうです――って、どうしてあたしの人生、どうしてこんなんになっちゃったの~!!!」
スルーが声をあげる。あ~、そういう人なんだ、この人。
「けっこう、よさげな前世じゃん。なんで死んだの?」
またこのカエデって人は、全然、言葉を選ばないな~。
「それが……婚活パーティーで知り合って、一回だけデートした相手がストーカーになっちゃって、そいつに刺されて死んだ」
「前世でも戦ってんじゃん!」
カエデがゲラゲラ笑い出す。スルーは怒りだした。
「なに、人の人生笑ってんのよ! そういうカエデはどうなのよ!?」
「アタシはね~、美容師だったんだ。結構、売れっ子――というより、凄い売れっ子。もう、アタシが10人くらい欲しかった。んで、経営者でもあったのね。それがたたって、過労死」
そうか、カエデの複製能力もスルーのスルー能力も、やっぱり前世からの希望の能力なのか。
と、スルーはハルトに眼を向ける。
「ねえ、ハルトは?」
「私は中学の数学の教師だ。2次方程式の解き方とかを教えていた」
「あ、それっぽい」
カエデが口にする。確かに。位置入れ替えね、なるほど。
ハルトは続けて言った。
「死んだのは進行性の速いすい臓がんだ」
「オレは、スーツアクターをやっていた!」
すると訊かれてもないのに、シグマが声をあげた。
「特撮ヒーローのスーツの中でアクションをする仕事だ。ある日オレは高所撮影に臨んだのだが、うっかり足を滑らせて落下してしまった。高所と言っても、3mくらいだ。しかし打ちどころがわるかったらしい。――どうだ、意外な過去だろ!」
「「全然」」
カエデとスルーが声を揃えて言う。
そのタイミングが合ったことで、スルーとカエデは眼を合わせて噴き出した。
ふと、スルーがこぼす。
「あたしたち仲間だったけど……全然、こういう話しなかったね…」
「だって…バルギラ様のことしか頭になかったもん」
カエデの言葉に、ディギナーズは黙った。
ふと、カサンドラが口を開く。
「何かに心を操られることは、とても辛いことだ。けど、それから自由になったのなら、ちゃんとやり直せる」
「けど……行く場所もないし――やり直せるアテもないよ」
スルーの言葉に、カサンドラは僕を見た。あ……そう来ますか。
僕はエリナとキャルを見る。二人が苦笑していた。了承ね。
「それじゃあ、みんな――とりあえず、うちに来ますか」
僕はディギナーズに、そう提案した。




